水分補給をしてください。
田んぼ道の自販機が喋った。
おじさんとの夏のひととき。
夏のせいだと思いたかった。
夏のうだるような暑さの中、コオロギの声を聞きながら田んぼの横を歩く。
「夜もこんなに暑いなんて終わってる……。」
そんな独り言をデカめの声で言ったとしてもこの村には街灯すらも返事をしない。
夏休みで昼夜逆転しただるい体をほぐそうと夜に散歩をするのが習慣になってしまった。このままだと朝日を見るのはいつになるやら……。
自販機の明かりに呼ばれて歩みを進める。
『いや〜、今日は暑いねー。こんなに暑いとおじさん。クーラーに当たりたくなるよ。』
「はは、そうですね。私も早くクーラー浴びたいなぁ……。」
……。……。
ん?
「え?」
『え?』
思わぬ衝撃に後ずさり尻もちをつく。
痛覚など今はない。
『あぁ……大丈夫ぅ?おしり痛いでしょう。』
遅れてきた痛みに患部を擦りながら立ち上がる。
「えっと……。これはどういうことなんでしょうか。」
多分だいぶおじさんだから敬語を使ってみる。
『いや〜おじさんもね、分からないんだ。起きたら急にこんなところに閉じ込められてさ。』
「なんて災難な……。」
『まぁ、プロニートだからね。僕は。そろそろ働けって神の思し召しだよきっと。』
順応早くないか。この人。人?このモノ?この自販機?
「あぁ……。そうですか。もう夜遅いのでお気をつけて。」
そう言い残し、小走りで家に帰り自室の扉を勢いよく閉める。
「あんたまたこんな時間に出歩いて、危ないでしょう。」
驚いて起きた母に叱られてしまった。
こんな悪夢があっていいはずないと、ベッドに倒れそのまま意識を手放した。
……。あぁ、あれはきっと私の未来だとそう思った。
ここには痛覚も味覚もない。視覚と口と温度だけがある。
私はなんの罰でここにいるのだろうか。それが分からないこと自体が罪なのだろうか。
『こんばんは。今日も暑いですね。水分補給をしてください。』
そう、今日もこの村の住民に告げる。
田舎虫の音って騒音レベルですよねぇ。




