懐かしの町は炎に包まれて
土に囲まれた地下を照らすのはエアバイクのライトのみ。クレイアはその光を頼りに先に進む。本当にこの道で合っているのか。この先にドラゴンが待ち構えてはいないか。など不安要素が今更ながら脳裏を過ぎる。しかし、それでもクレイアには前に進むことしかできない。前に進んでその先にある大切なものを守る。
(アリア・・・今すぐ行く!)
心の中で強く思う。
遠くに光が見えてくる。その先に大切な人がいる。
(もう少し・・・もう少しで!)
光はクレイアに近づき、そして・・・。
光の先で声がする。よくは聞こえない。出口の先で光が・・・いや、魔法光が2つ見える。
「まさか!」
結界を張る気なのか。多分、ドラゴンの侵入を阻むためだろう。
「くっ!」
思わず顔が歪む。
結界を張られたらアウト。そう簡単には入れなくなる。クレイアはアクセルグリップを最大まで回す。自然と身体に力が入る。
「間に合えぇぇぇーーー!」
「それではいくぞ」
「はい」
先輩魔導師が後輩に声をかける。2人は魔力を溜め結界の準備を終える。
目を閉じ集中。結界を発動しようとした瞬間、穴から勢いよく何かが飛び出して来た。
一瞬、増援のドラゴンが現れたのかと身構える魔導師2人。
「攻撃しないでください!人間です!」
声がする。大穴から現れたのは尾から光を放っている。
「ん?」
目を細め侵入して来た者を見る。よく見ればエアバイクに乗った人であった。その者は赤いマフラーをはためかせこっちに近づいてくる。
敵なのか味方なの分からず尚も警戒を怠らない。そもそも何処からこの大穴を通って来たのか。どちらかといえば敵なのではと疑ってしまう。
「驚かせてしまってすみません」
まず、最初の言葉は謝罪だった。敵意はあまり感じられない。
「貴様、何者だ!」
先輩魔導師が問う。後輩は先輩の後ろに立ちいつでも魔法を撃てるようにしている。
「自分の名前はクレイア。元騎士団長 ルドルフ様の命により救援に参りました」
ルドルフの名で顔色が変わる。
「えっ!?ルドルフ様からですか!?」
後輩魔導師が驚き攻撃魔法を解いてしまう。
「はい」
クレイアが力強く頷く。
「ちょっと待て」
先輩魔導師が険しい表情で詰め寄ってくる。
「話しによればルドルフ様、直々に救援に来てくださることになっていたはずだが」
クレイアを睨む。確実にクレイアのことを疑っている視線。
「ルドルフさん、・・・様はここに通じるドラゴンの山で増援が来ないように大穴を死守してくださっています」
その事を言ってもあまり信用したようには見えない。
「仮にその話が本当だったとしよう。なら、貴様1人で何ができる!」
痛いところを突かれる。1人は1人でもクレイアとルドルフとでは違い過ぎる。
「しかし、今は1人でも戦力が欲しいはず。違いますか?」
クレイアも負けずに言い返す。
「くっ!」
顔を歪める魔導師。あっちもこちらの状況を知っての事。言い返すことができない。お互い1歩も引かずの睨み合い。
後輩魔導師はあたふたしていてとてもじゃないがこの空気を変えることはできそうにない。そして、意外にもこの空気を切り裂く者が現れた。
空気を切り裂き上空から急速に近付いてくる気配に気付く。
魔導師2人は横に飛ぶ。クレイアも素早くエアバイクを操縦しその場を離れる。
「グァァァーーー!」
声を1つ上げ3人が元いた場所を大きくえぐる。
それは間違いなくドラゴンであった。腕は翼と一体になっておりいかにも空中戦が得意ですと言っているようなドラゴンだった。
(空に行かれる前に!)
地面をえぐった場所から再び飛び上がるろうとするドラゴン。それに対しクレイアは回避運動をし横滑りしているエアバイクから飛び降りる。そして、そのまま上空へ飛ぶ。
剣を鞘から抜き放つ。一直線にドラゴンに向かい交錯する。クレイアは両手で剣を持ち上げ高々と構える。両腕に力を入れ振り下ろす。
その斬線はブレることなく上から下へと切り裂く。
クレイアの斬撃はドラゴンの左翼の根元から切り裂かれ翼を切り落とす。
「グギャァァァーーーー」
苦痛の悲鳴を上げるドラゴン。クレイアは飛び出した勢いのまま上空へと飛んでいく。ある程度上昇すると後は重力に掴まり地上へと自然に落ちる。落下地点はドラゴンの頭部。
ドラゴンは飛びかけた状態から急に落下し地面に身体を地面に叩き付けられたせいかその場で悶えている。そのドラゴンに徐々に近付いてくるクレイア。重力のせいで段々と落下スピードが増していく。
クレイアは地面に剣を突き立てるように切っ先を下に向け無防備となったドラゴンの頭部目掛けて突き刺す。
「グアァァァーーーーー!」
ドラゴンの断末魔の叫びが響き渡る。脳天に突き刺さる剣を抜きドラゴンの頭部から飛び降りる。その瞬間、栓の替わりとなっていた剣が抜かれたことによってドラゴンの夥しい量の鮮血が勢いよく飛び出る。
クレイアは何事もなかったかのように鞘に剣を収め乗り捨てたエアバイクの元に戻る。
一瞬のことにただ見ていただけの2人の魔導師。クレイアの後ろではやっと生き絶えたのか上に上げられいたドラゴンの頭が力無く地面に音を立てて倒れる。
「あの、俺が怪しいのは十分わかっています。でも、今ここで言い争っても意味がありません。もし俺が変な行動でもとったら捕まえるなり殺すなりしてください。すいませんが後はお願いします」
2人の意見を聞く前にエアバイクに跨がり飛び去って行ってしまった。
「先輩」
緊張が解けて話し掛ける。
「何だ」
「行っちゃいましたね」
「そうだな」
取り残された2人。
「先輩」
「何だ」
「あの人本当のこと言ってたんじゃないんですか?」
「うっ、うるさい!誰だって疑うだろう!」
まるで自分が悪い風に言われ怒鳴り返す。
「すいません」
後輩は反射的に謝っていた。
次回:城へ向かう途中