港攻防戦
日が沈みかけ辺りは鮮やかなオレンジになっている。海はそんな美しい光景をそのままに映し出している。港を少し離れた草原では先程から騎士団と謎の集団との戦いが繰り広げられている。
部隊長のアラドが到着した時には港を飛び出し戦場を草原へと変えていた。
港から攻めてきた集団はそれほどではなく騎士達で十分であったが黒フード・・・シャドウはそうはいかなかった。シャドウは魔物を召喚して戦わせている。
アラドが来るまでは押される一方であったが、今は何とか進撃を抑えている。それがいつまで持つか。
「さすが部隊長さんだね〜。僕のブラックベアを1人で相手しているんだから」
部隊長 アラドに感心してしまうシャドウ。
「それに比べてこっちは。・・・はぁ、ちょっとおじさん達〜!もうちょっと頑張ってよね〜!」
アラドと自分の協力者達を見比べてため息が自然と出る。
「うるせー、ガキがっ!お前は黙ってソイツ相手してろ!」
入港した時、シャドウの隣にいた親分が叫ぶ。親分も親分で騎士の相手で話している状態ではない。
「チェッ、ちょっと言っただけじゃないか〜。・・・それにすぐこっちがやられちゃ〜意味ないんだよね」
最後の方は小声で。この本当の作戦を知っているのは自分とルナ、セルシウスのみである。
「まっ、僕が頑張るしかないか」
そう言って目の前の相手、アラドに集中する。
「まだまだ終わらないよー!ここからが本番だー!」
自然と口元が緩む。
日が沈んでもなお続けられている。
「くっ、何なんだ!あのモンスターは」
長剣を携えたアラド。相手はただのベアではない。
2メートルの身長に黒い毛並み。両手には3本の爪。爪というより巨大な剣だ。
「アイツが闇の力で強化しているのか」
アラドの言っていることは当たっていた。ちなみにマリクが戦った強化型リザードマンもシャドウの闇属性で強化したものだった。
悠長に考えている暇もなく背後から横に一閃。アラドはしゃがんで一閃をかわすも斬撃は終わらない。
斬撃を浴びせるのはブラックベアではない。幼い女の子。大き目のマントに自分よりも巨大な鎌。頭には髑髏の仮面を少しずらして乗っている。シャドウが新たに召喚した者。
自分よりも大きな鎌を自由自在に操る。
深紅の刀身がアラドを襲う。
長剣で大鎌の軌道を変え、防ぐ。だが、アラドはどんどん後退していく。
刹那、後ろに気配を感じる。ブラックベアだ。
ブラックベアは腕振り上げ渾身の一撃を叩きつける。
「くっ!」
地面は大きくえぐられたがアラドは跳んで回避する。
「甘いねっ。これでもくらえ!《デモンズランス》」
紫のオーラ。闇属性の魔法。
アラドの着地を狙って放った闇の槍。寸分狂うことなくにアラドに向かう。
「何っ!?」
着地を狙われたためもう一度跳んでも間に合わない。アラドは長剣で闇の槍を迎え撃つ。
そして、激突する。土埃が舞い振り飛ばされたアラドが姿を現す。
「やっりーっい!」
当たったことに対しての喜びの声。
「遊んでいるのか!?」
そうシャドウの声音はゲームをやっている感覚だった。
「くそっ!」
アラドが立ち上がろうとした瞬間に地面が揺れる。
「何っ!?」
「う、うわっと!」
アラドは片膝つき耐える。シャドウは片足でケンケンっとバランスをとっている。周りで戦っていた騎士も謎の集団も突然の揺れに戦い処ではない。そして、下から突き上げる巨大な揺れが城の方からする。
「うおっと!あっちも始まったか」
あまりにも大きな揺れでシャドウは堪らず空中に逃げる。視線は城に向けられている。
アラドも視線を城に向け驚きの表情になる。アラドの目には所々から黒煙を上げる王都。
「城が!アーサー王!」
アラドは振り返り城へと向かおうとするが
「おっと、行かせないよ〜。まだまだ僕と遊んでもらうよ〜、アラドさん」
いつの間にかシャドウが回り込んでいた。両脇にはブラックベアと死神少女が控えている。シャドウは明らかに楽しんでいる。しかし、実力はある。
「コイツを何とかしない限り俺は城へは行けないか」
一瞬、城を見れもすぐに視線を戻す。王都に残る仲間を信じて。自分は目の前の相手に集中する。
「なら・・・倒して進むのみ!」
アラドは気合いの掛け声とともにシャドウに突っ込む。
本来の自分の役目は城を、王を守ること。その役目を果たせないジレンマ。城の状況も気になり焦りもあるが自分は目の前の相手を倒さない限り城へは進めない。なら力付くでもなんで進む。そう心に強く誓い突き進む。
アラド対シャドウ戦を軽く入れました。