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仇討の島  作者: タヌキ
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久々の再会

 翌朝。

 祈りが通じたのか、ジェイスは悪夢を見ずに済んだ。一晩寝たおかげで気分も幾ばくか良くなっていた。

 スクランブルエッグにベーコン、バナナと牛乳をミキサーにぶち込んで作ったスムージーもどきを朝食にし出勤する。

 オフィスに着くと自身のデスクの上に、昨日の退勤時には無かった白い封筒がメモと共に置かれていた。

 メモの文字はダッチのものであった。


『沖縄までの航空券が封入されている

空港には、捜査補佐兼通訳の人間とコンビを組むことになるベテラン憲兵が迎えに来る予定とのこと


追伸

航空券の都合から、7/5の休暇は返上になる。任務が終わり次第、取れるよう手配しておく』


 そのメモを見たジェイスは再び頭痛に襲われた。

 休暇返上のことではない。休暇を取っていたことを思い出したからだ。

 7/4の独立記念日の祝日と合わせており、一泊二日で姉一家と伯父夫婦に顔を見せ、母親の見舞いに行く予定を立てている。

 忘れていた、というよりもギリギリまで意図的に封じ込めていたのである。

 ジェイスは姉や伯父や母が嫌いという訳ではない。家族という枠組みを取っ払っても、有り余る思いがある。しかし、その思いは好意だけとは限らない。

 彼は言語化出来ない、いやしてはいけない感情が湧き上がるのを目の前にある案件に意識を向け、なんとか抑える。

 封筒の中を確認する。

 基地最寄りの地方空港からロサンゼルス国際空港までの券と、ロサンゼルス国際空港から沖縄の那覇空港までの券が入っていた。

 地方空港出発が7/5の午前中。沖縄到着は7/6の昼前。

 今日が7/2。祝日のことを考慮すれば、準備時間は今日を入れて二日。

 案件の重大さを考えれば、取り掛かるのは早い方が良い。だが、振り回されるのが己となれば話は変わってくる。

 ルーティンである一杯のコーヒーを放り、一先ずジェイスは装備担当と話すことにした。


 二日後。

 7月4日。早朝。

 銃器をガンロッカーへ仕舞い。ガスや水道の元栓を閉め。鎧戸を閉じておく。

 厳重な戸締りを終えたことを確認したジェイスは、とりあえずと三日分の旅支度を整えたスーツケースを愛車の助手席へ置いた。

 服は普段着だ。制服や手錠等の装備は、沖縄へ空輸してもらうことで話が付いている。

 内容物の関係から他の物資と一緒に輸送機で運んでもらうので、一足早く沖縄に着く手筈となっている。

 寮を出発し、ゲートで外出届と休暇届のコピーを提出する。

 その二枚とも歩哨がハンコを押し、事務所で控えた。

「休暇か、羨ましいよ」

 顔馴染みの歩哨は心底羨ましそうに、私服姿のジェイクを見つめる。

「そうでもない。休暇から基地に戻らないまま直行で仕事だ」

 ジェイスがそう言うと、歩哨は少し同情したようだった。

「良い休暇を」

 皮肉交じりの見送りを受けながら、ジェイスは愛車を伯父一家の家へと走らせた。思うことはあっても、それをスピードに変換することで紛らわしながらだ。

 途中で給油とトイレを兼ねた休止を挟みつつ、走り続けること四時間強。

 オースティンの郊外でトウモロコシ農家を営む伯父一家の家に到着する。

 家の前には、伯父の初代シボレー・C/Kの他に姉の夫である義兄のフォード・カントリー・スクワイアも停まっていた。

 耳聡くエンジン音を聞きつけたらしい叔母が玄関から顔を覗かせる。

 去年のクリスマス休暇ぶりに会った甥を彼女は歓迎し、家の中に伯父と姉一家がいることを伝える。

 ジェイスが叔母に連れられ中に入ると、立ち話をしていた伯父と義兄が彼に気がつく。二人もまたジェイスを歓迎した。

 その声につられ、奥から姉のハンナとその子供が三人出てくる。

 皆の変わりなさそうな姿を見て、ジェイスは安心した。彼はどうにも、自他問わず人の不幸や不安に対して敏感になっている節があるので、安心はひとしおであった。

 家族としばし親交を温め、揃って昼食を取る。伯母特製のミートパイだ。

 伯父の好物であり、伯母も何かにつけて作りたがる。友達の家がお祝い事と言えば七面鳥の中、ジェイスとハンナだけがミートパイだった。

 昼食の最中、ジェイスは突如として出張が入り予定を変更して明日の夜明けにはここを出なければならないことを告げる。

 皆、今では無く事前に連絡しておけと言ったものの、ジェイスの仕事熱心ぶりを知っているのでそれ以上は何も言わなかった。

 ミートパイが無くなり、子供達が伯母が用意したデザートに夢中になる隙を突いて、ジェイスとハンナと伯父は家を出た。母親のお見舞いに行くためだ。

 ハンナと伯父はシボレーに、ジェイスは自分のフォードに乗り込む。

 約二時間のドライブの末、二台のピックアップトラックは広い駐車場へと滑り込む。

 ジェイスからすると、ここに来たのも去年のクリスマス休暇以来だ。

 彼は感慨深いような、辛いような眼差しで病院の建物を見つめる。

 鉄筋コンクリート造の地下一階に地上三階の建物は、とても普通の病院には見えない。

 暖かな日差しと心地よい風を届けるはずの窓は、はめ殺しで鉄格子が被さって。

 白い壁は清潔というよりも、無機質な冷徹さを見る者へ与える。

 病院内もセクションごとに受付へ顔を出さなければ、扉を開けてもらえず行き来が出来ない。

 何故ならここは病院は病院でも精神病院であり、ジェイス達が向かう先は精神をいっとう病んだ者が送られる閉鎖病棟だった。

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