03.
三ヶ月後。
マデューカス帝国の片隅にオープンした小さなアトリエには、爽やかな薬草の香りが満ちていた。
棚には真新しい道具がずらりと揃っている。
リーゼロッテは作業台の前に立ち、気合を入れるように腕まくりをした。
「さて、やるわよ」
彼女の錬金術は、既存のスキルに頼るだけの凡庸なものではない。
透き通った冷たい水に厳選した薬草を浸し、静かに魔力を込めていく。
ただ魔力を注ぐだけではない。
それぞれの物質の分子構造を深く理解する。
流した魔力をナイフのように使い、一度極限まで分解するのだ。
そして魔力を自在に操り、最適な形へと再構成していくのである。
これが、リーゼロッテの祖父、【ニコラス・フラメル】師より習った、【フラメル式錬金術】だ。
魔力と素材さえあれば、どんな凄いものでも、作ることができる。まさに超技術である。
しかしその技術を生かすには、物体への深い理解が必要となるのだ。
現代知識と天才師匠からの教えがある彼女に、作れないものはない。
淡い光とともに、フラスコの中で液体が黄金色に輝き始める。
「うん、良い感じね。とりあえず、どんどん作ってみましょうか」
才能を隠す必要がなくなり、本来の錬金術オタクとして覚醒した彼女は、夢中になって特製ポーションを量産していく。
ややあって。
「ふぅ……ちょっと作り過ぎちゃったわね」
テーブルの上には、目も眩むような黄金色の輝きを放つ大量のポーションが乗せられていた。
「ま、腐るものでもないし、ストックしておけば、何か役に立つことがあるでしょ……」
そのときだった。
アトリエのベルがチリンと軽やかな音を立てて鳴り、女商人の友人アマンダが冒険者ギルドの職員を連れてやってきた。
「ロッティ。急ぎで大量のポーションが必要なの。前線の冒険者たちが物資不足で困っているわ」
「オッケーよ。ここにある分、全部持っていって」
「おおっ、助かりますっ。これだけあれば、みんなの命が救われますぞ」
ギルド職員が黄金色のポーションを見て、感極まったように声を震わせる。
その後の顛末はこうだ。
どうやら前線の冒険者たちは、凶悪なヒドラの毒にやられて死にかけていたらしい。
しかし、リーゼロッテの特製ポーションのおかげで、みんな事なきを得たそうだ。
「すごいわ、ロッティ。あなたのポーションへの注文が、こんなに」
「ふふっ、任せて頂戴。もっとたくさん作るわよ」
リーゼロッテは嬉しそうにぷくっと頬を紅潮させ、やる気に満ちた声を上げた。




