RPGのような世界
「話せばわかる、なんてのは綺麗事。そんなのは解ってます。私が言いたいのは話す努力を怠るのはいけないということです」
アモンさんに向かって私はそう呟いた。
ここは魔界の片隅。死者の泉のほとり。
勇者である須賀君から逃げてきた私達はここで作戦会議をしていたのだ。
アモンさんは「話せば解るという理屈は気に入らない」ということを言われたので、私は冒頭の答えを切り出したのだ。
「魔界人も人間も基本は同じだと私は思います」
「同じか」
「そもそも、同じ世界の同じ時空にいる生き物なんです。全くの別物なんてのはないんじゃないですかね?」
「なかなかスケールが大きい話をするな、貴殿は」
「そうですか?初めて言われました」
「人間と魔界人は、解り合えるのか?」
「合えたり、合えなかったりだと思います。アモンさんだって、嫌いな魔界人と好きな魔界人がいるでしょう?それと同じ。ハードルはちょっと高いでしょうけど」
「貴殿は、魔界人を知らないのにそこまで言うのか」
「変な先入観はないですね。だからありのままに物事を見れますよ」
アモンさんもカースさんも、いい人とは言えないけれど別に人間とそんなに変わらないように感じる。
喜怒哀楽があり、志向があり、趣味がある。
姿や能力や住む世界が違うだけにしか見えない。
「同じ世界で、しかも言葉が通じるんです。なのに話し合いを怠るなんて怠慢もいいとこです。私はそこに怒ってるんです」
須賀君は完璧に魔界人を悪だと決め付けていた。
自分が正義だと信じきっていた。
それはいけないと思う。
これは勧善懲悪の物語じゃないんだ。
完璧で一方的な正義なんてありえない。
それが私の考えだ。
「なるほどな。魔王殿の考えは理解した。私は人間が好かないが、魔王殿は気に入っている。つまり、そういうことか」
「そう。アモンさんも人間の一人ひとりをもっと知れば好きになる人だってできますよ。殴りたくなるくらい嫌いな人だってできると思うけど」
「ふむ----で、魔王殿。これからどうするのだ?」
「……どうしましょう?」
敵はたくさん。仲間はアモンさんと能力皆無の私。
カースさんはどこかに逃げやがるし…どうするよ…
「アモンさんはどのくらい強いんですか?」
とりあえず味方の戦力から知ることにした私。
アモンさんは「うーむ」とうなり声をあげる。
「具体的にどれくらい強いかと聞かれても困る」
「えーと、例えば私が何人いればアモンさんに勝てます?」
「何千人いても、負ける気がしない」
さいですか。
そんなに弱いのか私…知ってたけど。
「そもそも、なんの能力も持たないということ自体が稀有だ」
「どういうことですか?」
「この世界は皆基本的に何かしらの能力を持っているのだ」
「マジですか」
「ああ。貴殿はそこらへんの通りすがりの人間(非戦闘員)よりも弱い。世界最弱だ」
「せ、世界最弱~~~!?」
嫌な称号を貰ってしまった。
いらない…
「みんな魔法使えるんですか?」
「魔法ではなく、魔術だ」
「何が違うんです?」
「私にもよくわからない。そこらへんはミスターカースに聞くといい」
「いないんですけど」
「ミスターカースはいつも大切なときにはいないな」
なんという役立たず。
…いや、私ほどじゃないか。
なにせ世界最弱ですから…(いじいじ)
なんかジメジメした気分になってきた。
話題を変えよう。
「須賀君はどれくらい強いんですか?スキル以外の能力ってあるんですか?」
「勇者の強さか…そういえば深く検討したことなかったな…ふむ」
アモンさんは嘴に手を当て、考えるポーズをする。
ていうか、自分の敵の強さを検討したことないって…
人間に負ける事はあまりないから考えない、とかそんな理由っぽいなぁ。
アモンさんは強い悪魔らしいし。
「勇者のスキルも厄介だが、魔術自体もやっかいだ」
「須賀君は魔術も使えるんですか?」
「そうだ。非常に稀ではあるが、勇者はスキルと魔術、どちらも扱うことができる」
流石チート。
同じ稀である能力皆無の私とは天と地の差。
「しかも、勇者は5つの属性が使えると聞いたことがある」
「属性?」
「魔術には使える属性がある。火・水・風・土・雷・光・闇・時…魔術を使える人間、一人に一つの属性だ」
「ヘー」
RPGの世界だ…
装備とかアイテムの説明とかあるのだろうか。
「ちなみに私は風だ」
梟ですものね、アモンさん。
納得。
「一人一つしかない属性なのに、須賀君は5つも使えるの?」
「火・水・土・雷・光だと聞いている」
「えー…」
「その上」
「まだあるんですか!?」
「勇者は女性にモテる」
「……は?」
須賀君が女性にモテる?
だから何?
「魔王殿。先ほどの妖精を見たであろう」
「リンカーちゃんですね。すっごく可愛かったです。そういえば、須賀君のことすごく好きだって言う感じはしましたね」
「勇者の周りにいる女性はみなあの状態だ」
「……んん?」
「みな、勇者とある一定時間以上傍にいた女性は勇者に恋をする」
「え?そうなんですか?」
「魅了のスキルもあるのではないかと私は推測している」
ゲーム脳の私にはギャルゲ主人公補正のように感じる…
なんというか、いろんな意味で須賀君はこの世界に祝福されてるんだなぁ。
「魔王殿も、気をつけられよ。貴殿が勇者に惚れてしまっては全くもって面白くない」
「はぁ…そう言われましても…とにかく、仲間を集めない駄目なことはわかりました」
私とアモンさんだけで須賀君を倒すのは無理そうだ。
仲間がいないと。
RPGの世界でもそうだもんね。
「仲間は私以外契約させられた」
「別に仲間は魔界人だけじゃないですよ」
「……」
「人間だって、リンカーちゃんのような妖精や他の種族さんたちも私達の仲間になりえるんですよ」
RPGの世界もそうだしね。