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仇討の島  作者: タヌキ
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思案と懸念

 トラウトマンが去った後の隊長室。

 ジェイスはソファーに座ったままファイルを見つめ、ダッチは窓の外を見ながら葉巻をふかしていた。

 テーブルの上に置かれたティーカップはその中身を消し、冷え切って、静かにたたずんでいる。

 ダッチの副官がそれを片付けに来る気配は無い。

 副官は、気を利かせているのだ。

 彼もまた、ジェイスとダッチの信頼関係を知っているからだ。

 ダッチの元に、突如としてやってきた国防総省の男。

 それからしばらくして呼ばれた、懐刀とも言うべき部下であるジェイス。

 そこからの長話。

 聞き耳を立てずとも、何かあったと導き出すには十分な材料が揃っている。

 だからこそ気を利かせて、二人だけの時間を作っているのだ。

 ダッチが口に溜めた煙を吐き出しながら言う。


「すまんな、ジェイス」


 声色は、心の底から申し訳なさそうであった。


「何故、謝るんです」


 ジェイスはダッチの背中へと目線を移した。


「アイツの話を聞いた上で、お前を呼び出したのは俺だからだ」


 トラウトマンが口にした沖縄の惨状を聞いても、ダッチは驚いていなかった。トラウトマンがジェイスを試した時の反応といい、沖縄の話を聞いていたのは間違いない。

 しかし、ジェイスはトラウトマンを責める気にはなれなかった。

 同格の大佐とはいえ、立場が違う。いくら同じ額の給料を貰っていようと、立場の上下で優劣が生まれるものだ。現場と上層部の境にいる、中間管理職の悲哀でもある。

 ジェイスはなるべく普通の声で話すよう、心がけた。


「構いませんよ。……それに、いい機会です」

「なんのだ?」

「父が戦った地を、この目で見ることです」


 それを聞き、ダッチは俯き辛そうな顔をした。だが、部下がやると言い、それに見合うだけの実力がある以上上官として無理に止めることは出来ない。

 ダッチもまた、表情が声に出ないように心掛けた。


「……そうか」


 と短く返し、再び足労を労ってから仕事へ戻るよう促した。


 夕方。

 鞄とは別にファイルを小脇に抱えたジェイスは、自室のドアを開けた。

 軍人の部屋と言えば二段ベッドがずらりと並んだ大部屋を想像するだろうが、そのような部屋は訓練兵か戦中の基地ぐらいしかない。

 基本は二人部屋で、それぞれのパーソナルスペースが確保された間取りになっている。

 階級が上がったり、結婚して家庭持ちになると一人部屋や一軒家が与えられる。

 ジェイスは軍曹なので、独身寮の中にある一人部屋が与えられていた。

 制服をハンガーに掛け、鞄とファイルをテーブルの上に置く。

 流れる様に彼は冷蔵庫へ向かい、扉を開く。

 卵やらベーコンやらレタスが並べられている中、一丁の自動拳銃が鎮座していた。

 S&WのM39だ。

 誰かが悪戯で置いたのではない。ジェイスが自分の意思で置いた物だ。

 ガンロッカーの代わりという訳ではない。

 リビングの片隅にあるガンロッカーの中には、私物である.30-06仕様のウィンチェスターM70ライフルが弾と共に仕舞われているが拳銃一丁程度の余裕はいくらでもある。

 では何故か。

 襲撃対策だ。憲兵という職務上、個人情報含む機密情報を扱うこともあり、また恨みを抱かれることが多い。

 そのため、無防備になりやすい帰宅直後や寝込みを襲撃されることがある。

 それに備えてのことだ。

 現に冷蔵庫のM39は安全装置が外され、薬室に弾が入っていた。撃鉄こそ寝ているものの、M39はダブルアクションでの射撃が可能なので引き金さえ引けば弾は発射される。

 更に寝室のクローゼットの中にはFN社製のオート5半自動散弾銃があり、枕の下にはコルトのディテクティヴスペシャルを隠している。

 ただ、ジェイスの備えは過剰と言えた。襲撃に備えるのに、ここまでする必要はない。

 ドアの鍵を増やしたり、強固な物にすれば十分だ。なにせ、部屋は三階にある。一階ならまだしも、三階のベランダへよじ登ろうとする者はいない。

 しかしながら、ジェイスは人が隠れられそうな場所を確認したりせず、戸締りも確認こそするが強化はしていない。

 備えているにしても、歪だ。襲撃者を防ぐというよりも、襲撃者を倒すことに主眼を置いているのである。

 ジェイスは拳銃へ一瞥寄こしてから、牛乳のパックを手に取った。

 コップになみなみと注ぎ込み、一息に飲み干す。

 そして、今日一日の疲れを息に込め、胃から絞り出すように吐き出した。

 それからジェイスは部屋着に着替え、ソファーに身を預けた。

 ソファーに行く前に点けたテレビからは、何処ぞでヒッピーがやっている反戦デモのレポートやら、青色吐息なベトナム戦争の戦況報告が流れている。

 ジェイスはそれをBGMにして、トラウトマンから渡されたファイルを手に取る。それを開きつつ、彼は鞄からラッキーストライクのソフトパッケージとジッポーライターを出した。

 ジェイスはいつも、読み物のお供として煙草を愛用していた。

 フリントが小気味いい音を立て、芯に火が灯る。

 煙草の先を焦がしながら、ジェイスはファイルへと深く目を落としていった。

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