聞き込み
日が沈みだすのを見計らい、ジェイスとカズミはジープに乗り込んだ。
荷台にはM76と予備弾倉、M1912と散弾の紙箱を詰めたクレートが置かれている。
聞き込みをするのに、銃をまんまぶら下げては市民感情に差し支える。
アジト前の銃撃戦で比嘉派に自分達の存在は知られたはずと、二人共格好は制服だ。
ジープを昨日回った飲み屋街へと走らせる。そして、縦列駐車の列に上手いことジープをねじ込ませる。
車を盗まれるリスクはあるが、防犯装置なんて未来的な機能は無い。泥棒の目が同じように停めてある他のジープに向くのを祈るしかない。
聞き込みに際して、ジェイスはカズミを矢面へ立たせた。
同じ憲兵隊でもロクに日本語が通じない仏頂面の男より、日本語が通じて人当たりの良い女の方がポン引きは無論、街娼やホステスのウケもいい。
そのおかげか、聞き込みは順調に進んでいった。進んで行くうちに、二人は抗争の原因を知ることになる。
「――ヘロイン、ですか」
繫華街のど真ん中にあるキャバレーの前。カズミは手帳に書き込みながら、オウム返しした。
「そう」
アメリカ人受けしやすいよう髪を金に染めたホステスが、煙草の煙を細く吐き出しながら頷く。
「潮見派は、米兵がベトナムで仕入れてきたヘロインを買い取って、転売しようとしてたの。比嘉派の連中が麻薬で儲かってんのを見て、真似したくなったらしいわ」
「へぇ……貴方は、どうしてそれを?」
「酔った潮見の連中が言ってたの。だから間違いないと思う……でもまぁ、比嘉派の連中も馬鹿じゃないから、妨害してたみたいよ、色々と」
「妨害……」
「兵隊さんに小遣い渡してガセネタ掴ませたり、品物横取りしたりね。それで潮見の連中も仕返しして……あとは分かるでしょ?」
「抗争って訳ですか」
ホステスは「その通り」と頷く。
「それで皆殺しにされたんだから、まったく馬鹿な話よ。まぁ、こう言うのもナンだけど、死んでくれて清々してるわ」
カズミが「何かあったんですか?」と相槌を打った途端、ホステスは堰を切ったように潮見派の悪口を吐きまくった。
コザの連中からこの街を守っていると言うが、所詮はゆすりたかりのヤクザである。
酔って暴れて、店の女の子にちょっかいを出す。
抗争の銃撃戦で大勢人を巻き込む。
吐く勢いに圧されるカズミを助けようと一歩踏み出すジェイスであったが、ふとこちらを刺す視線に気がついた。
視線の大元の方へジェイスは顔を向ける。雑踏の中にはいくつもこちらを向く顔があったが、ジェイスはその中から一人の男を見つける。
坊主頭のバーテンダーだ。歳の頃は三十程度で、人相はあまり良くない。バーテンはジェイスが見返しているのを察知したらしく、そそくさと店に入ってく。
気にはなったが、ホステスの圧に参ったカズミが裾を引っ張るのでジェイスはそちらの方に意識を向けるしかなかった。
バーテンは後ろ手でドアを閉めると、酒のおかわりを求める客の声を無視して黒電話へ一直線に取りついた。
ダイアルを手早く回し、電話を掛ける。
『もしもし?』
電話に出たのは、比嘉派のヒットマン。トンプソンの男ことハルだ。
そう、バーテンは那覇進出を目論む、比嘉派の先兵の一人であった。
「わんやいびーん、新城やいびーん(俺です、新城です)」
『新城が、ちゃーさん?(新城か、どうした?)』
「きっさちちゃん、憲兵らしいコンビぬどぅーぬまちやぬ近くにちょーいびーん(先程聞いた、憲兵らしいコンビが自分の店の近くに来ています)」
比嘉派はリーダーの号令以降、使い走りの連中や先兵達にもジェイスとカズミの情報を共有していた。
『……あんすくとぅちゃーさん(だからどうした)』
「くるさびーが?(殺しますか?)」
バーテンは空いた左手で、こっそりとカウンターの引き出しを開けた。そこには、米軍の倉庫より盗み出されたGIコルトが一丁仕舞われていた。
『……やみれー(やめろ)』
「ぬーんちやいびーん?(何故です?)」
『っやーちゅい、拳銃一丁っし敵いるえーてぃやあらんくとぅやん(お前一人、拳銃一丁で敵う相手じゃないからだ)』
「……………………」
『すりに、えーてーなーら警戒そーんやるはじし、くまん招集するぬんかい時間がかかいん。油断そーるとぅちにんがきーびちーやん(それに、相手はまだ警戒しているだろうし、こっちも招集するのに時間がかかる。油断している時を狙うべきだ)』
「……………………」
『分かたらーてぃーっんじゃすな。まぁ、てぃーっんじゃしねーうぬとぅちがっやーぬ死ぬるとぅちやんしがやー(分かったなら手を出すな。まぁ、手を出したらその時がお前の死ぬ時だがな)』
ハルはバーテンを鼻で笑いながら、受話器を叩きつけて電話を切った。
バーテンはハルのその態度に腹を立て、怒りに任せて引き出しの中へ手を突っ込んだものの彼の脳裏にジェイスの顔が浮かんだ。
雑踏の中、視線の気配だけで瞬時に自分を見つけた鋭い眼光。
油断ならない相手なのは間違いと、バーテンは思い至る。しばしの葛藤の末、舌打ちをし彼は引き出しを閉めた。




