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仇討の島  作者: タヌキ
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実力と運

 引き金が引かれた瞬間、カズミは目を瞑った。

 だが、いくら待てど銃声は聞こえてこない。恐る恐る目を開ければ、ジェイスは変わらずそこにいた。

 平然としており、怪我一つ傷一つ負っていない。

 困惑しているのは、中年兵士達の方であった。

 特に拳銃を突き付けている兵士は今も引き金を引いているのだが、指は一ミリも動かない。

 必死に力を掛けても動く気配もなく、手の限界が来て握力を緩めた瞬間に拳銃は呆気なくジェイスに奪われる。

 奪った拳銃の撃鉄をジェイスは何の躊躇いもなく起こし、兵士達へ銃口を突き付ける。

 完全に立場が逆転した。

 カズミは何も言えず、ただ茫然とジェイスの静かな横顔を眺めるしかなかった。

 ここでジェイスが口を開く。


「リボルバーってのは、撃鉄を寝かしたまま撃つ場合、引き金が落ちるまでに、弾倉を回転させる力と撃鉄を起こす力を同時に掛けなければならない。だから、何らかの方法で弾倉を動けなくさせてしまえば、引き金は落ちなくなる」


 M36の銃口は一切ブレず、元の持ち主の心臓を狙っている。


「だが、撃鉄を起こせば、それらの力を掛ける必要はない。この状態から撃たせないためには、撃鉄と銃の間に指を突っ込むしかないが、お前達にそれが出来るとは思えない」


 淡々としているジェイスを前に、兵士達は戦意を完全に失っていた。絡む相手を間違えたという後悔と、死に対する恐怖が見て分かるほどだ。


「今回は見逃してやる。俺の気が変わる前に、さっさと失せろ」


 ジェイスが顎で示すと、兵士達は回れ右して転びそうになりながら去っていった。

 その背中が見えなくなった頃に、ジェイスは撃鉄に指を掛けながら引き金を引き、デコッキングした。


「……凄い」


 酔っ払いの勢いに圧され、拳銃を恐れ何も出来なかった自分と比べカズミは言葉を漏らす。

 しかしジェイスは格好つけるでも自慢げにするでもなく、泥酔者と接する前と変わらない態度でいた。


「どうするかね、これ」


 手の中のM36を見せつけながら、彼は苦笑する。

 凶器なので本人へ気軽に返す訳にもいかず、かと言って緊急事態でもなしに奪った物を使うのはジェイスの職業意識が許さない。


「……拾得物扱いで、預かるって線でどうですかね?」


 カズミがおずおずと提案すると、ジェイスはそれに乗った。彼はM36を懐に仕舞った後、周囲を見回した。

 一通り騒いで拳銃まで出てきたというのに、通行人が囲んで見物しているでも、逃げ惑うでもなく各々の快楽に耽ってこちらに注意を向けようとすらしていない。

 ありがたいやら、うすら寒いやら思うことはある。だが、それを利用して二人は騒ぎを無かったことにして出直すことにする。

 ジェイスとカズミは余計なちょっかいを掛けられないようにするため、いちゃつくアベックを装って腕を絡ませて歩くことにした。

 その調子で飲み屋街をしばらく歩き回り、ときおり裏路地を覗く。しかし、一向に売人らしき人物は見つからない。


「いないな……」

「昨日の騒ぎで警戒しているのかもしれませんね」


 昨日の騒ぎとは、勿論トーマス二曹が撃たれた件だ。二人はトーマスが殺された理由を、麻薬の件を探っていたことと睨んでいた。

 捜査の手が伸び始めたことを売人側も察し、少なくとも数日は街へ出てこないかもしれない。


「弱ったな……」


 悩むジェイスであったが、カズミがふと思いついた。


「そうだ。麻薬中毒者を見つけるのはどうでしょう」

「ヤク中を?」

「はい。中毒者の絶対数は、売人よりも多いはずです」

「そうだな」

「だから見つけやすいですし、中毒者を尾行すれば必然的に売人にも辿り着くはずです」


 中毒者からすれば、売人の都合など関係ない。麻薬を求め、売人を探し出すに違いない。

 時間こそ掛かるだろうが、確実だ。

 最悪の場合、その中毒者をしょぴいて売人の情報を聞き出せばいい。

 カズミの提案を反芻したジェイスは、それに乗ることにした。

 実際問題、売人は見つけられていないが中毒者は何人か見かけたので、分の悪い賭けではない。


「冴えてるな。よし、それでいこう」


 ジェイスが笑うと、カズミははにかんだ。


 噂をすれば影が差すとはよく言ったもので、二人が探し始めてものの数分で中毒者が見つかった。

 おまけに、憲兵隊としては都合が良い軍人の中毒者である。その兵士は水兵だが、現行犯逮捕に陸も海も関係ない。

 二人はさっそく、その兵士を尾行しだした。

 酒を入れているようだが、あまり酔っていない。だが、どことなく挙動不審で目は怪しく血走っている。また兵舎住みであろうに、病的にまでやつれていた。

 麻薬中毒、それもかなり重度の患者なのは一目で分かる。

 俯き、何かブツブツと言いながら歩く中毒者。

 危ない雰囲気だが、不思議と足取りはしっかりとしている。飲み屋や辻に立つ街娼を物色するでも、ポン引きの声に惹かれるでもなく、真っすぐ何処かへ向かっているようだった。

 ジェイスの憲兵の勘が、奴は売人に会おうとしていると囁く。

 カズミも勘が働いたらしく、顔に緊張を滲ませ、ジェイスに絡ませた腕に力が入る。


「……やるじゃないか。一発で引き当てるとはな」

「まさか、ここまで上手くいくとは思いませんでした。運が良かっただけです」

「運も実力の内さ。……おっと」


 尾行していた中毒者が裏路地の前で不意に足を止め、周囲を気にしだした。

 下手に顔を隠したり、足を止めたりすれば怪しまれるので二人はそのまま歩き続ける。


「なぁ、いいだろ?」

「でも……」


 すれ違う際にベタな演技をして、徹底的に誤魔化す。

 演技に騙された中毒者は二人には目もくれず、安心して裏路地へ入っていく。

 彼が路地に消えるのを確認した二人は、足を止めた。


「行くぞ」

「はい!」


 互いに拳銃を確認してから、裏路地に突入した。

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