カチコミ
良くないことは続くものだ。
潮見派がアジトにしている雑居ビルの前には乱暴に駐車された三菱・デボネアがあり、ビルの中からは銃声や炸裂音が響いている。
ジェイスはGIコルトの安全装置を外す。
「最大五人ってところだ」
「いけます」
カズミも耳に当てていた手を、そのままホルスターに伸ばしてM10を抜く。
声も硬く、表情も真剣そのものだ。
カズミがジープを停めるとほぼ同時に、雑居ビルの入り口から四人の男が飛び出してくる。銃器こそ手にしているが、Tシャツに短パンと普通の格好をしている。
その内の一人が、振り返りざまに手にしていたM79擲弾発射機を腰だめで構え、引き金を引いた。
銃口から飛び出した榴弾は窓ガラスを破り、事務所の中へ入り込んだ。
刹那。
爆風が雑居ビルのドアと窓枠を内側から吹き飛ばす。炸裂した際に撒き散らされた破片と、生み出された爆圧によって室内は地獄と化している。
にも関わらず、男は二発目を撃とうとしていた。バレルを開けて撃ち殻を放り再装填を開始する。
「止めろ!」
ジープから転がり落ちるように降りたジェイスは、素早く片膝立ちの体勢を取り、GIコルトを両手で構えた。
ヤクザはM79に榴弾を込めるよりも速いと判断し、腰の後ろに挿してシャツで隠していたコルト製のM1917リボルバーを抜く。
そのままダブルアクションで撃とうとするも、ジェイスの方が発砲が早い。
四十五口径弾は男の腹に命中し、もんどりうって地面に倒れる。
残る三人の男のうち、ウィンチェスターM1912散弾銃を持った男が仲間の仇とばかりに銃口をジェイスへ向けた。
ジェイスもその男へ狙いを定めるも、彼は胸と肩に弾を喰らって崩れ落ちる。
カズミが撃ったのだ。
他の二人は、仲間二人があっという間に倒されたのを見て形勢悪しと判断するや、デボネアに乗り込み急発進させた。
当然、ジェイスとカズミはデボネアに向けて発砲するも、リアガラスやバックライトを割るだけで男達にダメージは与えられない。
それに対し男の一人が、自身の得物であるM2カービンの銃口を割れたリアから覗かせ、.30カービン弾を二人へ浴びせてくる。
二人は慌ててジープの陰に身を隠し、弾を避けた。
掃射が終わる頃には、デボネアは辻を曲がって姿を消していた。
深追いは危険と判断し、二人は倒した男達へと近づく。胸をムカつかせる血の臭いが鼻を突いた。
倒された男達は、息こそあるものの二人揃って致命的な量の出血をしており、助かる見込みは無い。
バタ臭い顔に埋め込まれた眼は虚ろで、焦点は明後日の方にあった。
それを前に、殺しや死体に慣れていないカズミがえずき、口を押さえる。
発砲それ自体は訓練で身体に覚えさせていたし、反射もあるので躊躇はなかったのだろうが、死体や殺しの経験などそれこそ戦場にでも行かなければそうそう積めるものではない。
ジェイスでさえ、えずきを出さないようになるまでかなりの数の修羅場をくぐってきた。
ジェイスはカズミの背中をさすってやった。
鍛えてこそいたが、彼女の背中は性別・年相応に薄い。拳を叩き込めば容易く真っ二つになってしまうのではと、ジェイスが思うほどだ。
「……駄目そうなら、ジープで待ってていいんだぞ」
何かを飲み込んだらしく、喉を上下させてからカズミは言う。
「大丈夫です、行けます。行かせてください」
眼は据わり、歯を食いしばるカズミ。ジェイスは彼女のその根性を買った。
「分かった。……アジトに踏み込むぞ」
「はい……!」
ジェイスはGIコルトの弾倉を弾が満タンの物に替え、カズミは弾倉から空薬莢を出してバラ弾を空いた穴へ滑り込ませた。
踏み込むと言ってもドアも窓も破壊されており、何もかも丸見えだ。
割れたガラスを踏みしめながら。室内へ入る。まだ、硝煙の臭いが充満していた。暑さのせいで早くも腐敗が始まっているらしく、臭いで胃が圧迫される。
中は死屍累々といった有様だ。壊れた家財や建材に混ざって、血や肉が散らばっている。
それなりの修羅場をくぐってきたジェイスでさえ、ここまでの惨状を目にするのは初めてだ。
「……皆殺し、か」
散弾で頭を消し飛ばされたらしい遺体を見下ろしながら、ジェイスは呟く。
階層ごとに確認して回るが、生存者はいない。
そして三階。
奥の寝室で潮見は死んでいた。完全に不意を突かれたようで、格好は肌着にステテコだ。
全身を四十五口径弾で滅多打ちにされている。手口はトーマス二曹と同じなので、同一犯の可能性が高いとジェイスは分析した。
遺体の状態は酷く、顔が半分残っているのでなんとか潮見だと分かるほどだ。
そんな遺体と呼ぶにも惨い肉の塊を前に、カズミに限界が訪れる。顔を真っ青にして、トイレへと駆け込んでいく。
ジェイスは介抱しようと後をついて行こうとするも、吐瀉音の切れ目に「来ないで!」と叫ばれる。
うら若き乙女だ。男に吐いている姿を見られたくないのである。
それを察するぐらいのデリカシーを持つジェイスは、黙って踵を返した。再び潮見の死体を前にすると、彼はあることに気がついた。
潮見の手がベッドの下へと伸びていることに。
GIコルトをホルスターに仕舞い、手へ白手袋をはめて下に隠されていた物を掴む。
掴んだ物は拳銃であった。旧日本軍の十四年式拳銃だ。おそらく、戦時中に軍からくすねたものだろう。安全装置は外されており常に撃てるようにしてあったようだが、間に合わなかったらしい。
「次は、枕の下に隠しておくんだな」
物言わぬ肉塊には役立たずなアドバイスをして、ジェイスは拳銃を戻した。
※現実の1970年の沖縄はこんな世紀末都市ではありません




