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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
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婚約破棄・処刑エンドから巻き戻し転生しましたが、その前に日本でマンガ家やってました

作者: 雪ねこ柳
掲載日:2026/07/31

よろしくお願いします。


 私の名前は、ジュディ。ステイトン侯爵家の長女として生まれた。

 私には幼い頃から決められた婚約者がいる。ブライアン第一王子殿下だ。

 子供の頃はそれなりに仲が良かったとは思う。だけど、少しずつ大人になるにつれて、互いの心が違うものを求めていくのはどうしようもないこと。

 

 私は彼を大切に想っていた。たとえ決められた婚約であったとしても、彼を支える1人でありたいと、そう思って努力してきた。

 だけど、貴族が15歳になったときに通う学園で、彼は運命の人に出会ってしまった。

 ポリー・フレーザー男爵令嬢。彼女との出会いが、彼を狂わせた。

 

 運命の愛だと、彼は隠すことなく私に伝えた。

 王家には側室制度がある。彼女は私達が結婚して世継ぎが誕生した後にでも、そこに入るのだろうと、そう思っていた。

 だが彼は、そして彼を利用して甘い蜜を求める者たちは、そこまで待てなかったようだ。

 

 

 学園の卒業パーティで、壇上に上がった彼は、ポリーを隣において、宣言する。

 

「ジュディ・ステイトン!君は、このポリーの命を狙った、反逆者だっ!君との婚約を破棄する。そして、君には処刑を命ずる!」

 

 意味がわからなかった。王子が勝手に婚約を破棄し、勝手に判決を言い渡し、そして、刑を実行するなんて。

 

 ポリーの命を狙うだなんて、そんなことはしていないと言いたかった。だけど、その前に、彼の護衛が剣を取り、壇上から飛び降りた。勢いそのままに、私に剣を振るう。

 

 一瞬の出来事だった。

 

 微かに周りの声が聞こえる。悲鳴、叫び声。

 

「王子、なんてことを……」

「誰か、助けて!」

「先生を呼んできて!」

 

 誰かが私を抱きかかえているのがわかった。

 うっすらと開く目には、微笑む王子の姿が見える。

 ああ、この人は。私が大切に想っていたこの人は。私が欲しかった笑顔を、今ここで見せるのね。

 あの人に言いたかったことは沢山ある。だけど、何も言えず、私の命は、消えた。

 


*****

 


「はっ」

 

 目が覚めた。ベッドの中。汗が止まらない。

 夢だったの?いや、夢じゃない。では今はいつ?そしてここは?私は、()

 

「お目覚めですか、お嬢様」

 

 メイドのアイニが部屋に入ってきた。

 

「どうなさいました、悪い夢でも?まあ、ひどい汗。朝ですが、湯浴みなさいますか?」

「……そうね、準備してくれる?」

「かしこまりました」

 

 退出しようとするアイニに声をかける。

 

「ねえ、今日は何日だったかしら」

「はい、春の始まりの月の4日でございます」

「そう、何年?」

「ファレス67年でございます」

「ありがとう」

 

 不思議そうな顔でアイニが去る。

 

 私はベッドから降りて、鏡の中の自分を見る。

 

「そう、今日はあの日から5()()()なのね」

 

 そこには、葡萄色の長い髪と紫黒の瞳の、あの時より少し幼い自分がいた。

 

「どうして巻き戻ったのかしら。それにどうして……」

 

 私の独り言は、途中で止まった。なぜなら、

 

「お嬢様ー!」

 

 叫び声と共に、扉がぶち壊されたからである。

 

「何事?」

「お、お嬢様はご無事ですか?ああ、生きておられる、生きて……」

 

 私の護衛である、リックが泣きながらゆっくり私に近づき、そしてそのまま座り込んだ。大きな音に驚いて多くの使用人がやってきて、その惨状に戸惑い立ち尽くしている。

 

「いろいろ思うところはあるけど、とりあえずリック?」

「はい?お嬢様」

「着替え前のご令嬢の部屋をぶち破って、何してんのよ」

「も、申し訳ございませーん!」

 

 とりあえず、追い出した。

 


