華黄四武将登場~イーエン編~
新キャラ登場です。
読む人が覚えにくくなるからあまり人数増やさない方がいいよなと思いつつ増やしてしまいます。
でも今回はちゃんと覚えなくても大丈夫かもしれません。
絶対絶命。その言葉しか頭に浮かばなかった。
けど、そこで思考を停止しては駄目だ。
とりあえず須賀君は私に危害は加えないと思うけど、アモンさんやディーンさんにはわからない。
後で助けてもらう為にもここは二人に逃げて貰おう。
「アモンさん、ディーンさん!逃げて下さい!」
「馬鹿!そんなこと出来るか!」
「逃げるなど…笑止」
といって構えて戦闘態勢の二人。
わわ!嬉しいし頼もしいけどヤバいよこの場合!
「愚策ですわね、魔王様の部下様」
「我が姫・ディアナの言う通り。私達から魔王を取り返せるとでも思っているのか」
「そのつもりだ」
「やってみないとわからないからな」
睨み合いがしばらく続いたが、それを破ったのは須賀君だった。
「俺がそいつらを片付けよう」
「あら、勇者様自らですか?」
「ああ。お前らも長旅で疲れただろ?そこでゆっくりとしてるがいい」
「しかし、我が姫・ディアナはともかく私は…」
「カトレット。俺がやる」
「…承知いたしました。勇者・ヒロユキ」
渋々といった感じで一歩下がるカトレットさん。
彼女に捕まっていた私も一歩下がらされる。
ヤバい。
本格的にヤバい。
実力をちゃんと見たことないけど、カースさんにチートと言われた須賀君だよ?
いくらアモンさんとディーンさんでも勝てる気がしない。強いと呼ばれている人をバタバタアッサリ倒してしまうのがチートなんだよ。
無理無理絶対無理!
「魔王殿…そこまで露骨に絶望されると流石に悲しいぞ」
「俺達それ程信用ない?」
「いや、だってチートの須賀君だし…」
とても傷ついた顔をするアモンさんとディーンさん。
ごめん。
二人のこと信用してるし、頼りにしてるけど、ソレとコレは別!
そりゃ私は須賀君の戦う様子を見たことはないけど…前魔王を倒した須賀君を策もなしに戦うなんて無茶だ。
「お願いです。逃げて下さい二人とも」
私がそう言うと渋々アモンさんが頷いてくれた。
「……それが魔王殿の願いなら」
アモンさんは再び大きな梟の姿になり、ディーンさんが飛び乗った。
そして風のように逃げ去る。
「逃がすか」
須賀君が剣を抜く。
飛び立つ二人に地上から攻撃をする気だ!!
私はとっさに叫んだ。
「ああ~!いたたたたたたたた!痛い~!」
「「「!?」」」
私は右腕を押さえて地面に倒れ込む。
あまりの突然の痛がりようにカトレットさんも私の拘束を外してしまったようだ。
「高塚さん!?」
慌てて駆け寄り私を抱き起こす須賀君。
そこで私は困ったように笑った。
「ごめんね、須賀君」
「!」
須賀君はすぐさま空を見上げたがもう遅い。
アモンさんの姿はもうどこにも見えなかった。
「俺を騙すとはやるじゃないか、魔王」
「腐っても魔王なんでね」
部下を守る為なら出来ることはするよ。
「勇者様、魔王様。いい加減離れては如何でしょうか?」
ディアナさんの一声に須賀君はハッとする。
慌てて抱きかかえた私から離れる。
私もすぐに立つ。
「勇者・ヒロユキよ、これからどうする?」
「どうもしない。予定通り頂上に向かう」
「魔王を連れてか?」
「何か問題でもあるか?俺とお前たちがいて、コイツを逃がすとでも?」
「いえ、そうは思わないが…」
「勇者様、カトレットは魔王様を何故倒してしまわないのかと聞いているのですわ。そしてそれは私も同意見ですわ」
「……」
あ、あれ?
