弱まる光
崩れ落ちる瓦礫。巻き上がる炎、黒煙。そんな中アリアは目を覚ました。
「・・・わたし・・・生きてる?」
自分の身体を確かめる。身体の各部が動く。どうやらどこも異常はないようだ。しかし、自慢の金の髪は煤や埃で汚れてしまっている。今日の為に用意したドレスも汚れ何かに引っ掛かったのか破れている部分もある。
自分が無事なのだと分かり少し安心する。安心したお陰で周りを見る余裕が生まれる。何故、自分が無事なのか。顔を上げた瞬間に分かる。
「これは、結界?」
火炎弾の威力は凄まじくアリアの前面の壁は無残にも破壊され剥き出しの状態となった。そして、アリアを囲むように半透明な壁がある。しかし、火炎弾をくらったせいか弱々しく光り今にも消えそうになっている。この結界のお陰でアリア助かった。
「アリアンティア様!ご無事ですか!?」
遠くで女性の声が聞こえてくる。周囲を確認し声の主を探す。声の主はアリアと同じような塔から空を飛ぶドラゴンを弓で迎撃していた。
「あの人は確か副団長の・・・」
「アリアンティア様!」
返事がないことに不安に感じもう一度アリアを呼ぶ。その声には焦りも混ざっている。
「はーい!わたしは大丈夫でーす!ありがとうごさいます、ロザリアさーん!」
副団長 ロザリアに自分の無事を伝える。
「アリアンティア様、良かった」
アリアの声が届き安心の言葉が零れる。
「申し訳ございません、アリアンティア様!このドラゴンを倒しすぐそちらへ向かいますのでもうしばらくお待ちください!それまで私の結界でお守りいたします!」
ロザリアにとってこれが精一杯だった。ここを部下に任せ向かいたかったが次から次に攻めてくるドラゴンのせいでこの場から動けずにいた。
(こんな所で足止めなどくらっている場合ではないと言うのに!)
焦りが滲み出る。
アリアもこのままここにいるのは危険と判断し塔から避難することにした。階段は火炎弾を受け崩壊寸前だが奇跡的に残っていた。アリアは急いで階段を下る。
階段を下り終え塔から1、2歩進んだ所で塔は崩れ落ちる。アリアも急いで離れようとするも崩壊する衝撃で後ろから思い切り押されたかのように飛ばされる。
「きゃっ!」
アリアの悲鳴も煙が飲み込んで行く。
埃が舞い何も見えない。崩れる轟音で何も聞こえない。程なくして轟音は止む。そして・・・。
「ゲホッゲホッ」
咳が聞こえるが未だ埃が舞い視界はゼロ。
「ゲホッゲホッゲホッ」
もう1度聞こえ視界も段々戻ってくる。
アリアは生きていた。崩れた衝撃で吹き飛んだのが功をそうした。アリアは床に座り込んだ状態で埃や砂を吸い込み咳をしていた。またも命は助かった。一生の内にそうは確認しないだろう自分の命を確かめる。普通に生きていればそうは味あわないスリルをこの短時間に何度も味わう。出来ればもう味わいたくはない。
アリアがいる場所。塔の下にある部屋には大砲や銃などが置いてある。ちょっとした武器保管庫となっているが今は無残な姿へと変貌している。外からも丸見えな状態。外の状況が気になり視線を外に向ける。何故か自然と視線が交わる。アリアの視線と巨大ドラゴンの視線が。
「ウソ!?」
無意識に言葉が零れる。
「グオォォォーーーーーーー!」
巨大ドラゴンもしっかりとアリアを視界に入れ吠える。
「ヤバイッ!」
言葉を発すると同時に身体が動く。頭と身体が危険を知らせてくる。逃げなければ死ぬと。
アリアは走る。武器庫を離れ赤い高級感溢れる絨毯の廊下を走る。アリアの左側は窓ガラスが廊下の端まであり外の風景が見える。いつもは町の明かりが綺麗に光りずっと見ていたいものが今は違う。見たくもないものが目に自然と入ってきてしまう。巨大ドラゴンの視線が確実にアリアを捕らえている。
巨大ドラゴンが火炎弾を放つ動作を行なう。また火炎弾が飛んでくると走りながら身構えるが飛んでは来ない。視線を向ければドラゴンの方に向かう一筋の光。その光は巨大ドラゴンの大きな口へと消えていく。そして、悶える巨大ドラゴン。
「アリアンティア様の所へは行かせぬ!お前の相手はこの私だ!」
そう言って極限まで引かれた矢から指を放す。そう先ほどの光はロザリアが放った矢であった。体内から入った矢は内臓に直接ダメージを与えていた。
無数に飛ばされた光の矢。魔力を帯びた矢は夜の闇を切り裂き巨大ドラゴンに命中。突き刺さった矢の先端から内側へと魔力が流れダメージを与える。どうやら少なからずダメージを受けているようだ。
「効いてる!?」
走りながらも巨大ドラゴンの方に目を向ける。ドラゴンの悶えているかのような巨大な咆哮が辺りに響き渡る。
「あの矢はロザリアさん?」
自分に向けられた恐ろしまでの視線が外され安堵感を覚えるアリア。しかし、それも一瞬の事でしかなかった。アリアに注がれた巨大な視線は外されたが今度は複数の視線を身体に浴びる。それは窓の向こうから向かってくる。巨大ドラゴンと比べてしまっては小さいが全長3、4メートルの成熟したドラゴンが3体、確実にアリアに向かって来ていた。
3体のドラゴンは一斉に火炎弾を放ち窓ガラスを割り、廊下と向かえ側の部屋の扉を破壊しアリアを吹き飛ばした。
「キャーーーーー!」
アリアは廊下から部屋へと飛ばされる。
アリアが飛ばされた部屋は大会議室のように広々とした所だった。アリアが身体を起こすも破壊された廊下の端に2体が足をかけ1体のドラゴンが浮遊している。獲物が生きていることに苛立ちを感じているのか3体のドラゴンはそれぞれ声を上げる。アリアもその咆哮に恐怖感を覚える。逃げようにも身体が動かない。そもそも逃げ道がなかった。
3体のドラゴンはそれぞれ火炎弾を放つ。アリアはその場に伏せることしかできない。結界が守ってくれているが攻撃の衝撃はアリアの身体に届いている。しかし、その結界も1度、巨大ドラゴンによる火炎弾のせいで消えかかっている。もうそんなに長くは持ちそうにない。
攻撃をうける度に衝撃に耐えるアリア。その攻撃を受ける度にこの状況で1人ということに対しての寂しさ、そして何より恐怖がアリアの心の中で膨らんでいく。アリアと呼応するかように街を覆っていた光の結界も徐々に薄れていく。今ここにいる避難する民、ドラゴンと戦っている騎士に多大な希望の力を与えていたその光が薄まる。それに影響されたすべての人達から統率力や生きる力が弱まってしまっていく。
(助けて・・・誰か助けて・・・)
アリアの悲痛な心の助けを聞くものは誰1人としていなかった。
1人恐怖に耐えるアリア。彼女を守る騎士は現れるのか
そして、この映像を見せられていた王が怒りの咆哮を挙げる
次回:怒りの炎
「貴様ぁぁぁーーーーー!」