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仇討の島  作者: タヌキ
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気分転換は硝煙の香り

 これから一緒に捜査するのに、微妙な空気のままではいけないので気分転換としてジェイスはカズミを射撃場へ誘った。

 的を見つめ、弾を当てようと集中する。それをただ一心に行うのは、座禅にも似ている。心を鎮められると、ジェイスは思っていた。

 また、銃に触っていないせいで失いかけている射撃の勘を取り戻すという意味もある。

 禁酒法下のシカゴよりも危険と言われたからには、取り戻しておいた方がいいと判断したのだ。

 ジェイスの誘いに、カズミは乗った。

 彼女もまた、ジェイスとの間に生まれてしまった微妙な空気を払拭したいと思っていたのである。

 二人はまたジープに乗り、射撃訓練場へ向かった。

 訓練場はライフル射撃も想定されているので、屋外に設置されている。湿気から来る不快感を感じながら銃を撃つことになるが、屋根で日差しは防げるので暑さは幾分かマシだ。

 事務所で受付証と弾そして耳栓を貰い、訓練場に入る。

 台の上に、ホルスターから抜いたGIコルトと予備弾倉を置くジェイス。

 空輸する都合上、銃に挿してある弾倉と予備弾倉には弾を込めていなかった。なので、弾を込めるところからのスタートだ。

 マガジンリリースボタンを押して、弾倉を排出させると慣れた手つきで弾を込めていく。

 込めれば込めるほどバネの反発で難しくなるのだが、ジェイスには関係ない話であった。

 その隣では、カズミが自分のホルスターから銃を出し、射撃体勢を整えている。

 彼女の銃はGIコルトではなく、S&Wモデル10の四インチタイプであった。

 三十八口径の六連発リボルバーで、主に空軍で使用されている。では何故陸軍憲兵隊のカズミが使っているかと言うと、深い訳はない。

 正式採用のGIコルトや憲兵隊で多く使われているM1917リボルバーは、全て.45ACP弾を使用する。カズミ、というより女性の細腕では四十五口径の反動に文字通り振り回されてしまうので、幾分か反動がマイルドな三十八口径を使っているのである。

 一応、更に小口径である二十二口径の拳銃も軍で採用されてはいるが、それは特殊部隊にしか配給されない。

 教本そのままのレディ・ポジションから、射撃体勢へと移りながら撃鉄を起こす。

 腕をピタリと止めるとほぼ同時に、カズミは発砲した。

 二メートル先にある人型の的、その頭部に小さな穴が空く。

 それを見て、ジェイスは素直に感心した。

 見た目からも事務方を連想し、暴の方にも期待が出来るとは思いもよらなかったからだ。

 続けざまに撃鉄を起こしては引き金を引くを繰り返し、残りの五発も人型の頭部に命中させた。


「……どうですかね?」


 カズミは上目遣い気味にジェイスを見、訊ねる。


「なかなかやるな。こっちの若いのに見習わせたいくらいだ」


 世辞ではない。配慮の結果渡された銃とはいえ、それで当てられているのならそれで十分であるとジェイスは考えていた。


「ありがとうございます」


 カズミがはにかむ。だが、手は冷静に動いており、ラッチを押して弾倉をせり出させてから、エジェクターを使って空薬莢を床へ落とした。

 二面性めいた行動を自然と出来るところも、ジェイスは気に入る。

 自分も負けていられないと、彼は弾込めを終えた弾倉を銃把の中へ叩き込み、スライドを引く。暴発を防ぐために安全装置を一度かけるも、レディ・ポジションを取ると同時に解除する。

 ジェイスは一呼吸置き、目を見開いて、前にある人型を捉える。

 それから、少し息を吐き出したところで息を止め、GIコルトを構え発砲した。

 四十五口径の轟音がトタンの屋根を揺らす。

 ジェイスは間髪入れずに引き金を引き、カズミ同様全弾を頭部へ命中させた。だが、カズミとは異なり弾痕同士が密着している。銃口をほぼブラしていなかったということだ。

 ジェイスは自身が刻んだ弾痕を確認して、自身の勘のしぶとさに安心する。

 カズミはジェイスの的を見て、目を丸くさせた。


「すごい……。どうして、こんなことが出来るんです?」

「子供の頃から銃を撃ちまくって、銃そのものを身体に慣らしたからかな」


 冗談と本気の半々を口にするジェイス。


「なんにでも言えることだけど、上手くなるには練習・実戦問わずとにかくやってみるしかない。俺の場合、それが銃だったってだけさ」

「それにしてもですよ。私も精進しないと」

「まだ若いんだ、これからさ。俺なんか三十一だから、これから下り坂さ」

「まさか。若いって言っても、私だってもう二十六ですよ。のびしろはありませんって」

「人間、やろうと思えば、何歳でもなんでもやれるもんだよ。きょうび、死にかけの老人すらチャレンジ精神に溢れてるんだ、二十代ならなおさらさ」

「……そういうもの、ですかね」

「そういうものさ。まぁ、本人の意思も関わってくるだろうけど」


 ジェイスがそう言うと、カズミはずいと彼へ近づいてきた。


「なら、ジェイスさん。せっかくなので、稽古をつけてください」


 やる気に満ちた瞳を前に、断れる人間はそういない。


「分かったよ。夜までは時間もある、君のやる気を見せてくれ」


 少し前まで二人の間に漂っていた微妙な空気は、完全に払拭されていた。

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