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俺式異世界冒険譚!  作者: 明智 烏兎
第二章 ~失って得たものは~
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死闘の予感

 それから旅は順調に進んだ。途中、リピオの持つ荷物を一緒に持ってやったり、約束通り遊んでやったりしたせいか、リピオはすっかり俺に懐いてくれた。夜は毎晩俺の隣で寝るようにもなった。ただ、ルナにしてみればそれはやはり面白くなくて、つまらなそうにしている事もしばしばあったけど。


 でも大丈夫! そんな時は、エゼキエルを一緒に読んだりするとルナは機嫌が良くなる。ルナは割りと話をするのが好きらしくて、また褒められたりするのも好きなようだった。まるで犬のようだ、なんて本人に言ったら、たとえ“良い意味で”と付け加えても怒るだろうから言わないけどな。


 あと、ルナはアガムの説明をするのは好きらしいんだけど、アガム自体を良く思ってはいないっぽい。なぜなのか尋ねてみたが、ルナにもその理由や、いつからそうなったのか、といった部分は分からないらしい。まぁ、この世界の人にとってはアガムなんて珍しくもないものだろうし、俺のように過剰に興味を示す人間の方がかえって希少なのかもしれない。


 時折襲い来る魔物達もそれほど手強くはなく、俺にとってはむしろ格好の剣の練習相手と言えた。暇さえあればエゼキエルを読み、理というものを理解しつつある。実感は薄いけど、俺のアガムの威力も少しずつ強まっていっている……と思いたい。


 そして、旅立ちの日から四日目の夕方。俺達はようやく屋敷から最寄の村、“レイドポート”に到着した。ここは目的地である“首都ガイルロード”までの一つの通過点に過ぎないが、俺達の目的はあくまで“アポカリプス”の奪還だ。ガイルロードを目指すのはそこに多くの情報が集まるからであって、俺達の旅には“目的地”というものがない。つまり、立ち寄る町村でアポカリプスについての情報を集める事こそが、俺達の旅の具体的な形と言えるだろう。


 俺達が宿屋にチェックインするのを待っていたかのように、茜色の空は一気に紺碧の海と化し世界を包み込んだ。闇と静寂を追い払うかのような日本の夜とは違う、静かで優しい、柔らかなグランスフィアの夜。村を照らすのは街灯ではなく、小さく揺れる灯の光だった。

 俺達は二つの部屋をとり、それぞれの部屋で旅の疲れを癒すように深い眠りについた。


 ……かと思いきや。


「何寝ようとしてるのカエデ! 準備してさっさと来なさいよね!」


 ふいにルナがノックもなしに俺の部屋に飛び込んできて、開口一番そう言った。


「おおルナ、さっさと来いって……どこに? 夜這いに来いって事?」

「えっ……ちちちがっ、違うわよッ!! 一緒に酒場に行くの! 馬鹿言ってないで、早く準備して!」


 俺の冗談にルナが真っ赤になって答えた。ルナはもしかしたら下ネタが苦手なのかもしれない。……からかいがいがありそうだな~。

 まぁそれはともかく、確かにRPGで夜の酒場といえばそこは情報収集にはもってこいの場所だ。グランスフィアはRPGじゃないけど、きっと例外じゃないだろう。俺は特に準備するでもなく、剣だけを携えてルナ達と一緒に酒場へと向かうのだった。



 ──数時間後。

 結局俺達はアポカリプスの情報を何一つ得られないまま酒場から宿に戻ってきた。


〈怪しい剣、または剣が入りそうな箱か袋を持った人間を見かけませんでしたか?〉


 その問い掛けに、酒場に来ていた全ての人が首を横に振って答えたのだ。

 当然と言えば当然だ。盗人がいつまでもこんなところに留まってる訳ないし、そもそも盗品を見せびらかしながら歩くとは到底思えない。

 ルナは落胆を隠せない様子だったが、俺は内心「まぁこんなもんだろ」と納得していた。しかし、村といってもここはかなり広い。まだ聞き込みをする余地は充分にある、と前向きに考える事もできる。食料や水の調達もしてないし、明日それを兼ねてまた聞き込みをしようという事で、今度こそ俺達はそれぞれのベッドへ潜り込むのだった。


「ふわ~~あ……今日は駄目だったけど、明日はルナが笑顔になるような情報があるといいよな」


 四日振りの柔らかなベッドの感触に、俺はすぐに深い眠りの世界へといざなわれていった……。



 ──翌日。

 長旅で疲れていたせいもあって昼近くまで眠っていた俺達は、昼食をとってから予定通りに村で聞き込みを始めた。夕暮れに訪れて、夜に歩いた村だ。明るい日差しの下で見るレイドポートは昨日とはまた違った趣で見え、まるで別の村に来てしまったかのような錯覚を覚える。

 アポカリプスは降魔剣……つまりは武器だ。なので本日の聞き込みは主に武器屋を中心に行った。盗人がここで剣を売却した可能性があるからだ。まぁ、まずあり得ないとは思うけど。


