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『髪を変えたら、人生が追いついてきた件。 〜どんな絶望も似合う髪にしてみせます〜』  作者: talina
カルテ④小学校教諭

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第19話 「少しだけ、近く」

 翌朝。


 白石真帆は、玄関の鏡の前で、一度だけ立ち止まった。


 昨日と同じ服。

 いつものバッグ。


 違うのは、髪だけ。


 まとめすぎていない。

 でも、だらしなくもない。


 ――これで、いい。


 自分に言い聞かせて、家を出た。


 教室に入ると、何人かの子が、ちらりとこちらを見る。


 視線が、すぐに逸れない。


 それだけで、胸が少しざわついた。


「おはようございます」


 真帆が言うと……。


「……おはようございます」


 返事が、ほんの少しだけ、揃った。


 朝の会。


 黒板の前に立つと、空気が、昨日までと違う。


 静かさは同じ。

 でも、閉じていない。


「今日は、昨日の続きからやります」


 声は、いつも通り。


 でも、語尾が少しだけ、柔らかい。


 授業中。


「ここ、分かった人いますか」


 一拍置く。


 小さな手が、ゆっくり上がった。


 心臓が、一瞬跳ねる。


「はい」


 指した先の子は、緊張した顔で、答える。


 完璧じゃない。


 でも、考えようとしている。


「いいですね」


 真帆は、自然に言っていた。


「そこ、大事です」


 子どもは、少しだけ、胸を張った。


 休み時間。


 いつもなら、誰も寄らない教室に。


「先生」


 小さな声。


 振り返ると、ノートを持った女の子が立っていた。


「これ……分からなくて」


 逃げ出しそうになる気持ちを、必死に抑えた。


「どこかな」


 真帆は、腰を下ろす。


 距離が、縮まる。


「ここ」


「うん。一緒に見てみよう」


 それだけ。


 それだけなのに。


 昼休み。


 教室の前で、子どもたちが立ち止まる。


 入るかどうか、迷っている。


 真帆は、声をかけなかった。


 無理に引き寄せない。


 でも。


 一人、また一人。


 教室に、人が増えていく。


 放課後。


 後輩の佐藤が、声をかけてきた。


「白石先生、今日、雰囲気よかったですね」


「……そうですか」


「はい。子どもたち、安心してた気がします」


 安心。


 その言葉が、胸に落ちる。


 帰り道。


 真帆は、大きく何かが変わったとは、思っていなかった。


 でも。


 伝わり始めた。


 それだけで、十分だった。


 空は、少しだけ高く見えた。

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