もしかして私命の危機?
いやでも、いくら異世界とは言え元の世界仲間の私を殺すハズないよね?
だってこの世界では英雄だけど、元の世界ではただの高校生だよ?
殺人事件になっちゃうよ。
須賀君はこの世界にずっといるつもりじゃないよね?
なんだか、怖くなってきた。
「コイツを囮にする」
「なる程ですわ。魔王様の部下様をおびき寄せるのですね」
「それだけじゃない。おい魔王」
「なに?」
「お前をこの世界に召喚したのは誰だ?ソイツの目的はなんだ?」
隠すような事でもないので素直に答えた。
「名前はカースさん。魔法使いって言ってた。目的はよくわからない。兎に角須賀君を倒してほしいんだって、私に」
「カース?知らないな。ディアナ姫にカトレット、お前たちはどうだ?」
「存じ上げませんわ」
「聞かない名だ」
「魔法使いのカースか…ソイツを捕まえなくては他にも魔王を呼び出しかねない」
「囮の意味よくわからりましたわ」
「ああ。だか今は先にブラックマウンテンの主に会うのが先だ」
「え!?須賀君も主に用事があるの?」
「数日前から連絡が取れないから俺が来た」
「へー、そうなんだ」
須賀君はさっき鞘から抜いて私を助け起こす為に放り出した剣を取り、収める。
制服着てるのに剣を腰にぶら下げていて変な感じだ。着替えてないのかな?
いや、私と同じく制服に魔術がかかってるのかもしれない。
実は私の制服は汚れてもすぐにキレイになる魔術がついているのだ。
これは異世界召喚された時にとあるゲートを通るらしいんだけど、その時の副産物らしい。
私が須賀君に尋ねてみると、矢張り彼の制服にも魔術がかかっているらしい。
「俺の場合はその他に最強の防御の魔術がついている。火の中飛び込んでもこの制服は燃えないし、並みの剣では切り刻むことも出来ない。拳で殴られても痛くない」
またここでもチートステータス!!
この魔術洗濯要らずだラッキ~とか思ってた私馬鹿みたいじゃん!
しかし、それならずっと制服なのも納得だ。
下手な鎧よりも軽くてしっかり守ってくれるのだから。
「俺の服なんてどうでもいい。そろそろ行くぞ」
「はいですわ」
「わかった」
「じゃ、私はこれで失礼…」
「逃がすか、魔王」
「ぐぇ」
カトレットさんに首根っこ掴まれた。
そんなわけで私は勇者一行について行く事になった。…わけなんだけど
ビュンビュンビュン!
スタッ!スタッ!
漫画やアニメでは見たことあるであろう、木から木へと飛び移る移動方法。
それを容易くやってみせる須賀君達。
ディアナさんだって綺麗なドレスで軽やかに飛び移っている。
須賀君なんて制服黒っぽいから忍者みたいだ。
「どうした魔王。飛び移れ」
「無理です」
カトレットさんが急かすが無理なものは無理だ。
こんな漫画みたいな真似が出来るのは現代人なら須賀君だけだよきっと。
「何事だ、カトレット」
「勇者・ヒロユキ、魔王がこの移動方法では無理だと言う」
「いや、無理だよ!?現代人の須賀君ならわかるでしょ?」
「そ、そうですね。俺、自分の身体能力が最初からステータスマックスなのを忘れてました」
またか!
愛されてるな畜生。
ていうかまたキャラ戻ってるよ須賀君。今回はすぐに気づいたようですぐに口調をなおす為に咳払いをした。
「なら仕方ない、俺がお前を抱えよう」
そして、さらりとそんな発言をした。
え!?
こう見えても私結構体重あるんですけど!
