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『髪を変えたら、人生が追いついてきた件。 〜どんな絶望も似合う髪にしてみせます〜』社会人編  作者: talina
カルテ③過去のある女

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第13話 「選んだ髪は、逃げ道じゃない」

 同窓会まで、あと三日。


 橘ひとみは、自分でも驚くほど、落ち着いていた。


 怖くないわけじゃない。

 会いたくない相手がいるのも、事実だ。


 それでも。


 行くと決めた。


 理由は、はっきりしていない。


 ただ――

 逃げなかった、という事実が欲しかった。


 美容室の椅子に座るのは、これで三度目だった。


「今日は、どうしますか?」


 鏡越しに、美容師が聞く。


 ひとみは、自分の髪に触れた。


「……決めました」


「はい」


「強く見せたいわけじゃないです」


 一呼吸。


「でも、弱く見せるために、丸くしたくもない」


 美容師は、少しだけ考える。


「逃げない、ですね」


「はい」


 その一言で、全部伝わった気がした。


 ハサミが入る。


 いつもより、少し大胆に。


 長さは、残す。

 色も、派手にはしない。


 でも。


 顔まわりの線を、誤魔化さない。


 昔の自分なら、強さを前に出すために、もっと尖らせただろう。


 今の自分は、尖らせない代わりに、引かない。


「……これ、怖くないですか」


 ふと、ひとみが言った。


「何が?」


「中途半端に見えるかも」


 美容師は、首を横に振る。


「中途半端じゃないです」


「?」


「覚悟がある人の、形です」


 その言葉に、ひとみは、少しだけ目を伏せた。


 覚悟。


 そんなもの、自分にあると思っていなかった。


 仕上げのブローが終わる。


 鏡の中の自分は、思っていたより、静かだった。


 でも。


 視線は、逸れていない。


「……これで」


 ひとみは、小さく頷いた。


 店を出るとき、美容師が言った。


「会ったら、何か言わなきゃいけない、わけじゃありません」


 ひとみは、振り返る。


「……はい」


「ただ、そこに立つだけでいい」


 外に出る。


 夜風が、頬をなぞった。


 同窓会当日。


 会場の前で、ひとみは、立ち止まった。


 ドアの向こうから、懐かしい笑い声がする。


 心臓が、少し早く打つ。


 それでも。


 ドアノブに、手をかけた。


 中に入ると、何人かが、こちらを見る。


 一瞬の、間。


「あ……橘?」


 名前を呼ばれる。


 ひとみは、一歩、前に出た。


「……久しぶり」


 それだけ。


 逃げていない声だった。

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