 朝の支度と朝食とお父様からのリックへのお叱りの後で、私はリックを部屋に呼んだ。

 部屋の扉は修理中なので、しばらくは客間を使うしかない。そこには私とリックが、テーブルを挟んで対面していた。

 本人は座ることを固辞したけれど、見上げると首が痛くなると言ったら、渋々ソファに腰を下ろした。

 メイドのアイニは、私の後ろに控えている。アイニは口が堅い、私の忠臣だ。彼女にはこれからの話は他言無用と云い含めてある。

 

「それで、リック。今朝のことだけど」

「はいお嬢様」

 

 リックが背筋を伸ばした。彼は胡桃色の短い髪と栗色の瞳のゴツい護衛だ。年齢は私より3歳ほど年上で、昔から私の警護をしている。

 長年の付き合いの彼がこれほど真剣な眼差しで私を見ているのは、正直初めてな気がする。もしかして彼も。

 

「あなたは、私が死んだと思っていたの?」

「はい、そうです」

 

 その答えに、アイニも驚く。

 

「なぜお嬢様が亡くなるなどと」

「そ、それは」

「アイニ、今朝、私は今日が何日なのか聞いたでしょ?」

「はい」

「それはね、私は18歳で死んで人生が巻き戻って、今日から人生をやり直しているからなのよ」

「え、それはどういう……」

「私もです。私も殺されました。お嬢様が殺された後に、奴の護衛に」

「そう、あなたも」

「はい」

 

 戸惑うアイニに、自分が殺された時のことを話して聞かせた。王子の浮気、婚約破棄からの王子独断による処刑。あまりにも惨たらしい内容に、アイニが慄く。

 

「ですが、今お嬢様はこうして生きておられます。そのようなことは……」

「そうよね、普通は信じないわ。そうね、今日は……アイニ、明日の朝刊の内容を教えましょうか?ルオッカ伯爵の家に査察が入るのよ。それで、長男の不正が明るみになるの」

「そうなのですか?」

「とりあえず、今日は信じてもらえなくても、私達の話を聞いていて頂戴。信じるのは明日以降でいいわ」

「はい、お嬢様」

 

 彼女は嘘は言わない。私に取り入ることもしない。だから信じてもらおう。今生も。

 

「それで、リック。あなたはどこまで記憶があるの?」

「はい、お嬢様と同様だと思います」

「そう、それなら私しか知らないことを言って見て」

 

 もしも彼も同じなら、知っているはず。

 

(まき)モドリ子先生」

「は?」

 

 アイニが驚く。

 

「他には?」

「私はアシスタントBでした!」

「やっぱ、お前かいっ!」

「はい、モドリ子先生〜」

 

 私達は、ハイタッチをかました。スパコーンといい音が炸裂した。

 

*****

 

 私には、前世の記憶がある。とは言っても、その前世はジュディが王子に殺された後の話である。

 王子に殺されて、普通はそこから巻き戻るのがセオリーなんだろうけど、私の場合はそこから一度日本で生まれ変わっている。日本で大往生してから、今の自分であるジュディの過去へ巻き戻ったわけだ。

 

「私はこことは違う世界で生まれ変わっていたのよ。日本っていう国でね」

「はあ」

 

 アイニは話の展開についていけず倒れそうになったので、一緒に座ってお茶を飲んでいる。

 

「そこで、マンガ家をやっていたのよ」

「私は先生のアシスタントBでした」

 

 うんうんとリックが頷く。

 

「あの『マンガカ』とはどのようなお仕事なのでしょう?」

「そっか、わからないわよね」

「はい」

 

 部屋の奥にある机に行き、そこにあった紙に絵を描いていく。

 

「まあ、これは!」

「こちらの世界の絵画とは異なるタッチでしょ。これを紙に書いて、セリフもつけるの」

「小説の挿絵とは違い、絵そのもので物語を語るのです」

「これなら文字が読めない者でも、楽しめそうですわね」

「そうね、こちらの世界でも受け入れてもらえそうかしら」

 

 私の目が、きらりと輝いた。それをリックが見逃すはずがない。

 

「お嬢様、我々のやることは、決まりましたね」

「ええ、まずは婚約解消ね」

「そっちですか?」

「そりゃそうでしょ?」

「でも、前回婚約解消しようとしても、ダメでしたよね」

 

 そう、前回もお父様にお願いしたのだ。王子の気持ちが私にない以上、不幸になるのは目に見えていたから。だが、お前の魅力がないせいだとか、ハラスメント発言しまくられた。

