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俺式異世界冒険譚!  作者: 明智 烏兎
第二章 ~失って得たものは~
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 ──ここは異世界【グランスフィア】。

 人間界を中心として、精霊界、神界、冥界の四つの次元からなる世界。

 剣があり、魔法があり、魔物がいる。様々な種族が共存・闘争する、小説やゲームの中でしか触れる事のできなかった、空想のような世界だ。


 グランスフィア暦2216年──人間界、ザーグガルド大陸北東。そこが、今俺がいる場所らしい。

 四大世界の中でも、ここ人間界の気候は特に地球に近い。取り分けこのザーグガルド大陸の気候は温暖で過ごし易く、まるで日本の春を思わせる。人間界は11大陸8カ国からなり、ザーグガルドは11大陸中もっとも広大な面積を誇る。


 その中央に位置する首都国『ガイルロード』はグランスフィア暦504年建国という、人間界において最も古い歴史を持つ国であり、また最大の国力を所有する。世界地図では常に中央に置かれ、“人間界の首都”といっても過言ではないだろう。

 国のシンボルは、金と人。それが示すように、首都ガイルロードにはたくさんの人や物品、情報が集まるという。


「とりあえず、そこが俺達の最初の目的地ってわけだ」

「? いきなり何言ってるのカエデ?」

「あれ、声に出てた? いや……ちょっと今までにルナに教えてもらった事を頭の中でおさらいしてたんだよ」


 答える俺に、不思議そうな顔をしていたルナは感心したように微笑む。


「うんうん、結構結構!  早くこの世界のコト覚えて、早くこの世界に慣れてね」


 いつ元の世界に戻れるかも分からないし、もしかすると一生戻れないかもしれない。それを考えるとこの世界について学ぶのは俺にとって非常に有益な事だ。そんな現実的な理由は抜きにしても、個人的に異世界の歴史や文化には興味があったので、俺は道中、ルナにグランスフィアに関する話をたくさん聞いた。

 お陰で押さえるべき要点は頭に入ったけど、それよりも俺は“ルナは博識だ”という事実に驚いた。意外……というわけでもないが、お互い第一印象は……まぁ、良くはなかったワケだし。


「ねえ、ガイルロードにはいつ頃着きそうかな?」


 隣を歩くルナに俺は尋ねた。


「カエデ、まさか今日中に着くとか思ってる? 」


 尋ねた俺は、逆にルナに尋ね返された。俺は黙って頷く。


「ん~、ガッカリさせるようだけど……全然着かないよ。徒歩だと順調にいって一週間くらい、かな? だから、今私達はその途中にあるレイドポートっていう村に向かってるの。そこまでだって、三日から四日はかかるよ」


 ルナは地図を広げ、トントンとそれを指で叩く。知らなかった……ゲームみたいに数分歩けば次の町! って訳にはいかないとは思ってたけど、そんなにかかるのか。というか……。


「あのさ、ちょっと気になったんだけどルーラントの屋敷って何であんな人里離れた場所に建ってるんだ?」

「あぁそれ? ほら、ウチってメイガスの遺産を管理してるじゃない? 中にはアポカリプスみたいな危険な物もあるわけだし、人がホイホイこれる場所にない方が都合がいいのよ」

「あ、そっか。でもそれだと不便じゃないか? 買い物とか」

「ん~、別に不便じゃないよ。食料品や衣料品、その他諸々必要な物は専属の商人さんが定期的に持って来てくれるから」

「へぇ……案外その商人がアポカリプス盗んだ犯人だったりして」

「あははっ、それはないよ。取り引きはいつも結界の外でやってるもん。仮に魔が差して不審な行動を取ったとしても、その時はお父さんがすぐに見抜くし」

「あ~、あの人ならそうだろうなぁ……」


 う~む、余計な詮索だったか。いい線いってればこれからの旅の方向性がいくらか絞れると思ったんだけど。……ま、人を疑わずに済むんならソレに越したことはないよな。


「はぁ~、それにしても首都まで一週間って遠いよなぁ。車さえ使えりゃ一瞬なのに……」

「くるま? 何それ?」


 嘆く息を盛大に吐き出しながら、俺は一人呟く。と、ルナが素早いレスポンスでもって食いついてきた。俺は分かりやすく、手短に答える。


「一言で言うと、ガソリンっていう液体を飲んで馬より早く走る箱だよ。十八歳以上の人間にのみ扱う事の許された大人の足──俺も免許さえ取りに行ってればすぐにも運転できたんだけどね……」


