11:生物魔法、【発酵の導き】とマヤ
『飢えた街人に施しをせよ・・・・』
ワタシが神の像に祈りをささげると、神がワタシの前に現れ、ワタシにそう告げたのだ。要するに【お告げ】というやつである。
ワタシはそんな神のお告げにより、シムザスの街で炊き出しをすることになった。
その料理に選んだのが、手軽に沢山作れる豚汁だ。すると皆が手伝うとい出し、その上教会の司祭やシスターたちが加わり、結構な人数となった。まあ炊き出しの豚汁は沢山作る予定だし、手伝いが多いに越したことはない。
「ところでトンジルとはどのような料理でしょうか?」
「聞いたことのない料理ですわね・・・・」
「トンジル?」「メルも知らない」「ペトラも・・・」
「私達もマヤのその料理に関しては何もしらないわ!」
そんな豚汁を知らない彼女らのために、まずは豚汁を作ってみせることにした。
まず豚汁に必要な具材は、主役となる豚肉を始め、大根、人参、ごぼう、たまねぎ、長ネギなどだ。
豚肉はボア肉で代用できるとして、野菜も似たようなものがあるので、なんとかならなくもない。
問題は調味料だ。その調味料が塩、サラダ油、一味唐辛子、味噌となるのだ。
まず塩はあるとして、サラダ油に近いのが、ブラックビーラーから採取した油だ。前世でベリー系の油といえば、よく化粧品などで使われていて、食用には適さないとされていた。なのでベリー系の果実であるブラックビーラーは、一件食用油には向かないように思えてくる。
だが世界が違えばその事情も違ってくる。このブラックビーラーの油は、マヨネーズを始め、様々な料理に使っており、サラダ油に近いものと認識している。
また一味唐辛子の原料となる唐辛子に関しては、実はすでに【植物改良】の魔法により、その創造に成功しているのだ。
そして最後に味噌となるのだが、その味噌がいまだに存在していない。辛うじて原料になりそうな、大豆に近い豆は見つけてきたが、これをどうすれば味噌になるかがわからない。
大豆を煮て潰すまではなんとかわかるが、どうやって発酵させればいいのかがわからないのだ。
まあ・・・ここはもう【森羅万象】のスキルに、頼らざるを得ないだろう。
ワタシは【森羅万象】のスキルを発動させ、大豆を発酵させて、味噌を作りたいと願った。すると【森羅万象】のスキルがワタシの願いを叶え、その道筋を描き出していく。
その魔法が生物魔法の【発酵の導き】だ。
【発酵の導き】は、食材を思い描いた通りに、短時間で発酵させてしまうという魔法だ。ただそれには原型と発酵後の結果を、強くイメージする必要がある。そして現実的に不可能な発酵結果は、導けないので、牛乳から納豆を作ろうとするような無茶をすると、失敗に終わるという。
つまり発酵前と発効後の結果を、あらかじめ知っておく必要があるちょっと癖のある魔法だ。
こうしてワタシの習得魔法に、生物魔法の【発酵の導き】が追加された。
習得魔法一覧
水魔法 【操水】
風魔法 【操風】【空中移動】
土魔法 【操土】【操鉄】【結晶抽出】
生命魔法 【身体強化】【治療】【発酵の導き】
光魔法 【浄化】
闇魔法 【黒渦】
精神魔法 【思考加速】
植物魔法 【植物改良】
合成魔法 【魔石操作】【突きの達人】
そしてワタシの残り奇跡ポイントが消費され残り1となった。
残り奇跡ポイント1・・・・
さっそく茹でた豆をつぶし、塩を入れた物に、味噌をイメージしながら、【発酵の導き】を使ってみた。するとなんと大豆に似た豆は、どろどろに溶けて、味噌のような見た目になったのだ。
完成すると、さっそく味見もしてみる。似たような見た目でも、味が違っては意味がない。
「間違いない! これは味噌だ!」
その味は間違いなく、あの懐かしい、味噌の味だったのだ。
