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『髪を変えたら、人生が追いついてきた件。 〜どんな絶望も似合う髪にしてみせます〜』社会人編  作者: talina
カルテ⑧喫茶店マスター

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第37話 「いつもと、違う朝」

 カットが終わり、理人は、鏡の中の自分を見た。


「……」


 言葉が出ない。


 派手ではない。

 若返った、というほどでもない。


 それなのに。


 “今までの自分じゃない”

 それだけは、はっきり分かった。


 額が、少しだけ見える。

 横の流れが柔らかい。

 全体が、軽い。


「どうですか?」


 美容師が、穏やかに聞く。


「……変ですね」


 正直な感想だった。


「悪い、ですか?」


「いえ。ただ……慣れない」


 美容師は、少しだけ笑った。


「それで大丈夫です」


「え?」


「似合ってますから。あとは、周りが教えてくれます」


 その言い方が、なぜか引っかかった。


 店を出ると、風が、いつもより軽く感じた。


 歩きながら、何度か、ガラスに映る自分を見る。


「……気にしすぎか」


 自分に言い聞かせる。


 次の日。


 午前四時半。


 いつもと同じ時間に起き、同じように店へ向かう。


 同じ朝。

 同じ仕込み。


 違うのは――

 鏡の前に立った時の、わずかな緊張だけ。


 六時、開店。


 ベルが鳴る。


「おはよう」


 最初の客は、いつもの常連だった。


 コーヒーを出す。


「……」


 常連が、一瞬、理人の顔を見る。


「どうしました?」


「いや」


 首を傾げ、コーヒーを一口。


「……なんか、今日は、朝が明るいな」


 理由は、言語化されない。


 でも、その一言で、胸の奥が少し動いた。


 次の客。


「……あれ?」


 別の常連が、眉を上げる。


「髪、切った?」


「ええ。昨日」


「いいじゃない」


 それだけ言って、新聞を広げる。


 褒め言葉としては、控えめだ。


 でも、今までになかった反応だった。


 七時。


 店の前で、一人の女性が足を止める。


 外から、店内を覗く。


 今までなら、そのまま通り過ぎていた。


 だが、今日は違った。


 ドアが、開く。


「……入って、いいですか?」


「はい。どうぞ」


 理人は、少しだけ声を張った。


 その女性は、モーニングを注文し、スマホで写真を撮った。


 トースト。

 コーヒー。


「……落ち着く」


 小さく、そう呟く。


 理人は、聞こえないふりをした。


 でも、確かに聞こえていた。


 九時。


 店を閉める時、客数を数える。


「……一人、多い」


 たった一人。


 それだけだ。


 それでも。


 帰り際、あの美容師の言葉を思い出す。


――あとは、周りが教えてくれます。


 理人は、鍵をかけながら、小さく息を吐いた。


 いつもと同じ朝。


 なのに。


 何かが、確かに、動き始めていた。

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