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『髪を変えたら、人生が追いついてきた件。 〜どんな絶望も似合う髪にしてみせます〜』  作者: talina
カルテ⑦介護施設職員

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第35話 「あなたが、いる場所」

 辞令は、朝礼のあとに渡された。


「藤原さん、少しよろしいですか」


 主任の声に、胸が小さく鳴る。


 別室。


 机の上に、一枚の紙。


「……新設ポジション?」


「ええ。“利用者対応品質担当”です」


 藤原は、言葉を探した。


 昇進、という響きではない。


 けれど。


「現場から離れるわけではありません」


 主任は、はっきりと言った。


「藤原さんが“いつもやっていること”を、施設全体に広げてほしい」


 逃げ場のない、評価だった。


「……私で、いいんでしょうか」


「藤原さんだから、です」


 即答だった。


 その日から、藤原の立ち位置は少しだけ変わった。


 新人の隣に立ち、声のトーンを示す。


「急がなくていいですよ」


「その間、利用者さんの目を見てみてください」


 指導は、静かだ。


 でも、確実に伝わる。


「……なるほど」


 後輩が、小さく頷く。


 数週間後。


 施設内のトラブル件数が、目に見えて減った。


 クレームも、減少。


 代わりに、感謝の言葉が増える。


「藤原さんがいてよかった」


「ここ、落ち着くね」


 その言葉を、藤原はもう、疑わなくなっていた。


 ある日。


 休憩室で、同僚が言う。


「藤原さん、この施設の“空気”ですよね」


 冗談のようで、本気だった。


 藤原は、少し困ったように笑った。


 仕事終わり。


 例の美容室の前で、足を止める。


 ガラス越しに、自分を見る。


 派手じゃない。


 でも、背中が、まっすぐだ。


「ここだ」


 心の中で、そう言った。


 変わろうとしなくていい。


 自分がちゃんと収まる場所に立つ。


 それだけで、人生は、静かに、大きく変わる。


 藤原は、扉に背を向け、歩き出した。


 明日も、ここに来る。


 胸を張って。



                第7カルテ編・完結

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