ディアナさんとカトレットさんもビックリした顔してるよ。
「いや、いいよ!私重いし!」
「勇者様、それではお身体に負担がかかりますわ」
「我が姫・ディアナのおっしゃる通りだ勇者・ヒロユキ。それなら騎士である私が抱えよう」
「女にそんな真似させれるわけないだろ」
「女であるが私は騎士だと何度も言っているだろう」
「騎士の前に女だろと何度も言わせるな」
「しかし」
「俺相手の時くらい女扱いされとけ」
「……わかった」
おーおー。
カトレットさん、顔が赤いよ。
リンカーちゃんといい、カトレットさんといい、モテるねー須賀君。
流石ギャルゲ的主人公体質。
「では、行くぞ魔王」
「え、あ、うぎゃあ!」
いきなりお姫さま抱っこされて驚きを隠せない私。
須賀君はそんな私を意に介さずジャンプし、木から木へと飛び移る。
うわわわわっ!怖い!
「す、須賀君!怖いよ!」
「暴れないで下さい高塚さん。落としたら一大事だ」
「おお落ちる!!?」
ガバッ
「!?」
思わずしがみつく私。
顔を赤くしたり青くしたりして百面相な須賀君。
「たたた、高塚さん!?」
「高イノ怖イ!落チルノ嫌!」
「なんでカタコトなんですか!?」
そんな漫才みたいな掛け合いをしていたら、だんだん高さやスピードにも慣れてきた。
そりゃまだ怖いし、須賀君にすがりついたままだけど、パニックは大分収まってきた。
そこでようやくディアナさんとカトレットさんの冷たい視線に気づいた。
「勇者様と魔王様は仲がよろしいのですわね」
「あまり敵と親しくするのは感心できない」
ははは、本当に須賀君はモテるねー。
胃が痛くなってきた…
「!」
急に須賀君の動きが止まった。
どうしたんだろう?
「そこに居るのは誰だ?」
「バレてしまいましたか」
木の影からすっと出てきたのはどことなく中華風な装いの強そうな男の人だった。
筋肉ムキムキの超マッチョ、勿論高身長。
その身長以上の大きさの馬鹿デカイ剣に、高くて重そうな鎧。
そんな外見なのに知的そうな眼鏡をかけて、ですます口調。
インテリキャラなのか筋肉キャラなのかはっきりしてほしい。
「私はイーエンと言う者です。本日は勇者殿に決闘をしに来ました」
「わざわざこんな所でか」
「それはすみません。お城に行ってもいらっしゃいませんでしたので。あまり悠長にしていると入国ビザが切れてしまいますのでこのような場所での申し込みとなりました」
やっぱり他の国の人なんだね。
ていうか、異世界にも入国ビザあるんだ…
「あの魔王を倒したという勇者・ヒロユキ…私は是非とも戦ってみたいのです」
「その服装…お前は華黄大帝国の名のある武将と見た」
「左様です」
武骨な身体に似つかわしくない丁寧なお辞儀をするイーエンさん。
華黄大帝国といえばこの世界に何個かある大きな国の一つね。
一応アモンさんとカースさんに聞いててざっくりとした国の知識はあるのだ。
かおう…某有名会社の名前みたいとか思っちゃ、駄目。
「私は華黄四武将が一人、剛賢のイーエン」
「四武将だと?」
「カトレット、あの方を知っているのですか?」
「我が姫・ディアナ、面識はありませんが噂は聞いております。華黄四武将…かつて戦が続き混乱状態だった華黄大帝国をたった四人で鎮めてしまったと言う強者達だとか」
「そう言えば私も聞いた事がありましたわね。四武将が一人、剛賢のイーエンは強靭な肉体に先を見据える事ができる慧眼を持った人物だと。…勇者様よりも武に優れているのではとおっしゃる方もいるそうね」
「確かに、勇者・ヒロユキは戦闘経験は少ない。それでも、魔王を今まで野放しにしていた輩に負けるなど…」
「晴れない顔ですわカトレット。それ程の方なのですわね…」
カトレットさんにディアナさん、解説とフラグ設置ありがとうございます。
「…勇者・ヒロユキだ」
応えて自らも名乗る須賀君。
イーエンさんが構える。
わわっ!ここで決闘を始める気だ!
