暗闇の中の決意
一際大きな光りが山の向こうから垣間見える。それを物置の小さな窓からクレイアは見つめる。
「くそっ!」
そう言ってまた座り込む。何度も同じ行動を繰り返す。もうどのくらいここに閉じ込められているかもわからない。アリアは無事なのか、城はどうなっているのかと考えるだけで長い時間ここにいるようにも思える。
そんなことを思考していると
――ガタガタガタッ――
と、何処からか聞こえてくる。クレイアは思わず身構える。自分の武器である剣がないため拳を前に突き出す。
「クレイア兄ちゃん」
小さい声だったが聞き覚えのある声。
「・・・アルか?」
「クレイア兄ちゃん。僕もいるよ」
そう言うともう1つの聞き慣れた声が返ってくる。耳を澄ませ声が発せられた場所を特定する。すると隅に置いてあった木箱がカタカタッと動く。
「兄ちゃん!この木箱どかしてくれない」
「あぁ、わかった」
動く木箱をどける。それを待っていたとばかりにアルとロンが一斉に飛び上がる。
「うわっ!」
思わず驚きの声が出る。
「えへっへっへっ。ビックリした?」
「ビックリするだろう普通。それより何で2人がここから出てくるんだよ」
最もな質問を2人に返す。
「ここは俺達だけの秘密の抜け道」
自慢げに胸を張るアル。
「そう。アルがお父さんに叱られてここに入れられた時の抜け道」
自慢顔がどんどん崩れる。
「それを言うなよロン!格好悪いだろ!」
「しょうがないだろ。事実なんだから」
クレイアも内心でそういうことかと納得する。
「それよりここから出ようぜ、兄ちゃん!」
恥ずかしくなったのか違う話題に切り換えるアル。
「お前ら俺を助けるために来てくれたのか?」
「「当ったり前じゃん」」
「でもルドルフさんは?」
「そんなこと知るか!」
2人が助けに来たということはやはりルドルフさんの許可は取っていないということ。それよりもルドルフさんはここに2人が来ていることも知らないのかもしれない。
「やっぱり、そうか・・・でもなんで2人はここに来れたんだ?結界が張ってあったのに」
「そんなの簡単だよ」
今度はロンが胸を張る番だった。
「お父さんは小屋の周りにしか結界を張っていない。土の下までは張ってないよ。それにこの抜け道も知らないよ」
「そうか・・・」
「早く行こうぜ、兄ちゃん!」
待ちきれないとばかりにクレイアを急かす。
「・・・・・・」
クレイアは無言になってしまう。さっきまではここを出なこればと気持ちが焦っていたが、いざ出ることになってみると冷静になってしまう。
本当にここから出てしまっていいのか。ルドルフは命令を守る為にクレイアをここに閉じ込めた。しかし、それはクレイア自身の為でもある。ルドルフを困らせたくはない。
(・・・それでも俺は・・・)
俯いていた頭を
(・・・アリアを守りたい!)
力強く上げる。その瞳には迷いはなくただ胸に誓った思いを遂げるだけ。
「行こう!アル!ロン!」
言葉にも込められた強い思い。
「うん!」
「そうこなくっちゃ!」
クレイアは2人の後に続いて物置を脱出した。
物置はルドルフの家の近くにあるがクレイア達が出てきた所は玄関とは逆側だったためすぐに見つかることはない。
「アル!ロン!ありがとな」
「気にすんなよ、兄ちゃん!」
そう言ってクレイアは2人と別れる。
「ルドルフ様!」
家を離れようとした瞬間に上から声が聞こえる。咄嗟に物陰に隠れるクレイア。
声の主は風を吹かせながら着地する。エアバイクに乗った銀の鎧を着た騎士。凄く慌てた様子でルドルフを呼ぶ。
「どうした!?」
ただ事ではないと思い慌てて出てくるルドルフ。
「城がドラゴンに襲われています!至急ルドルフ様の助けが必要です!」
「何!?城の警備は何をやってるんだ!」
怒り混じりに問い質す。
「それが・・・城の警備は万全でした。しかし、大きな揺れがあった後に急に姿を表しまして・・・」
「監視役は何をやっていた!」
「それも魔力探知の方も何も感じられなかったと」 「くっ!分かった!すぐに準備をする!」
城には少なからず優秀な騎士がいるはず。その中の誰1人として気づかなかった。その事に疑問を持ちながらも1度家の中に戻る。
クレイアは話しの途中で駆け出していた。自宅に戻り剣を探す。
「あった。良かった」
もしかしたらルドルフに取り上げられているかもと思ったが剣はテーブルの上に置いてあった。素早く剣を手に取りベルトに吊す。指先がないグローブを嵌める。1度目を閉じ首に巻かれた真っ赤なマフラーにそっと触れる。
あまりゆっくりもしていられない為すぐに目を開け家を飛び出す。
魔力変換し凄まじい早さで夜の闇を駆け抜ける。クレイアが向かった先は意外にもルドルフの家。しかもまだ騎士がいる正面の玄関口へ。そんなことお構いなしに真っすぐに突っ込む。目的はただ1つ。
「なっ、何だ!お前は!?」
ルドルフを待っていた騎士がクレイアに気付く。
「・・・・・・」
「くっ!」
尋常じゃない気配に一瞬だけ怯む。しかし、それがすべての動作を鈍らせた。
クレイアは走る速さを維持したままの動きでエアバイクに跨がり上空に飛び上がる。あっという間に手の届かない所まで上がり勢いよく発進する。
用意を済ませたルドルフと一瞬だけ目が合う。少し申し訳ない気もしたが頭をふり前を見つめる。エアバイクの噴射光が夜の闇を切り裂いていく。
もう少しでクレイアも城に行きます。
ルドルフの結界から脱出しある場所に向かったクレイア。
そんなクレイアを止める男。
クレイアは城に辿り着けるのか。
次回:闇夜を駆けよ
「それでも俺は行きます!」