 

「あのクソ親父」

「ヒイイ、お嬢様からクソ親父発言」

 

 アイニが泣く。

 

「この程度で泣いてはいけませんよ、アイニ」

「予告が怖すぎます」

「それでは、こうしませんか?」

 

 私達は作戦会議を行なった。

 


*****

 


「皆様、『マンガ』をご存知?」

「もちろんですわ。あんなに読みやすい書物があるのですね」

「それに内容も。うふふ、小説ではあのような恋物語はございませんもの」

「大胆な表現で、初めはとても驚きましたわ。でも両親は読むことを許してくださいませんの」

「私のところもですわ。でも、お母様もこっそり読んでいらっしゃるのよ」

 

 ご令嬢たちがお茶会でコソコソ、マンガの話をしている。

 隣の青年達も同様で。

 

「先日発売された『僕は君に恋の雨傘をさすんだよ』を読んだか?」

「ああ、雨の中に佇む女性。雨で服が濡れて」

「おおう、そこに男が来て、寒いと震える彼女をギュッと抱きしめて」

「たまらぬ」

「雨傘になりてえ」

「そっちかよ」

 

 彼らの会話を録音してえ。そんな気持ちをおくびにも出さず、紅茶を優雅に飲み干す。

 


 あれから私達はマンガを描き始めた。とは言っても、まずは風刺画から始めた。いきなり普通のマンガを発表しても、読者がついてこれないかもと思って。

 今の王の政治に不満を持つ者は、意外と多くいるのだ。王自身はそんなに悪くはない。だがその取り巻きやら、王妃や王子には不安しかない。

 問題を訴える新聞が発行されているのは知っていたので、そこに行って風刺画を見せたところ、ものすごく喜んでくれた。

 

「素晴らしい!これなら文字が読めないものにも訴えることができます」

「そうでしょう。他にもマンガという異国の文化がございますのよ」

「すんばらしい〜!内容も斬新ですね。これは是非ともうちで出版させてください!」

「前世の自分に聞かせてやりたいセリフ第一位を聞いた」

「リック、何泣いてんのよ」

「いや、前回は一生アシスタントだったもので」

「今は先生でしょ、あなたも」

 

 私達は出版社と契約を結び、新聞用の風刺画とマンガを制作することになった。

 この世界には電気はないけど魔道具や魔石があって、日本のように印刷が可能だ。だから、新聞も読めるし、本も多種多様揃っている。だけど、娯楽小説の内容は少しおとなしめというか。

 

 日本では普通の恋愛モノでも、こちらの世の中では少し刺激が強いようで、そのおかげでかなりの反響があった。

 

 風刺画もその表現方法はもちろん、内容もかなりの衝撃を与えたようだ。出版社の人々は国から逃げまくりながら、出版の日々を続けた。どうもスポンサーがいるみたい。そうでなければ、隠れて印刷もできないだろうし。

 

 マンガも風刺画も世に広まり、それによって徐々に政治の流れも変わっていった。


 

 

 マンガも風刺画も人気が凄いのはいいんだけど、現在描けるのは私とリックだけ。だって、他にマンガ家いないし。

 

 とてもじゃないが手が足りなくて、アイニにも手伝わせた。

 そうすると、アイニの他の仕事がどうしても疎かになる。すぐに侍女頭にバレた。

 事情を説明すると、

 

「まあ、あの有名な、マンガの!」

 

 すぐに追加で人を雇ってくれた。

 そうすると、家令や執事も気がつく。事情を説明すると、

 

「おおお、あの高名な!」

 

 すぐに私の家庭教師を解任して、学園も休学扱いにしてくれた。勉強する暇ないし。

 そうすると、お母様、お兄様が気がついた。そして、お父様にも、バレた。

 

「おおお、あなたがあの『きゅるるん、アリスたんの魔法のお勉強♪』の作者の、アシス・タントビー先生でいらっしゃいますかあああっ!」

「まあああ、貴女が、マキ・モドリコ先生ですって?!『ラブラブな二人は今日もラブラブブ♪』大好きです!」

「うおおおおっ、俺のバイブルマスター!」

 

 全員ファンだった。

 

