13:聖人
第三者視点~
「武の・・・よ。ついに4人目が動き出したようだ」
「4人目と言えば・・・・例のマヨネーズだな?」
「なんでも彼の者は貴族を先導し、モンタルバン領を乗っ取らせたらしいな・・・・」
そこは聖地ミトーラにある、地下聖堂の奥にある秘密の部屋だ。そこには3人の男が集まり、テーブルをはさんで何やら会話をしていた。
1人目は鎧に身を包んだ巨漢の男だ。男は鎧から赤く光る眼をぎらつかせ、目の前の席に着く2人を見据える。
2人目は豪華なローブに身を包んだ、怪しげなオーラを漂わせた男だ。彼の目もまた紫色に光り、不気味な雰囲気をしている。
3人目は白い仮面をかぶった、銀髪の紳士だ。彼は白いタキシードを着ており、同じく白いシルクハットをかぶっている。仮面から覗かせるその目は鋭いは、緑色の光を放っていた。
その3人は聖人と呼ばれる者達であり、1人目が武の聖人、2人目が魔の聖人、3人目が政の聖人と呼ばれていた。
「それで政の・・・よ。そのマヨネーズについては、すでに調べがついておるのか?」
「うむ・・・・。つい最近、冒険者ギルドに6歳で登録しておるようだ・・・・その時分に、街で行動を起こしておる」
「わずか6歳の幼さで領地を乗っ取ったのか? 間違いではないのか?」
「間違いはない・・・・。黒目黒髪の幼子が聖獣カロンに跨り、騎士や暴徒を先導しておるのを目撃したと報告があった。その幼子こそマヨネーズにまず間違いはあるまい」
その報告に一同は息をのんだ。わずか6歳の幼さで、領地の乗っ取りを成功させるとは、思いもよらなかったのだ。
それは聖人である彼らですら、幼い時分には十分な力はなく、行動を起こしたのが、成人するかしないかの、年齢だったからである。
「それでそのマヨネーズというのは、いったい何の聖人なのだ?」
「それがわからぬのだ・・・・。聖獣カロンの話によると、本人は幼さのためか、はたまた冗談か、美食の聖人などとのたまっておるらしい」
「馬鹿な!! それほどの幼さで領地を乗っ取れるほどの聖人が、美食などという、料理人まがいな者のはずがあるまい!!」
「まあ・・・・本人が真実を語らぬのであれば、それを知る術は我々にはあるまい・・・・」
「まさに神のみぞ知るだ・・・・」
「だがまあ・・・・。武の・・・が最初の聖人として現れてから、かれこれ7人目の聖人となるわけだ」
「6人目は確か獣王だったか?」
獣王とよばれた聖人は、獣人のためだけの国を創り、今ではその国が、獣人の楽園といわれているのだ。
「最初の聖人は確か其方・・・武の・・・だったな?」
「某がこの世界に来た頃には、魔物とまともにやありあえる者がおらんでな。そんなわけで某が、皆に戦い方を伝授したというわけだ。それでも足りんで魔の・・・・がこの世界に生れ落ちた・・・・」
武の聖人は、魔物と戦う術を知らない人々に、戦うことを教えた。ところがそれでも足りず、魔の聖人がこの世界に、生み出されたのだ。そして魔の聖人は人々に魔法を広め、魔族を生み出し、ようやく人々は、魔物と渡り合えるようになり、人々に平穏が訪れたのだ。
だが平穏は長く続かなかった。魔物を脅威と感じなくなった人々は、今度は人間同士で、争いを始めたのだ。そんな時この世界に生れ落ちたのが政の聖人だ。
政の聖人は、今までばらばらだった勢力を、国という大きな枠にまとめ上げ、争いが起こりにくい政策や、決まり事を、世に広めたのだ。
ところが争いがなくなったとたんに、人口が急激に増え始め、今度は世界は食糧難に見舞われた。そこで魔の聖人が竜種を生み出した。竜種はその巨体故強敵だったが、単体からでも、多くの食料を得ることができた。ところが竜種の相手は人間には荷が重く、魔族がその狩りを、担うことになったのだ。
そんな中人間に嫌気がさした魔族は、人間からの解放を望むようになる。
そこで現れたのが魔王とよばれる聖人だった。魔王は魔族を人々から解放し、魔族だけの国を創り上げたのだ。
ところが魔王は、程なくして現れた、勇者という聖人に、退治されてしまう。その後勇者は自らの国を建国し、その国を、ラークスム王国と命名したのだ。
「その後あの勇者はどうなったのだったかな?」
「確か身内に毒を盛られて、あっけなく亡くなったそうだな」
「まったく愚かなことだ・・・・」
その後勇者を失ったラークスム王国は、聖地ミトーラを魔王の子孫が率いる魔族軍に、乗っ取られて今に至る。
「ところでここに、マヨネーズなる聖人が栽培した、赤い木の実があるのだが、食べてみんか?」
そう言って政の聖人が取り出したのは、マヤが栽培したとみられるリンゴだった。そのリンゴは魔族に敗北した聖騎士軍から奪った、戦利品に含まれていたのだ。
「しゃり! 甘くて美味いな・・・・」
「本当だ・・・・。今までの木の実など比較にならんくらい甘いぞ?」
「まさにマヨネーズは本人曰く、美食の聖人やもしれぬな?」
「冗談は止せ魔の・・・・」
3人はリンゴを手に、苦笑いしながらも、リンゴにかぶりついた。
「この赤い木の実だが・・・・よもや知恵の実の亜種ではあるまいな?」
「ほう? もしそうなら再び知恵の実もおがめるやもしれぬぞ?」
「その辺りは現在魔族どもに調べさせておる・・・・」
「ああ・・・例のヴァンパイアか? 確かラークスムの王子をグールにして従えておったな?」
3人の聖人は魔族領に身を置き、彼らに崇められていた。そんなわけで彼らは、現魔王よりも立場が上であり、魔族に何か命じることも可能なのだ。
そんな中辺境伯領とモンタルバン領の境にある街道で、大店の若旦那と、そのお付きのメイドが、歩みを進めていた。
「ヴァキア様・・・この先の街道を進むと例の砦にたどり着けるはずです・・・・」
若旦那は不自然にも、後ろを歩くメイドに、そう声を掛ける。
「今の貴方は大店の若旦那ガエルで、わたくしめはメイドのヴァニラでございます! お忘れなきようにお願いします!」
「そ、そうでしたなヴァニラさ・・・ん」
メイドに諫められた若旦那は、ぎこちなくそう返した。
「はあ~・・・・。それでも良いでしょう・・・・」
するとメイドはため息をつきつつ、そう返したのだ。
やがて2人は街道に入ると、その街道をひたすら進んで行った。例の猫砦を目指して・・・・
そして刻一刻と、再びマヤの身に、脅威が迫るのだった。
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