魔界家庭訪問
魔界は、寂しい場所。
それが私の第一印象だ。
元の世界のスラム街が私の魔界のイメージだったのだけれど、それよりも戦の後のような光景と言う方がしっくりくる。
数少ない道行く魔界の住人は目が虚ろ。
整備されてたであろう町並みはボロボロで悲惨だ。
「これも、勇者の仕業なの?」
「そうだよ。ほとんどの魔界人は人間に無理やり契約させられ、こき使われているから魔界にはあまりいないんだ。今魔界にいるのはごく一部の者だけ」
「……」
あまりいい気分ではない。
例え勇者のほうが正義があって、魔王がその世界の住人が悪かったにしてもだ。
やられたからやり返した。そんな感じがする。
それではまたやり返され、やり返し、やり返され…
無限の負のループが続くんじゃないだろうか。
勇者はそんな事は考えないの?
それとも、そこまでの権限はないのかしら?
私は勇者をギャフンと言わせる前に、一度彼とちゃんと話すべきだと思った。
まぁ、その前に私がこの世界を知らないとね。
「カースさん、魔界にいる一部の者に会いたんだけど」
「魔王様が会いたいならそうすれば?」
「会ってくれるかしら?」
「さぁね」
随分適当な返事じゃないの。
私を召喚したくせにイマイチやる気を感じないんだけどこの男。
「僕が勝手に魔王様を呼び出して、勝手に魔王に就任させたからね。みんな君の事認めてないから会ってくれない人とか多いと思うよ」
「な…なんですって!?」
「下手したら返り討ちに会うかもね。魔王様殺して自分が魔王に成り代わろうとするかもしれない」
「んなーーーー!!?」
なんというアウェー。
凡人で能力皆無だけど腐っても魔王なのに私。
勇者倒す前に味方に殺される!
これがゲームの世界なら私はやり込み要素要因の主人公よ!
『千里でレベル・デスハードをプレイしてみました』とかそんなタイトルで実況動画が投稿されるのよ!
「頑張ってね魔王様♪」
魔法使い・カースはこれまた意地の悪そうな笑顔でニタリと笑った。
…っていうか、あなたは全く私を守る気ないのね、カースさん。
基本的に現在魔界に残っている魔界人の種類は二つ。
1、弱い能力しかなく、あまり呼び出されない。
2、強すぎて呼び出しできる契約を結ばれていない。
私が会うべきは2の強い者たちだという。
というのも、弱い能力しかない者たちは基本的に知能が弱く、しゃべることが困難だからだ。
「でも怖い!チート勇者が契約結べなかった人たち相手にお話するなんて!一瞬で殺されるかもしれないのにっ!」
「そうだね。魔王様なんて瞬殺だろうね」
「ひぃぃぃ!」
「ははは。でも、魔王様は今魔界の誰に会っても危険度は同じだよ。なにせ凡人なんだから」
「そ、そりゃこの魔界の人たち誰にも勝てない自信はあるけど…」
「勇者が契約できない強い魔界人でも、魔界一弱い魔界人相手でも危険なことには変わりないんだ」
「……」
「だから、落ち着いたほうがいいよ」
「落ち着けるかぁぁぁ!!」
そんなわけで今私と案内人カースは一人の魔界人の住処の前に突っ立っている。
禍々しい雰囲気の真っ黒な家だ。
正直気味悪い。
「ど、どなたが住んでいるの?」
「知りたいの?」
「そりゃぁね」
聞きたくないけれど、聞かないで会う方がもっと嫌だ。
「なら、教えてあげる。……ここに住んでいるのは悪魔だよ」