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仇討の島  作者: タヌキ
12/25

捜査開始

 数時間の訓練で劇的に上達するかと言われれば、世の中そんなに甘くない。

 それに、カズミも下手くそと言う訳でもなく、積み上げ不足なので、小手先の技術で大きく変わりはしない。

 問題は如何に訓練を重ねるかであるので、ここでガッツリやる気はなかった。

 なので、訓練と言いつつもジェイスは雑談を交えながら軽く行った。

 カズミもカズミで、フルメタル・ジャケットのハートマン軍曹よろしく罵声怒声まみれの地獄行脚みたいな訓練をやらされるかと思いきや、和やかに事が進むので拍子抜けと同時に安心する。

 お互いに出身をテキサスとシカゴだと紹介したり、お互いの銃を触ったりしながら穏やかな時間を過ごす。

 日が沈み、西の空が橙色に染まる頃。

 ジェイスとカズミは射撃訓練場から引き上げた。そして、夜の歓楽街へ繰り出すべく準備を始めた。

 ジェイスは腰に付けたホルスターと予備弾倉入れを隠すため、少し丈の長いサマージャケット

 を着る。裾でホルスター類はしっかりと隠れ、うざったい袖は捲れば解決する。

 それから、抜き撃ちの練習を行う。裾を払いのけ、ホルスターのGIコルトを掴み抜く。

 官給品のホルスターではなく、ショルダーホルスターなら裾を払う動作を省けるのだが、GIコルトに合う物を彼は所持していなかった。

 沖縄で調達出来ないかと思案していると、カズミが会議室にやってきた。彼女の方も準備が出来たようだ。

 お団子にしていた髪を下ろして、後ろで一つに束ね。真新しい、空色でロングのサマーワンピースを着ている。荷物はハンドバッグにまとめているようだ。


「……どう、ですかね?」


 男性に私服を見せつける経験が無いらしく、少し恥ずかしそうにしているカズミ。

 よく似合っているも、夜の歓楽街に行くにしては爽やか過ぎる。だが、娼婦を装うのが嫌となれば着替えようがない。


「いいじゃないか。よく似合っているよ」


 ジェイスの言葉に、カズミはパッと顔を輝かせる。


「ありがとうございます。せっかく買ったけど、着る機会が無くて」


 服なんか必要になったら必要な分しか買わないジェイスには理解出来ない概念であったが、そういうものかと飲み込む。


「カズミ、銃の方は?」

「バッグの中です。ホルスターを付けられるよう、パンツスタイルも考えたんですけど、デートしてるアベックってなると……」


 実際問題、六十年代から七十年代にかけて、フェミニズムの台頭とそれによる女性解放の風潮から女性のパンツスタイルが定着していった。

 だが、それとこれはデートファッションとは一線を画す。カズミの判断は間違っていない。

 この装いの本質は、憲兵隊であることが一目で分からないようにする以前に、歓楽街で怪しまれないようにすることが第一なのだ。


「それでいい。万が一の時は、俺が矢面に立つ。その代わりにバックアップは頼むよ」

「了解です」


 カズミが敬礼すると、ジェイスは苦笑した。


「それは、外でやらないようにな。一発で軍人だってバレるから」


 当然、デート中のアベックが憲兵隊のジープに乗っているのはおかしいので、二人は駐屯地ゲート前でタクシーを拾った。

 型落ちの日産・ブルーバードに乗り込むと、現地人の運転手が行先を訪ねてくる。

 当たり前だが、それは日本語でありしかも訛りが強く、ジェイスにはチンプンカンプンであった。

 ここでカズミの出番である。通訳の面目躍如とばかりに、訛りこそ無いものの流暢な日本語で答える。


『国際通りまでお願いします』


 標準語でも運転手には伝わったようで、タクシーはゆっくりと発進した。


「……なんて言ったんだ?」


 ジェイスが小声で訊ねる。


「国際通りまでお願いします、と。那覇のメインストリートです」

「へぇ」

「アーニー・パイル国際劇場があるから、国際通りと名付けられたんですよ」

「アーニー・パイル……確か、沖縄戦で死んだ従軍記者だったな」


 カズミは意外そうな顔をした。戦死した将兵ならともかく、従軍記者の名前まで知っているとは思わなかったのだろう。


「よく、ご存じで」

「……まぁ、ちょっとな」


 幼少期の経験から、ジェイスは一時期沖縄戦に関する本を狂ったように読んでいた時期があった。その時に覚えたのだ。しかし、そんなことカズミには話せないので彼は曖昧な言葉で返した。

 タクシーは飛ばす車に先を譲りながら、安全運転で那覇の中心部へと向かっていく。

 二人がタクシーを降りたのは、国際通りの入り口だった。

 国際通り自体が観光地として売っているのと、夜もまだ浅いこともあってか歓楽街ながら子供連れの姿がチラホラとあった。

 歩く酔客も、ほとんどがほろ酔い程度でへべれけな者は極僅かだ。

 立ち並ぶ店も飲み屋やピンクキャバレーは少なめで、レストランや土産物屋などが多い。


「思ってたよりも、活気があるな。公開処刑同然に憲兵隊員が殺されるんだから、もう少し荒れてると思ったが」


 ジェイスの率直な感想に対し、カズミは申し訳なさそうな顔をする。


「……実は、こことトーマス二曹が撃たれた場所は、少し離れてるんです」

「じゃあ、なんでここに?」

「直接行くと、止められかねないんです。それほど危険なんです、あの周辺は。ここは言わば、沖縄の表の顔といったところですからね。アベックが来ても、不自然じゃありませんし」


 カズミの言い分を理解し、ジェイスは国際通りの街並みへ目を向ける。

 街灯とそこらで輝くネオンサインに対して目を細めながら、「……光あるところに闇あり、か」としみじみと言う。


「撃たれた場所に行きますか?」


 緊張感を滲ませるカズミをよそに、ジェイスは何処か冷めた目で周囲を見回してから次の方針を示した。


「少し歩こう。街がどんな様子か、この目で見たい」

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