こうしてワタシは、味噌を作ることが出来たのだ。同時にこれは、醤油を作ることも、可能になったことを意味している。他にもヨーグルトやお酒なんかも、作ることが可能になっただろう。これからはさらに料理の幅も広がり、料理をするのが楽しみだ。
「そちらの泥のようなものは?」
初めて味噌を目にしたシスター・ドリアーヌが、さっそくそんなことを尋ねて来た。
「これは味噌です! 豆を発酵させて作る調味料なんですよ!」
「まあ・・・・あの豆がこのような姿に・・・・」
「せっかくですので皆さんで、この味噌を味見してみましょう!」
一番簡単な味噌料理といえば、野菜にそのまま味噌を付けて食べる、生野菜の味噌漬けだ。
「ではさっそくこちらをどうぞ・・・・」
そう言ってワタシが皆の前に差し出したのは、キュウリに似た長瓜を、細切りにしたものだ。この長瓜はマヨネーズによく合うが、味噌にもよく合うと思うのだ。
ところが皆その長瓜を前に、困惑するばかりだ。
「わああい! マヤの新しい料理だああ!」
そんな中元気なメルちゃんは、躊躇なく長瓜の細切りを手に取り、味噌を付けて食べ始めた。それを見ていたセリアちゃんとペトラちゃんも、恐る恐る長瓜の細切りを手に取り、味噌を付け始める。
「うんまああい! メル、マヨネーズも好きだけどミソも好きかも!」
メルちゃんは満面の笑顔を浮かべ、そう感想を述べた。
「美味しい!」「ペトラもこの味好きかも!」
そして食べ始めたセリアちゃんとペトラちゃんも、同じように笑顔を浮かべる。
「貴女・・・・またこのような調味料を・・・・」
「これは確かにあのマヨネーズに勝るとも劣らぬ調味料ですな・・・」
いつの間にか長瓜の味噌づけを口にしていた、フェリ姉ちゃんとラルフさんも、そう感想を述べた。
続けてシスター達や護衛の2人も、その長瓜を手に取っていく。
「ポリ・・・。まあ! これはまた・・・!」
「とても美味しいですわ!」
「これを平民に施すのは、贅沢すぎる気もするのだがな・・・・」
そんな意見も護衛のパトリスからあったが、味噌が入らない豚汁など、ワタシには認められない。
「まあ・・・この味噌は見た目の問題もあるし、隠し味に使うのであれば、問題はないでしょう」
そしてフェリ姉ちゃんがそう意見を述べた。
この土のような見た目の味噌は、宗教上の理由から、貴族の口にする物としては適さないようだ。なぜなら土は4属性の中で一番下であり、貴族に好ましく思われていないためである。
「このミソというのは魔法を使わなくても作れるのでしょうか?」
するとシスター・ドリアーヌからそんな質問があった。なぜだか他のシスターも、期待に満ちた表情で、こちらを見ている。
味噌は普通、麹がなければ作ることは出来ない。豆に味噌を入れても、発酵は進まない。味噌を作るにはまず麹から作る必要があるのだ。
ワタシの前世の記憶によれば、麦麹なるものがあったはずだ。麦の多いこの国で麹を作るなら、麦麹がいいだろう。そして麹を作るには、麹菌も必要だ。麹菌は米や麦に発生する白カビで、味噌のような匂いがすると記憶している。
「味噌を作るには麹とよばれるカビが必要ですが・・・そのカビは麦に生えるんですよ。探して見れば案外見つかるかもしれませんね・・・・」
「はい! ぜひ探して見ます!」
どうやらシスター達も、味噌作りに挑戦するつもりのようだ。この国の食事事情向上のためにも、ぜひ頑張って欲しいものだ。
「トンジルも、もういいようですよ!」
すると鍋を見張っていた、シスターからそんな報告があった。そんなことをしているうちに、鍋の中の豚汁も完成したようだ。
「それでは豚汁も味見してみましょう・・・・」
皆に豚汁の入った器が行き渡ると、さっそく試食は開始された。
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