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『髪を変えたら、人生が追いついてきた件。 〜どんな絶望も似合う髪にしてみせます〜』  作者: talina
カルテ①銀行員

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第5話 「髪がくれたもの、私が選んだもの」

 それからの日々は、

 まるで、追い風の中を歩いているみたいだった。


 営業を兼ねるようになってから、私の一日は、さらに忙しくなった。


「篠宮さんにお願いしたい」


 そう言われることが、増えた。


 紹介。

 リピート。

 指名。


 数字は、正直だった。


 月末。

 支店内の掲示板に、営業ランキングが貼り出された。


「……え」


 一位。


 そこには、はっきりと『篠宮ひかり』と書かれていた。


「すごい……」


 同僚の誰かが、そう呟いた。


 拍手が起きる。

 素直に祝福してくれる人もいれば、少し複雑そうな顔をする人もいる。


 でも。


 私は、前ほど気にならなかった。


 ――私は、私の場所に立っている。


 それが、分かったから。


 その夜。


「お疲れさま」


 駅前のカフェで、向かいに座っているのは、営業課の男性社員――佐倉だった。


 最初は、仕事の相談だけだった。

 資料の見方、顧客のタイプ、話の切り出し方。


 でも、いつの間にか、仕事以外の話もするようになっていた。


「篠宮さんってさ」


 彼は、コーヒーを一口飲んでから言った。


「ちゃんと、人を見てるよね」


 胸が、少しだけ熱くなる。


「昔は……そんなこと、なかったです」


「でも、今は違う」


 そう言って、真っ直ぐに見られる。


「俺、好きだよ。その“今の篠宮さん”」


 頭が、真っ白になった。


 告白。

 それが分かるまで、数秒かかった。


「……私で、いいんですか」


 思わず、そんな言葉が出てしまう。


 彼は、少し驚いた顔をして、すぐに笑った。


「いいも何も。俺が、そう思っただけ」


 胸の奥で、何かがほどけた。


「……俺と付き合ってもらえますか」


 それが、私の人生で、初めての彼氏だった。


 それから先のことは、静かに、でも確かに、積み重なっていった。


 仕事は順調。

 彼との関係も、穏やか。


 気づけば、通帳の数字も増えていた。


 ――お金に、好かれている。


 そんな言葉が、頭をよぎる。


 季節が一つ、巡った頃。


「結婚しよう」


 彼は、そう言った。


 即答だった。


「はい」


 幸せだった。


 本当に。


 ――だからこそ。


 ふと、思い出す。


 一ヶ月、という期限。


 あの美容室。

 あの人。


 久しぶりに、鏡をじっと見る。


 さらさらの髪は、少しずつ、元の癖を取り戻し始めていた。


 ――でも。


 もう、怖くなかった。


 だって。


 私は、知っている。


 人の目を気にせず、話し、笑い、選ぶ自分を。


 髪が変えたのは、きっかけだけ。


 人生を選んだのは、私自身だ。


 結婚式の帰り道。


 ふと、あの路地裏を通った。


 木目の扉は、変わらず、そこにあった。


『あなたの“なりたい姿”、切ります』


 私は、深く頭を下げた。


 ――ありがとう。


 そう心の中で言って、その場を後にする。


 そして、物語は――

 次の客を迎える。


 人生を変えたいと願う、新しい誰かを。



                 第1カルテ編・完

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