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黒き騎士《ナイト》  作者: 悠夢
第1章:誕生パーティー 黄金の皇女と黒き騎士
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私の好きなもの

アリア視点です。

 この町が好きだった。城から見る街並みが好きだった。町の雰囲気が好きだった。この町に住む人たちが、周りの自然が、お父様が、お母様が、エレナちゃんが、ロイドさんが、レインさんが、マリク君が、ロザリアさんが・・・。みんなが大好きだった。

 今でもここから町を覗けばいつもの私が好きな景色が見れるとそう信じていた・・・。

 今はただただ赤い。勿論、夕焼けに染まる街並みも好きだった。淡く照らす太陽が優しく町を染めていた光景は今でも忘れない。

 しかし、今の街並みは私の思い描いている町ではなかった。建物は崩れ、道は壊され、花壇に植えられた花や木は焼かれ踏まれ跡形もなくすべてを炎が焼き尽くしていた。私たちの思い出の場所も壊され私は思わす目を背けてしまうくらいだった。


 ・・・そこにはもう私の知る大好きな景色はなかった・・・。


 そして、私へと近づく巨大な足音。それはまるで私の死へのカントダウンの様に確実に正確に近付いていた。

 今、ここには誰もいない。お父様も騎士団長のアラドさんもマリク君もいない。私を守ってくれる人は誰もいない。ここにいるのは地面に(うずくま)る私と私を喰らおうと襲ってくる3体のドラゴン。

 絶え間なく続く攻撃に心が挫けそうにもなる。いつまでも続く恐怖。いっその事、死んでしまった方が楽になるのではと思ってしまう。・・・それでも、守りたいものがあった。

 頭の中で浮かぶ人物に呼び掛けても返事はないく消えていく。また、浮かび上がり声を掛けるも消えてしまう。その繰り返し。本当にここには私ただ1人なんだと知らしめられる。私の中の希望が次々と消えてしまっていく。

 こわい・・・コワイ・・・怖い・・・。私の心の中を恐怖だけが支配していく。

 そして、私の頭の中には誰もいなくなっていた。誰も私の呼び掛けに応えてくれる人は誰1人としていなかった。私を支えてくれる人はいなかった。

 そう思い身体から力が一気に抜けた気がした。そこをドラゴンは見逃さず一気にたたみ掛けようと3体が同時に上昇し始めた。

 (・・・ここで私、死んじゃうのかな・・・)

 思わず思ってしまっていた。

 (お父様、いつも我儘(わがまま)言ってごめんなさい・・・お母様、いつも迷惑掛けてごめんなさい・・・エレナちゃん、怖い目に遭わせてごめんね・・・町のみんなも守ってあげられなくてごめんなさい・・・私、全然ダメだったな・・・)

 と、目を閉じる。


 

 暗闇。一切の光の無い暗闇。何も無い。誰もいない。そして、・・・希望も無い・・・。そんな暗闇にアリアは1人いる。

 「本当はみんなを守りたい!もっと頑張りたい!」と思っていた。しかし、アリアも1人の人間。()してや16歳になったばかりのか弱い少女。こんな状況で1人で耐えられる筈もなかった。

 アリアの瞳からは生気が失いかかり虚ろになってきていた。終いには立っていることも辛くなり膝を抱え顔を隠し(うずくま)ってしまった。

 ・・・ここで終わるんだ。こんな何も無い所で1人で終わるんだ。と益々負の感情に呑み込まれそうになった時、1つの光がアリアの目の前に現れた。

 「・・・・・・」

 重い頭を少し上げ視線をその光に向ける。

 その光は小さい光だった。しかし、今のアリアにはそんな小さな光でもとても大きな光に見えていた。小さいながらも温かい。そして何よりとても懐かしいものだった。小さな光は輝きを増していく。その光は形を変え人型になっていった。

 「・・・誰、なの?・・・」

 右手で光を遮りながら目を凝らす。その人物を確認するために。

 光は1度輝きを増した後、徐々に弱まりしかっりとその人物を認識できるくらいに収まっていった。

 「・・・!・・・」

 アリアはその人影をしかっりと確認しハッとする。

 そこには1人の少年が立っていた。少年はアリアに微笑み掛け優しい視線を真っ直ぐにアリアに向けていた。

 「・・・・・・」

 不意の少年の登場で泣きそうになっていた。これまでの不安が爆発しそうになるも抑え込む事が出来ていた。そして、立ち上がる。

 少年の出現で少しづつ力を取り戻していた。何故なら彼女にとってその少年は1番大切な存在だったからである。

 その少年を彼女は知っていた。彼女が彼を見間違える筈もなかった。幼馴染の彼を。

 アリアよりも背が低く幼い少年。勿論、今の姿ではないことは分かる。だが昔の姿しか知らない。何故なら彼を見た最後の姿が目の前の少年なのだから。今がどんな姿なのかは分からない。「多分、私より大きくなってる」「カッコ良くなってるかなぁ」と毎日の様に考えていた。

 そんな彼が目の前にいる。アリアは1歩1歩少年に近付く。

 少年の前で膝を突き目線を同じくする。

 「・・・遭いたかったよっ」

 と、ぎゅっと彼を抱きしめようとするがするりとすり抜けてしまう。

 「あれ!?何で!?」

 アリアの腕は少年を捕らえることは出来ず地面に倒れてしまった。

 所詮は幻でしかなかった。しかし、少年はここにいる。声は発しはしないが真っ直ぐにアリアを見つめている。

 「そうだよね。私が諦めちゃダメだよね。私が頑張らなくちゃ」

 自分に言い聞かせる様に強く決意する。

 「ありがとうね、私を元気付ける為に現れてくれたんだよね?」

 声は発しないがアリアはそう感じた。そんなアリアを見て少年は微笑む。昔と変わらない笑顔で。

 「よっし!私、頑張るね!」

 気合いを入れないし力強く立つ。

 「もしここで死んじゃったらアナタにももう2度と会えなくなっちゃうもんね。だから、必ず生きてアナタに会いに行くね!」

 目の前の少年を見つめる。

 「それまで私の事、見守っててね。支えてね」

 少女も微笑み返す。アリアの顔は自然といつもの笑顔に変わっていた。

 「それじゃね」

 踵を返し歩き出す。少女はまた立ち向かう。あの恐怖に。あの戦場に。しかし、今度は負けない。どんな事があろうと心が折れる事はない。・・・だって、今の彼女の中にはとても心強い味方がいるのだから。

 闇は晴れて光が満ちていった。



 3体のドラゴンは同時に上昇し始めた。息を合わせ降下してくる。鋭い爪を(かざ)して。

 迫り来る凶器。その凶器はアリアを捕らえる事は・・・出来なかった。

 少女に当たる瞬間、弱々しかったオーラが輝きを取り戻しさらに強く輝き出していた。

 その光に驚きドラゴンの動きが止まる。

 光を纏ったアリアがゆっくりとしっかりと立ち上がる。

 「私はもう諦めない!」

 その細い手足身体全身を使って立つ。

 「私が守っても見せる!この場所を!この町の人達を!」

 アリアの想いが力へと変わっていく。

 「絶対にあなた達なんかに負けないんだから!」

 3体のドラゴンに立ち向かう。ドラゴン達もアリアの気合いに対抗し咆哮を上げる。

 3対1。ドラゴン対少女。どう考えてもアリアに勝機は見えなかった。しかし、気合いのオーラは負けずにいた。

 アリアの1人の戦いはまだまだ続く。

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