ていうか私まだお姫さま抱っこされたままなんですけど!
「では…いざ!お相手願います!」
巨体に見合わぬ速さで木から木へと飛び移り、こちらに向かってくるイーエンさん。
ギャアア!巻き込まれる!
「須賀君降ろして!私を抱えたまま華黄四武将の一人と戦うなんて無理でしょ?」
「え?いや、大丈夫ですけど」
「へ!?」
心底意外そうな須賀君に目を丸くする私。
「あんなに強そうな人なのに!?万全の状態で挑まないと下手するとあの大きな剣で真っ二つだよ!」
「いや、でも、大丈夫です。俺一応勇者なんで」
ガキィィン!
「!!」
「なんですって!?」
私も攻撃をしたイーエンさんも驚きを隠せなかった。
須賀君は瞬時にお姫さま抱っこから私を片腕で抱き寄せる体勢になり、反対の手で剣を受け止めた。
嘘でしょ?あんなに大きな剣を上から振り下ろされたのに簡単に受け止めるなんて…
「心配しなくて平気です。俺、ちゃんと高塚さん守るんで」
私には相変わらず敬語だか、顔は自信に満ち満ちている。
「貴方がそれ程の実力なのは想定内ですよ!」
イーエンさんはあっさり馬鹿でかい剣を手放し、何処からともなく普通サイズの剣を取り出した!
そしてすごい速さで須賀君に何度も斬りつける。
不意をつかれた須賀君であるが、それを簡単に避ける。
次から次へと繰り出される剣技も避ける避ける。
さらにイーエンさんは剣を繰り出しつつ火の魔術を使い始めたようで、火の矢やら刃物やらが剣技の隙から襲い掛かってくる。
それも難なく避けてしまう須賀君に焦り始めるイーエンさん。
「くっ…ならば私の奥義・朱雀炎武舞で…!」
「悪いが、そこまで付き合ってる時間がなくてな。終わらせてもらうぞ」
須賀君が指先から小さな火の玉を作り出す。
これを見てイーエンさんの顔がさらに険しくなった。
「馬鹿にしているのですか?私の属性は火。しかもそんな初期魔術で倒せると思っているのですか」
「そんなつもりはない。ただ、俺の加減の問題だ」
「…どういうことです?」
「初期魔術なのは森を燃やし尽くさない為、お前の属性なのは殺さない為だ」
「初期魔術で、しかも私の属性と同じ攻撃で殺さないように加減ですって?冗談もほどほどにされた方がいいですよ。勇者殿」
「本気だとわからないのならいい。お前はそれまでの男と言うことだ。華黄四武将というから多少は期待をしたんだけどな…」
須賀君が火の玉をイーエンさんの方向に投げつけた。
「お前は俺の敵ではなかったようだ」
ゴウゥ!
須賀君の手から離れた瞬間火の玉の火力がどんどん増した。
しかもものすごい速さで。
「なんですって!?そんな馬鹿な…!?」
イーエンさんもあまりの速さと火力に驚く。
よけることが出来ず、そのまま炎の塊が直撃した!
「うぎゃぁぁぁぁぁっ!あああああっ!私がっ!華黄四武将の私が!炎を扱うこの私が!敵の炎に焼き尽くされるなんてっ!!ああああああ!熱い!あついーーーーー!」
あっという間に火達磨になったイーエンさん、木の枝の上に立ってられずに落下してしまう。
それでも受身は取れたようで、落下した先で火を消そうと転がっている。
「気絶したら水魔術をかけてやれ、ディアナ姫」
「わかりましたわ。相変わらずお優しいのですね。勇者様」
こうして須賀君は私を片手で抱えたままあっさりと華黄四武将が一人、剛賢のイーエンを倒したのであった。
次回は華黄四武将・闇紛れのフェイが登場予定です。