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『髪を変えたら、人生が追いついてきた件。 〜どんな絶望も似合う髪にしてみせます〜』  作者: talina
カルテ①銀行員

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第4話 「評価される、ということ」

 その週は、異常だった。


 成約。

 成約。

 成約。


 成績表に表示される数字が、日に日に増えていく。


「……篠宮、今日も?」


 隣の席の先輩が、半ば呆然とした声を出した。


「はい……たまたまです」


 本心だった。

 私は、何も特別なことをしていない。


 商品説明は、今まで通り。

 むしろ、内容なら前から誰よりも詳しかった。


 変わったのは――

 話すことを、怖がらなくなっただけ。


「このプラン、正直に言うとですね」


 そう前置きすると、お客様は身を乗り出して聞いてくれる。


「メリットだけじゃなく、デメリットもあります」


 今までなら、“そんなこと言ったら嫌われる”と思っていた言葉。


 でも今は、誠実に話すほど、信頼されている感覚があった。


「あなた、正直だね」


 そう言われたとき、胸の奥が、じんわりと温かくなった。


 ――正直で、いいんだ。


 昼休み。

 支店長に、呼ばれた。


「篠宮くん」


 応接室の扉が閉まる。


 この部屋は、注意か、叱責か、異動の話。

 どれかしかないと思っていた。


「最近、数字がいいな」


「……ありがとうございます」


 机の上に、資料が置かれる。


「営業成績、支店内トップだ」


 一瞬、理解できなかった。


「……私が、ですか?」


「そうだ。しかも、安定している」


 支店長は、少し困ったように笑った。


「今まで、埋もれてたんだな」


 その言葉に、なぜか、涙が出そうになった。


 ――見てもらえた。


 それだけで、こんなにも、救われるなんて。


「来週から、窓口だけじゃなく、軽く渉外営業も兼ねてみないか」


「……はい」


 返事は、迷わなかった。


 更衣室に戻ると、空気が、少し変わっていた。


「すごいね、篠宮」

「どうやったの?」


 聞かれる。

 視線が集まる。


 中には、言葉をかけてこない人もいた。


 視線が冷たいのも、分かる。


 ――でも。


 前なら、それだけで萎縮していた。

 今日は、違う。


 仕事が終わり、支店を出たところで、声をかけられた。


「篠宮さん」


 振り返ると、営業課の男性社員が立っていた。


 いつもは、軽く会釈するだけの人。


「最近、すごいですね」


「……ありがとうございます」


「今度、営業のことで、少し話しません?」


 真剣な目だった。


 ――仕事の話。


 それが、嬉しかった。


 “女として”ではなく、“同僚として”見られている。


 数日後。


 渉外営業の帰り道。

 スマホが鳴る。


 見慣れない番号。


「……もしもし」


『あ、篠宮さん?この前、担当してもらった者です』


 先日の客だった。


『追加で相談したいことがあって。また、篠宮さんにお願いできますか?』


 指が、震えた。


「……はい。喜んで」


 通話を切ったあと、私は、夜空を見上げた。


 ほんの少し前まで、自分の存在が、こんなふうに誰かの役に立つなんて、思えなかった。


 ――でも。


 ふと、脳裏をよぎる。


 一ヶ月。


 あの美容師は、確かにそう言った。


 この評価も、この自信も、期限付きなのだとしたら?


 家に帰り、鏡を見る。


 変わらず、さらさらの髪。


 けれど、その奥に映る目は――

 少しだけ、強くなっていた。


「……大丈夫」


 誰に言うでもなく、呟く。


 この一ヶ月で、私は、ただの“地味な銀行員”じゃなくなった。


 それだけは、もう、戻らない。

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