「お父様、原稿忙しくて王子妃教育なんて無理。婚約解消したいのー」

「よろこんでーっ!」

 

 あっさり婚約解消となった。

 このままずっとうちにいて、ずっと原稿描いてていいんだよと、家族・使用人全員のお墨付き貰ったんだけど。

 


 それに、執筆環境も改善してくれた。

 

「疲れた」

 

 と言ったら、治癒魔法使いを雇ってハイポーションをガンガン飲ませてくれた。これ確か、死にかけても絶対助かるやつだよね。今飲めるんかい。

 治癒魔法使いも我々のファンで、 

 

「先生を死なせるわけにはいきませんから」

 

 と、ドラゴン倒して材料入手していた。いや、モチベすげえな。

 

「スクリーントーンや、いろんな形のペンや定規が欲しい」

 

 と言ったら、魔道具師に依頼して作ってくれた。いつかパソコンとかタブレットも頼みたい。

 

 アシスタントも欲しいと言ったら、画家志望の若者を集めてくれた。だが、奴らはパトロン貴族目当てで集まってきた者ばかりだった。

 面接は、家令と執事と侍女頭が行ってくれた。

 

「マンガなんて芸術ではありませんな」

「そうです。我々の絵画のような崇高な……」

「ほれ、アシス・タントビー先生の生原稿」

「「「うおおおっ!アリスたんの、涙目顔ドアップー!!」」」

「アシスタントになったら、先生と一緒に仕事できるのになー。先生が描いた原稿に自分も背景とか描けるのになー」

「え、アシスタントとは、そういうお仕事なのですか?」

「そうです。先生の原稿の補助。そして、一番最初の読者になれる特権付き」

「「「はいはいはーい!アシスタントになりまーす!!」」」

「お前ら、全員ファンやんけ」

 

 全員土下座した。

 

「「「生意気言って、すんませんでしたー!!」」」

「んじゃ、一応誓約魔法かけるよ。どこかで先生のことバレると困るし」

「「「喜んでー!!」」」

 

 アシスタント、大量導入成功。ただ、我々の生原稿見て号泣しながら拝んでいて、しばらくは使い物にならなかったが。

 


 

「ねえ、リック。マンガの内容なんだけどさ、そろそろもう少し大人の表現しても大丈夫かなあ」

「そうですね。みんなだいぶ慣れてきたと思いますよ」

「実はさ、例のマンガを描きたいのよね」

「例のって……巻モドリ子先生のヒット作『ブライ・アン王子の、優雅な恋人達』シリーズですか?」

「そう、あいつ」

 

 私はニヤリと笑った。目はまったく笑ってないが。

 

 実は、前世の私は、BとLのお話も書いていたのだ。元々そっちの方が有名だった。

 

 きっかけは、日本でもジュディのことを思い出したことだ。

 王子に殺されたことを思い出してムカムカして、こいつらを主人公に漫画描いて、酷い目に合わせたろって発想からである。


 『ブライ・アン王子×護衛』とか、『ブライ・アン王子×宰相』とか。宰相はおっさんだけど。

 ありとあらゆるシチュで、王子をいたぶった。うけけ。それがなぜかウケて、そこそこ売れた。ありがとう、王子。

 

 それを再びここでも描いてみた。

 名前もそうだけど、もちろん顔もそっくりに。

 護衛は、私達を殺った奴な。お前も描いちゃる。うけけ。

 この本もかなり売れた。ありがとう、王子。

 


☆☆

 


「なんだ、このマンガというやつは!私がこんなことするわけないじゃないか!」

「そそそ、そうですわね、ブライアン様あ。そ、それで、宰相様とは……」

「会っていない!最近あいつ、なぜか私をじっと見ていることが多くて、怖いんだが!」

「護衛は?」

「護衛、チェンジした!」

「ちっ」

「ポリー、ねえ、今、舌打ちした?」

「まああ、そんなことありませんわああ」

 

 特等席で見たかった。

 

「なんか下心聞こえたけどっ?」

 


☆☆

 


 そして、私が18歳になる頃、王が退位した。

 どうやら風刺画の力は凄まじかったようで、国を動かしちゃったよ。いや、マンガを普及させるために描いただけなんだが。王様ごめん。

 