 まぁこの世界にはそもそも車がないみたいだけど、と付け加えて俺は肩をすくめて見せる。が、ルナは付け加えた言葉には耳を貸さずにピタリと硬直してしまった。


「か、カエデって……もしかして十八歳以上?」

「ん? うん、以上っていうか、今ちょうど十八なんだけど、それが?」


 答える俺の言葉にわなわなと震えるルナ。しばらく唖然として俺を見ていたが、ふいに小さく呟いた。


「カエデっててっきり私と同い年だと思ってたのに……二つも上だったんだ」


 その言葉に、今度は俺が驚く番だった。だってルナの身長は、お世辞にも高いとは言えない俺の背より、さらに十センチ以上低いのだから……。


「二つ!? じゃあルナって十六歳!? お、俺はてっきり……」


 その後に続くはずの言葉を俺は飲み込む。──十三、十四歳くらいかと思ってた──なんて正直に言ったら、即刻殴られてしまいそうな形相でルナが睨みつけてきていたからだ。


「てっきり……なんでしょーか? しょーじきに仰って頂けるとルナさん、怒らないであげるんですけどねぇ?」

「えっと……ほっ、ほら! 足が止まってるよ! さっき昼飯食ったばっかりなんだから、ドンドン進まないと、ね?」

「話を逸らすなーーー!!」


 喚くルナを無視して、俺はずんずんと前へ進んでいく。正直者、というわけではないが嘘が下手な俺には、こうするしかルナの追求から逃れる術はない。といっても、この行動自体がルナの疑惑を肯定している形になってしまっているのだが──。


「お?」


 今俺達が歩いているのは、地球の物でたとえるならちょっと大きめの乗用車がギリギリすれ違えるかどうかってくらいの細い街道だ。両脇には森という名の自然の壁が立ち並び、直進以外の順路はない。


「……ガウッ!」


 ん、どうやらリピオも気付いたみたいだな。立ち止まってルナの外套を引っ張り、停止のサインを出している。


「リピオ? どうしたの?」

「しっ……静かに。さっきから誰かに見られてるんだ」


 右手側の森の中から、何者かの気配を感じる。そして俺は、その気配が何なのか、おおよその見当を付けていた。この雑すぎる気配の消し方、垂れ流しの殺気……多分、人間のものじゃない。だとしたら、他に考えられるのは……。


「グゥォォオオオッ!!」


 そう……魔物だ。


「っしゃあッ!」


 茂みから飛び掛かってきたのは、四足の獣。リピオで見慣れてるタイプの魔物だった。だからという訳じゃないけど、不思議と恐怖心はない。


 ──シャキィンッ!


 鞘から抜いた勢いのまま、空中の獣を縦に割る。常人には振るえない大剣だ、その威力に不満は皆無。魔物は俺の一撃を受けて、地面に触れる前に世界から霧消した。


「ふぅ……」


 剣を鞘に戻し、一呼吸。剣術の心得なんて全くない。兄弟喧嘩以上の争いはした事がない。それでも、負ける気がしなかった。敵の気配をリピオより先に感じられた時点で、苦戦はありえないと俺の本能が告げていたからだ。


「わっ、何? 何今の? カエデすっごーい! 一瞬で魔物をやっつけちゃったよ!」

「はっはっは! いやぁ、別にそんな驚く事じゃないよ。相手が弱すぎたってだけさ」


 俺はこの世界に来てから、強くなっている実感があった。あったけど、初めての魔物戦がまさかここまで楽勝とは……ちょっとくらい調子にも乗りたくなるな。


「今のは“デスハウンド”って言って、かなり強い魔物なんですけど……」

「えっ、そうなんだ。ふっふ~ん、じゃあ訂正。俺が強すぎた……ただそれだけの事さ」

「こ~らっ! そうやってすぐ調子に乗るんだから……デスハウンドは群れで出てくるから強いって言われてるの。一匹だけ倒してもそこまで自慢にならなんだからね!」


 はいはい、どーせそんな事だろうと思ったよ。相手が弱すぎたのは事実だからな。でも確かに、群れで現れた時の対処法はイメージしておいた方が良さそうだ。俺の場合、ただ敵を倒す事が目標じゃない。仲間と無事に生き残る事、それが絶対条件なんだから──。

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