もう1人の侵入者
アーサー王とエリザベス女王は騎士の誘導に従い地下を小走りに進んでいた。床、壁、天井は煉瓦で覆われていた。それから程なく進んだ所。広めのスペースの場所に出てくる。不意に先頭で誘導していた騎士が立ち止まる。
「ん?どうした?」
王が不審に思い問い掛ける。
「いえ、このくらいでいいかと思いまして」
言葉を発してゆっくりとこちらに振り返る。
「!?」
顔全体を覆い隠す兜をしているため顔と表情ははわからないが騎士から漂う不穏な雰囲気に身構える。
「あなた!?」
女王もそれに気付き1歩下がる。王は左腕を出し女王を後ろで庇う。
「そんなに身構えないでください。あなた方に危害を加えるつもりはありません。あなた方が妙な行動を取らなければね」
表情は読み取れないが声からしてまだ若い。20代くらいの青年の声。グループをまとめているだろう強さを持った声。
「どういう意味だ!」
王が質問するもそれには答えずに騎士は2人に背を向けおもむろに右手を翳す。次の瞬間まばゆい光りが発せられる。王と女王は堪らず手で光を遮ろうとするも意味がなかった。強い光りが消え騎士の方を見るとそこには今、城の外で起こっている戦闘が映し出されていた。
「これを見せて貴様はどうするつもりだ!」
「何もしません。私の役目はここであなた達とこの状況を見ることです」
「本当にそれだけなのか?」
「ええ、もちろん」
多分、目の前にいる者がこの騒ぎを起こしている張本人に間違いない。その相手が王と女王を前にして何もしてこないのもおかしい。しかし、この男が発する言葉には敵ながら信じてしまうような力があった。上に立つ者同士で分かってしまうのかもしれない。
正体不明の者に鋭い視線を送るも相手は動じることすらない。王はその言葉を信じ映し出された映像を女王と見守ることにした。
映し出される風景。いつも見てきた自分達の町。しかし、今見てもこの町が自分達の国だと重ねて見ることができない。それほどまでに町は酷い状況だった。思わず目をつぶりたくなる風景だが王はそうはしなかった。自分の町の騎士達を信じこの状況を打破してくれると心の底からそう信じている。
映像は様々な場所を映し出す。城門前、城下街、城の前。そして、映像は1人の人物の戦いを写す。
「あれは・・・マリクか!?」
小さく見えるがあの格好からしてマリクに間違いない。そのマリクが何者かと戦っている。赤い短髪の巨体な男。
「あの男、貴様の差し金か!?」
「簡単に攻略されては面白くありませんからね。これも余興の1つです」
見た感じかなり苦戦しているようだ。これで国の主戦力である2人が欠けたことになる。そのことに苦しい表情になる。
場面は変わり城にある塔が映る。ここでは戦闘は行われてはいない。訝しげに映し出された場所を見ているといてはならない者が目に飛び込んでくる。
「何!?」
「っ!?」
2人が堪らず声を上げる。女王に関しては両手を口に当て悲鳴にもとれる声が出ていた。
「何故、アリアがあんなところにいる!?これも貴様達の仕業か!」
王は怒鳴り散らす。
「いいえ、この方が自分で取った行動です」
王とは打って変わって冷静に事を説明する。
「貴様!」
自分と相手の温度差にさらに怒りが募る。
「あなた、見て!」
女王に呼ばれ視線を映像に戻す。そこには祈りをする女神がいた。黄金の光りが辺りを照らす。
「あの子、魔法を使う気だわ!」
女神 アイリス独特の魔法光。この世に1人しか出すことのできない聖なる光。その光はこの状況で見ても美しく見るものすべてに希望を与えるものだった。
次の瞬間、アリアが発していた光がこの町全体に広がっていき包み込んでいった。
「綺麗・・・」
女王の口から無意識に言葉が零れる。今、この状況さえ忘れてしまう光景だった。
「アリアにこんな魔法が使えたとは・・・」
王もアリアの張った結界に見とれてしまっていた。それに自分の娘にこれほどのことが出来るとは思ってもいなかった為、自分達の知らない所で成長しているのだと気付きそのこと自体に嬉しさも感じていた。
そんな余韻もつかの間。次に映る映像に絶句する。
「「っ!?」」
巨大ドラゴンが口を開け魔力を集めている。狙いは言うまでもなくアリアンティア。巨大ドラゴンを止める者もなくあっさりと魔力を溜め終える。そして、放たれる。
「アリア!」
「アリア!逃げろ!」
悲鳴が地下回廊に響く。返ってくるのは自分達の悲痛な叫びだけ。アリアには届はずもなかった。助けに行こうにも間に合う訳がない。ただ、火炎弾がアリアに向かって行くのを見ているだけ。
火炎弾を防ぐものはなく呆気なく塔を破壊する。アリアの希望の光が薄まり、恐怖の炎が町を照らす。
「いやぁぁぁーー!」
女王の悲痛な叫びがこの場に響き渡る。
この国の主戦力のマリク。そのマリクをするボルドー。
マリクはボルドーを倒しアリアを救うことができるのか。
次回:赤き破壊者
「その程度かガキ!」