赤き破壊者
2人は同時に動き出す。最初に仕掛けたのはマリク。マリクは左手を前に突き出し牽制代わりに無数の《アイスホーン》を繰り出す。
「ふんっ!!」
対するボルドーは右腕に巻かれた鉄球を放つ。ジャラジャラと音を立てながら飛んでいく。《アイスホーン》の氷の氷柱はいとも簡単に砕かれ氷の粒と結晶が飛び散り視界を遮る。
ボルドーはそんなことお構い無しに突き進む。氷の粒が消え視界が戻り再び獲物を視界に入れようとするもマリクの姿が・・・消えている。
視線を動かし左右、上空を探す。
「ここだ!ウスノロ!」
声は下から聞こえてくる。《アイスホーン》が砕かれた瞬間マリクはここぞとばかりにスピードを上げボルドーに接近していた。
長身であるボルドーに対し少し屈んでいるせいもありボルドーの視界から外れている。
「速攻で終わらせる!」
マリクは屈んだ状態から魔力を溜める。周囲を凍らせるオーラがマリクから発せられる。視線が合い不意にボルドーの口元が緩む。
(チッ、なめやがって!)
その笑みが腹立たしく心の中で舌打ちをする。
「《クラスター・エッジ》!」
無防備になったボルドーの腹目掛けて薙ぐ。ツインブレードに溜められた氷の力が爆発する。床を蹴り少し上に飛び出すように前へと出る。氷の斬線が空間を切り裂く。
マリクはボルドーの後ろ側の床にゆっくりと足を着ける。手応えは確実にあった。普通の相手ならばこれで終わっている。今回も終わりだと思っていた所、背後から凄まじい殺気を感じ取る。完全に振り向くことが出来ず、視界に入るギリギリのラインでそれが見える。右腕を高々と上げるボルドー。いや、殺気のオーラを纏った鬼人が見える。そのオーラはマリクが悪寒を感じ取るくらいに凄まじいものだった。
ボルドーは渾身の一撃を喰らわせるように鉄球を叩き付ける。
「くそがっ!」
振り向く途中で左に跳ぶ。
床に大穴を開け崩れる。しかし、崩れは治まらず2人のいた建物全体を破壊した。
マリクは崩れる建物から避難し違う建物へと移動する。さっきあった建物が跡形もなくなっていて破壊された土や石が舞いボルドーの姿を隠している。
しばらくすると土煙は徐々に消え辺りの様子が確認できる。その中に異様なオーラを纏ったボルドーの姿が目に入る。ボルドーの体には傷1つ付いていない。この崩れ落ちる瓦礫の中でも。マリクが与えた一撃すらも残っていない。
(赤髪のボルドー。その防御力は伊達じゃないってことか)
ボルドーの最大の武器。それは肉体強化。自分の筋力を上げ打撃力、防御力を向上させての戦闘。その防御力はこの世界トップクラス。そんな化物が今、目の前にいる。
(だが、それだけだ)
ボルドーは強靭な筋力強化のかわりに魔法攻撃を使えない。なら遠距離からの魔法攻撃でなら・・・。 「くっ!」
作戦を練っている途中で黒い鉄球が飛んでくる。
ツインブレードでなんとか軌道だけを変え直撃は免れる。だが、この一撃が重い。
「こいつがあったか」
魔法攻撃を使えないイコール遠距離攻撃はないにはならなかった。この距離まで届いてあの威力。至近距離でくらえばマリクでも一たまりもない。ならばどうするか。しかし、そんなに悠長に考えている暇はない。ボルドーが動き出す。マリクに向かって。
「ハハハハハッ、どうしたガキ!お前もその程度の人間か!?」
迫るボルドー。腕に巻かれた2つの鉄球がマリクを襲う。
「う、うるさい!黙れ雑魚が!」
鉄球を防ぐ度に顔が歪む。鉄球とツインブレードがぶつかる度に凄まじい衝突音と衝撃波が辺りに広まる。先程の一撃と比べられない程の重い一撃。元々、マリクは魔法攻撃が得意な為、近距離戦のボルドーとでは部が悪すぎる。そんな一撃一撃を捌き切り距離を空ける。
そして、突如として光のオーラがこの町を包み込む。
「何!?」
突然のことに少し戸惑う。こんなことが出来る者がこの国にいたのかと思う。こんな状況でもボルドーの攻撃は続く。戦いに夢中で周りが見えていないのかもしれない。マリクがこの結界を張った人物を考えるが空に浮かぶ結界を見て想像がついてしまう。
「アリアンティア様か!?何故こんな無茶を!?」
そう思うも実際のところ有り難かった。外から侵入してきるドラゴンを止めてくれただけで大分助かっている。しかし、そう長くは続かないだろう。なら、自分がさっさと終わらせて助けに行くまでだ。
そう思い全身に力が入ろうとした時。
「っ!?今度はなんだ!?」
巨大な魔力を感じる。
『マリク!』
レイヴィに聞くまでも探すまでもなくそれは巨大なドラゴンだった。完全にアリアに狙いを定めたドラゴン。
「くっ!?ふざけるな!」
思わず声を上げる。ボルドーとの戦いからアリアの救助に切り替えボルドーを突破しようとするも・・・。
「何処に行くんだよ!お前の相手は俺だろう?」
マリクの足に鉄球付きの鎖が巻き付き動きを封じられる。
「邪魔するなー!」
なんとか鎖を振り払うがボルドーがまたも迫ってきて凄まじい攻撃が繰り出される。そうこうしているうちに巨大な火炎弾が放たれる。
「アリアンティア様ー!」
ここからでは《シールド》も間に合わない。《バリアー》を使ったとしてもこの距離からでは厳しい。なにもが間に合わない。マリクもまた同じようにただ見ていることしかできなかった。
みんなが見ていることしかできなかった。アリアンティアは生きているのか?
次回:弱まる光
(・・・誰か助けて・・・)