表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
仇討の島  作者: タヌキ
8/25

灰色の島

 朝早く伯父宅を出発したジェイスは来た道を戻り、駐屯地前を通り過ぎ、空港へと向かった。

 古ぼけたプロペラ機に乗り、向かうはロサンゼルス国際空港。

 そこで航空会社が最新鋭と謳うジェット機に乗り換え、那覇空港へと飛び立つ。

 二度の食事と一眠りを経て、ジェイスはふと窓の外を見た。

 青い海に囲まれた大きな島が、眼下にあった。

 沖縄本島だ。

 飛行機が高度を下げていくと、島の様子が段々と明らかになっていく。

 島は北部の一部を除いて、灰色で染まっていた。

 土地を埋め尽くさんばかりに建てられた米軍基地と、その僅かな隙間に詰め込むようになっている市街地のせいだ。

 飛行機は滑走路を滑り、適当な位置に停まるとタラップを下ろした。

 ジェイスが機外へ出ると、湿気を帯びたネットリとした暑さが彼を包んだ。テキサスの乾いた暑さに慣れ切った彼の身体にとっては、毒にも等しい不快感を味合わされる。

 おまけに、南国特有の刺すような日の光にも辟易する。

 開襟シャツの胸ポケットに差し込んでおいたサングラスを掛け、空港のターミナルビルへと足を進める。

 入国審査は至って簡単であり、パスポートと共に軍の身分証を提示した瞬間、地元民らしい審査官は目的も何も聞かずにゲートを通される。

 何かの間違いではないかと思うも、通れと言われている以上立ち止まっている訳にもいかずゲートを抜ける。

 振り向けば、ジェイスの後ろに並んでいた日本人ビジネスマンに対してはやたら質問を投げかけていた。

 ビジネスマンの番が終わり、次に並んでいたアメリカ人の観光客になると一言・二言交わして通してしまう。

 ジェイスに比べれば審査はしているものの、ビジネスマンに比べれば軽すぎる扱いだ。

 沖縄がアメリカの土地であり、軍が支配しているという事実をジェイスは思い知る。

 スーツケースを受け取り、ターミナルビルを出た。

 ビルの冷房で冷やされた身体に再び、いやらしい熱気がまとわりつく。

 ジェイスが、しばらくこの熱気と付き合わなければならないことに辟易していると、彼の背後へ一人の女性が近づいてきた。


「あの……貴方が、ジェイス・グッドスピード二等軍曹ですか?」


 名前を言われ、ジェイスは振り返った。

 陸軍の戦闘服に身を包んだ彼女を捉える。

 後ろでお団子にした黒髪に茶色の光彩と一瞬だけであるが日本人に見えたものの、彫りが深く全体的な顔の作りは西洋人のそれであった。

 まだ若いが、細い黒縁の眼鏡が知的な雰囲気を生み出しいくらかの貫録を付けさせている。


「ああ、そうだが」

「よかった」


 女性は笑顔で胸を撫で下ろすジェスチャーをし一転、真剣な表情となり敬礼をした。


「在沖陸軍憲兵隊、カズミ・レイ上等兵です。二等軍曹、貴方をお迎えに参りました」


 ジェイスも敬礼を返す。


「ご苦労、レイ上等兵。……カズミということは、君は日系人かな?」

「はい。母が日本人でして」

「然るに、君が今回の通訳兼捜査補佐?」

「その通りであります」

「……そうか」


 ならば、もう一人現れるはずであるとジェイスは周囲を見回すもそれらしい人物は見当たらない。


「レイ上等兵、実はもう一人迎えがいると聞かされているのだが……トイレか何かかな?」


 すると、真面目いっぺんであったカズミの表情が曇った。

 それを見て、ジェイスは何かがあったと察した。


「そのことについては、立ち話でする内容ではないので、車の方で詳しくお話します」


 そう言い、カズミはすぐそばに停まっているM151ジープへ手を差し出す。幌は無く、風防の

 フロントガラスが申し訳程度にあるだけの小さな四輪車両だ。ボンネットには、でかでかと「MP」と書かれている。


「本当は、こういった時のためのキャデラックがあるんですが……故障中でして」


 カズミは申し訳なさそうに言うも、ジェイスとしては車種などどうでもよいことであった。


「構わないさ。この暑さの中、『歩け』って言われないだけね」


 ジェイスとしては本心丸出しだったのだが、カズミは皮肉と捉えたらしく恐縮した。

 スーツケースを荷台に置くと、ジープは騒がしいエンジン音を奏でながら空港前のロータリーを出発した。

 ジープは国道一号線、現在の県道58号を北上する。

 一号線はそもそもが軍用道路であり、民間車両も走っているとはいえ道路のほとんどを軍用車両が占めている。

 道路脇の街にも日本語が無い訳ではないがほぼほぼ英語であり、歩道を往くのもアメリカ人だ。

 異国のはずなのに、異国感がない。

 妙な感じにむず痒さすら覚えるも、一先ずは仕事の話をしようとジェイスは運転席のカズミへ目を向けた。


「レイ君」

「ああ、そうかしこまらず、気軽にカズミとお呼びください」

「そうかい? じゃあ俺も、ジェイスでいい。これから一緒に仕事するんだし、階級差やら歳の差はあまり気にしない方がいいだろう?」

「では、お言葉に甘えて」

「そうしてくれ。……じゃあカズミ、聞かせてほしいんだが、もう一人はどうした? ペンタゴンの人間からは、バディを組むベテランの憲兵隊員が来ると聞いていたんだが」

「……トーマス二曹、ああ、迎えに来る予定だったベテランの憲兵隊員のことですが……彼は、亡くなりました」

「亡くなった?」

「はい。それも、昨日。殺されたんです」

「なんだって!?」


 突然の告白に唖然とするジェイス。同時に、今回の件が波乱に満ちたものになると彼は悟った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