勇者、動揺する。
須賀弘幸君。
私のクラスメイト。
中肉中背。成績平均。顔も普通。
休み時間では携帯いじってるか、友達とゲームしてるかの行動しかしない、どちらかと言えば地味系眼鏡男子だ。
そんな私と平凡なところが似ている須賀君が勇者?
な、なんだか激しく納得いかない…っ!
須賀君は勇者でチート能力者なのになんで私は能力皆無の魔王なの!?
「須賀君が、勇者なの?本当に?」
「あ…その…」
「私は勇者を見たことがある。間違いなくこの男だ」
言いよどむ須賀君の変わりにアモンさんが答える。
私は、守られていたアモンさんの背よりも前に出て須賀君を正面から見る。
須賀君は驚きで目が見開いたままだ。
「どうして高塚さんがここにいるんですか?」
…クラスメイトなんだから敬語なんて使わなくていいのに。
まぁ、私もクラスの親しくないギャルな女の子にはビビってしまい、敬語を使いそうになる時はあるけど…私相手に敬語って…
「私は魔王として、勇者を倒す為に召喚されたの」
「ゆ、勇者?俺のことですか?」
「須賀君が勇者ならそうだよ」
「けど、高塚さんからは何も力を感じないんですけど」
「私には能力一切ないの」
「それでも俺を倒すと?」
「そうじゃないと私元の世界に帰れないの」
「大変ですね」
「人事のように言わないで」
「す、すみません」
激しく狼狽する須賀君。
んー…なんだかやりにくい…何この雰囲気…
「私が前に見た勇者とは別人に見えるぞ…」
アモンさんも戸惑っている。
ーと、そんな時高い声が空から聞こえてきた。
「もー!ヒロユキ!どうしてその女をさっさと倒さないの!?魔王なんでしょ!?」
「リンカー」
須賀君にリンカーと呼ばれたその子は可愛らしい妖精だった。
うわーすごい本物だ!
ファンタジーな世界に来たって実感するー!
「いつもみたいに、クールでかっこいい俺様なヒロユキを見せてよ!」
「クールでかっこいい俺様?」
「そうよ!ヒロユキは勇者であり、孤高のヒーローなのよ!『俺と一緒にいると怪我するぜ』という台詞がヒロユキほど似合う人はいないわ!」
「こ、孤高のヒーローぉ?」
仲間集めて休み時間にモン○ンしてる彼は別人なのかしら?
それに『俺と一緒にいると怪我するぜ』って…
確か須賀君は保険委員だったはずだけど、私の記憶がおかしいのかしら。
「だ、黙れリンカー!解ったかのように俺のことを語るな」
「はぁい。ごめんね、ヒロユキ」
「フン。悪かったな、魔王。リンカーはうるさい奴でな」
「あ…そ、そうなんだ…」
須賀君…さっきまで私に対して敬語だったのに…キャラ作ってたのね。
確かにそのキャラは元の世界での彼を知ってる私相手では恥ずかしいかも。
「そ、そんなしょっぱい目で俺を見るな、魔王」
「ごめんね、須賀君…須賀君には須賀君の事情があるものね…」
「だからその目はやめろ!」
いやー…しょっぱい目にもなるよ…
私は素でよかった。本当によかった。
「魔王殿、私にはさっぱり事情がわからない」
「あーその、須賀君と私はクラスメイトなの」
「そこまでは解るが、何故ああも態度が変わる?」
「人間誰しも仮面を被って生きてるんですよ…」
「仮面なんてつけていないではないか?」
「比喩です。-それよりも」
私は須賀君…いや、勇者を見た。
「勇者さん。私はあなたと話がしたい」
この話し合いですんなり私が元の世界に帰れたらいいんだけど…
そんなに上手いこと話が転がるはずがないのだ。