 村の西端にある宿屋から始まり、東端へ。そして、また西端へと、往復する形で村を回る。再び宿に戻って来た時には、空は村に来て二度目の黄昏を迎えていた。


「……結局有力な手掛かりは無し、と。骨折り損のくたびれ儲けって言葉、グランスフィアにはない?」


 宿屋の俺の部屋。棒になった足を揉み解しながら俺は誰にともなく言った。


「え? ん~、ないねぇ。ふふっ」


 俺の問いに答えたのは、もちろんルナ。アポカリプスの手掛かりが得られなかったというのに、なぜか異様に上機嫌だ。


「ルナ? 何か機嫌がいいね。村で何か良い事あったっけ?」


 思わず尋ねる俺。するとルナはニコニコと笑って答えた。


「んふふふふ~、分からない? ああ、この驚きと感動が分からないなんて損な事この上ないねぇ」


 ルナが上機嫌な理由、俺にも一応心当たりがなくもない。


「……ひょっとして、“宝石眼ほうせきがんの竜”って奴の事か?」

「うんうんそれそれその通り! はぁ……あの宝石眼の竜が『竜洞穴』に居るなんてね~」


 うっとりとした顔でルナが呟く。


 ──宝石眼の竜。


 今日の聞き込みでアポカリプスの手掛かりの代わりに得られた、唯一の情報。ここレイドポートの南西にある竜洞穴という場所に、最近になって宝石眼の竜が出現したらしい。


「ねえ、それって一体何なんなの? そんなにすごい事なのか?」


 至極当然な質問を俺はルナに投げ掛けた。


「すごいよ~。宝石眼の竜っていうのはね、文字通り宝石の眼を持ったドラゴンの事で、このグランスフィアでは伝説的な存在なの。何せ世界に8頭……いや、今は7頭だったかな? とにかく7頭しかいないし、その宝石眼にはとてつもない力が秘められているの。たとえるなら、一瞬にして町一つを滅ぼせるくらいの力がね。大昔、一つの国が力を持ち過ぎたために世界のバランスが崩れた時、宝石眼の竜がその力で世界の調和を取り戻したという伝説から、“均整の化身”とも言われてるの。竜洞穴っていうのはここから南西にある洞窟の事で、その昔そこにはすごい宝物がたくさん眠っていて、それを護っていたドラゴンがいた事からその名前がついたんだよ」


 得意げに話すルナは、いつにも増して饒舌だ。随分と詳しいなぁ……。


「なるほど……で? ルナはその宝石眼の竜の情報を聞いてからやたら嬉しそうにしてるみたいだけど……ひょっとして宝石眼が欲しい、とか?」


 さっきからずっと気になっていた事を口にする俺。宝石眼の事をこれだけ絶賛する以上、聞くまでもなくそうなんだろうと思ってたんだけど、意外にもルナの返答は俺の予想と違っていた。


「違うよ、欲しいわけじゃないの。……カエデは知らないだろうけどね、メイガスにはある有名な武勇伝があるんだ。それは、『たった一人で宝石眼の竜に挑み、それに打ち勝った唯一の人間』っていうものなの。私一人じゃ絶対に無理だけど……カエデと力を合わせればきっと倒せると思ったから。倒して、少しでもメイガスに近づけると思ったから……。だから、滅多に姿を現さない幻の竜の一頭がすぐ近くにいるかもしれないんだって知ったら、私、嬉しくて……」


 ルナは俯き、声の調子を低くしてそう告げた。


 嬉しくて……。

 そんな言葉とは裏腹に、俺には今のルナがとても悲しげに見える。嬉しいならもっと嬉しそうな顔をすればいいのに、どうしたんだ?

 よく分からんけど、宝石眼の竜に挑みたいってのは本心だろう。でも、俺にはルナが望んでいる言葉を与える事はどうしても出来なかった。正直言って……不安、だったからだ。


「ごめんルナ。がっかりさせると思うけど……俺は賛成できないよ。均整の化身なんて呼ばれるような……倒したら伝説になるくらいすごい化け物相手に、俺達だけで勝てるなんて俺には思えない」


 そんな俺の意見を、案の定ルナは受け入れようとはしなかった。すがるような眼で俺を見つめ、必死になって俺を説得しようとする。


「何? 倒せる、倒せるよ! カエデはお父さんにも勝って、あれからアガムの腕も上がったし、私だって足手まといにはならないもの! 滅多にないチャンスなんだよっ!?」

「ん~……でも、なぁ……」

「ほら、カエデだってはっきりしないじゃない! 迷ってるんでしょ? だったら行こうよ! 早くしないといなくなっちゃうかもしれないし、明日竜洞穴に行くからね! 決まり、もう決まったから。よおぉ~し、明日のために早く寝なきゃ! おやすみ~!」


 言うが早いか、ルナはさっさと部屋を出て行ってしまった。リピオはしばらくオロオロと足踏みしていたが、俺がルナのところに行ってやるように言うと、俺を気にしながらもルナの後を追っていった。


 一人になり、俺はしばらく壁を見つめていた。見つめ返してくる木の壁に、先程のルナの顔が浮かぶ。追い詰められたような、焦燥にかられたような、そんな表情だった。俺の知らないルナを見た気がした。

 俺は部屋の明かりを落とし、ベッドに腰を下ろす。枕元に立て掛けられた愛用の剣、ソーマヴェセルを手に取り、おもむろに鞘から引き抜いた。


「宝石眼の竜……か。そんな奴、本当に俺なんかが倒せるのか? ……ルナを、護れるのか? 俺……また後悔してるよ……」


 返した刃に窓からの月光が反射し、部屋を白銀に照らし出していた……──。

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