 王位は王弟に受け継がれ、王子は廃嫡された。

 だがその後、元王子は行方不明になった。元宰相と元護衛も消えたそうだけど、まさかねえ……。


 ちなみにポリーは、マンガに沼って、今は私のアシスタントをしている。

 人生ってわからん。

 

 王弟は「私もマンガのキャラにならないよう気をつけるよ」と言ってたとか。王弟、マンガに詳しくね?まさかスポンサー……ゲホゲホ。

 


*****

 


「お嬢様、無事に生き残れましたね」

「ええ、よかった。だけど」

 

 私達は今、人生を巻き戻してから初めてお茶会をしたあの部屋で、またお茶を飲んでいる。

 あれから5年経ったのね。

 だけどこの部屋に、当時の面影はない。今、部屋には複数の机と椅子が持ち込まれ、紙が散乱している。

 元々あった小さなテーブルとソファは部屋の隅に追いやられ、現在そこでお茶を嗜んでいる。

 

「日本の頃と変わりませんね」

「本当、修羅場は相変わらずね」

 

 机で寝ているのは、アシスタント達だ。

 彼らもかなり上達して、そろそろデビュー出来そうな子もいる。ポリーも優秀で、少女マンガ部門で頑張っている。彼女もそろそろデビューさせてもいいかもしれない。

 

「これからどうします?」

「そうね、せっかく生まれ変わって断罪を回避できたんだから、人生を楽しみたいわね」

「……お嬢様に伝えていないことがあります」

 

 リックがカップを置いて、私を真剣な目で見つめる。もしかして……。

 

「じ、実は」

「は、はい」

 

 私も背筋を伸ばした。

 

「どうして巻き戻ったんだと思います?」

「え?知らない」

「私、死んだ後の記憶があるんです」

「そうなの?」

「最初に死んだときは『可哀想だから、別の世界で幸せにね』って、女神様が送り出してくださったんです。だけど……」

 

 気まずそうに、リックが下を向いた。

 

「何かあった?」

「はい、日本での生を終えてからまた女神様にお会いしたんですけど、その時にお願いされまして」

「お願い?」

「……続きが読みたいと」

「……何の?」

「巻モドリ子先生の『ブライ・アン王子×シリーズ』です」

「あれかい!」

 

 思わず立ち上がった。

 

「『あれの続きが読みたいから、戻してあげるわね。ついでに少し若返らせてあげるわ。待ってるわね』とのことです」

「つまり、これからも続編を描けと」

「そういうことです」

 

 はあーとため息をついて、座り込んだ。ってーと何か?私は続編描くために、巻き戻ったってか?

 

「そっちかーい!!」

 


*****

 


 その後、マンガは我が国の文化のひとつになった。老若男女、貴族平民問わず、皆が楽しめるものに。

 マンガを読むために文字を学ぶ、それが知性を向上させ、文化や政治あらゆるものが進化していった。

 

 政略結婚もマンガのネタに多く利用されたせいで、今は恋愛婚が多くなった。

 そう、私も今度、好きな人と結婚する。

 相手は平民だけど『トレンドですね』ってことで許可された。

 ずっとここに住んで好きにしていいよってお父様もおっしゃるし。出版する前に読む特権とか言うのやめて。

 

「お嬢様、覚えてます?アシスタントB以外の私の前世の名前」

「うーん、正直覚えてない」

「でしょうね」

 

 リックが苦笑いを浮かべる。

 

 でもね、覚えていることもあるのよ。

 王子の護衛に斬られて逝く寸前、私を抱き起こしてくれたのは、あなたよね。

 みんなが王子から逃げる中、私を抱いて言ってくれたでしょ?

 

「愛しています。これからも、ずっと」

 

 だから、前世日本でも一緒にいたんでしょ。

 呼び名なんて『ねえ』とか『あのさあ』とか。名前なんて照れ臭くて呼べなかったわね。

 

 前世も今も。ずっと一緒ね。

 

「私のことも、お嬢様とか先生って呼ぶの、いい加減やめてよね」

「……そうですね。愛していますよ、ジュディ」


ジュディ「『王子×シリーズ』の新作、どうやって女神さまに贈ればいいのかしら」

リック「とりあえず神殿の供物でいいんじゃないですか」

それを読んだ聖女が、沼る。

聖女「布教せねば……」ハアハア。

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