07:冒険者ギルドとマヤ
食事の後ワタシ達は、冒険者ギルドへと足を運んだ。それはワタシが冒険者登録をして、冒険者になるためだ。
ところがなぜかその冒険者ギルドに、バルタザール子爵がついて来るという。なんでもバルタザール子爵はこの街の冒険者ギルドに影響力を持ち、子爵の部下が冒険者ギルド長を務めているそうなのだ。そこで子爵が冒険者ギルド長に、口を利いてくれるらしい。
ちなみにワタシと、セリアちゃんとメルちゃんは、現在動きやすい乗馬用の服に、着せ替えられている。それはワタシと同様に彼女らも、冒険者登録をしたいと言い出したからだ。冒険者の試験には、模擬戦のようなものもあり、動きやすい服装の方がいいようだ。
「俺がこの冒険者ギルド長のコサックだ」
「同じくギルド嬢のメリンダです」
冒険者ギルドに到着すると、さっそくギルド嬢を連れた、冒険者ギルド長からの挨拶があった。もしかしたらバルタザール子爵が来るとあって、準備をしていたのかもしれない。
「それではさっそくマヤ殿を訓練場に連れて行き、とある騎士と模擬戦をしてもらおう」
そして到着早々、そんな話になった。
なぜ冒険者ギルド長に口を利いてもらい、そんなややこしい話になっているかというと、もともとこの模擬戦は、ワタシの実力を、見るためのものだからだという。
冒険者登録はどうなった!?
「マヤ殿・・・この模擬戦の結果次第では、其方をいきなりDランクへと昇進させようと思っている」
そしてバルタザール子爵から、そんな話が出た。
「Dランクですか?」
なんでも冒険者にはF~Aランクまであるという。特例でSランクというのもあるが、Sランクになれる冒険者は、まずいないらしい。Sランクになるためには、それこそ世界で最強くらいの、実力を身に着ける必要があるようだ。
Dランクはその中でも中堅にあたるランクで、いきなりDランクになれる例もそうないという。通常最初に冒険者が就くのは、採取などを生業とした、末端のFランクなのだという。当然幼い子供であるワタシがDランクに付くというのは、特例中の特例だ。
そんな権限を持つバルタザール子爵というのは、冒険者ギルドにかなりの影響力を持った人物なのだろう。
「そいつは我が家の次男でパトリスという。まだ騎士としては見習いだが、戦闘技術だけは卓越しておる」
そして訓練場に到着すると、さっそく模擬戦の相手である、パトリスという騎士を紹介された。冒険者ギルドの訓練場に、自らの息子を模擬戦の相手に連れてくるなど、やりたい放題だなと思ったが、ギルド長と受付嬢は、既にバルタザール子爵の後ろに控え、何も口出しするつもりはないようだ。どうやらこの冒険者ギルドの実質のトップは、バルタザール子爵で間違いないようだ。
「パトリス・バルタザールだ! 俺の相手はどいつだ? もしかしてヴィルか? 模擬戦などやらずとも、お前なら今でも現役の冒険者でやれそうだがな? それともそちらにおられるラルフ殿か?」
パトリスはという男は、まだあどけなさが残る、15~16歳くらいの若い騎士だ。引き締まった筋肉質の体をしており、自信に満ちた表情をしている。
「何をふざけたことを言っているのだ? お前の相手はそこにおるマヤ殿とその小さな従者2人だ」
バルタザール子爵はワタシとセリアちゃんとメルちゃんを、指し示しながらそう口にした。
「はあ!? このようなちんちくちんどもの相手をなぜ騎士である俺がわざわざ!? 中堅の冒険者程度でもよいではありませんか!?」
どうやらパトリスは自分の相手が、幼いワタシ達であることが、ご不満であるようだ。まあ確かにわざわざ呼び出された騎士である彼が、幼いワタシ達と戦えと言われても、困惑するだけかもしれない。
それはそうとそもそもなぜワタシだけではなく、セリアちゃんとメルちゃんも、騎士と戦うことになっているのだろうか?
「君が彼女らに与えた影響が、どれほどか・・・この目で確かめておく必要があるからな」
ワタシがその理由を尋ねると、バルタザール子爵からそんな答えが返って来た。
どうやらワタシの実力だけでなく、ワタシがセリアちゃんとメルちゃんに与えた影響も、バルタザール子爵は気になっているようだ。
「それでは最初にメルがいくがよい」
「やった! メル最初だ!」
最初に指名されたメルちゃんは、やる気満々だ。
「おいおい親父! 俺の意見は聞く気なしかよ!?」
そんなバルタザール子爵に、息子のパトリスは苦情を申し立てるが、それが聞き入れられることはないようだ。
「ちっ! さくっと終わらせるからいつでもきな!?」
するとパトリスは不貞腐れたように、片手で雑に木剣を握り、対峙するメルちゃんを誘うように振る。例え油断していても、目の前の幼子など、相手にならないと言わんばかりの仕草だ。
「可笑しな構えだな? まあ子供の考えた構えだろう。たいしたものでもあるまい・・・」
メルちゃんのフェンシングの構えを見てもあの様子だ。
体格から腕の太さ、剣の経験、そのなにもかもがメルちゃんを、パトリスが完全に凌駕しているかに見える。だがどういう状況であれ、油断は禁物である・・・・
「えい!」「え?」
パキ~ン!!
その決着は一瞬であった。
なんとメルちゃんの初激で、パトリスが地面にしりもちをついたのだ。その様子に周囲は唖然とするばかりだ。
「いったい何が?」
パトリスも何が起こったかわからず、惚けて立ち上がる気配もない。
メルちゃんはものすごい速度でパトリスに接近し、いきなり突きを繰り出したのだ。その突きはメルちゃんより一回りも二回りも大きなパトリスを、一撃で吹き飛ばしたのだ。
胸部の装甲の上からの、押すような突きだったため、そうダメージはなかったようだが、実戦であればその剣は、パトリスの胸部を貫いていただろう。
メルちゃんの攻撃は速いが、まだ幼いためか、まっすぐで読みやすいのが欠点だ。相手が戦闘のプロである騎士ならば、警戒さえしておけば、避けられた一撃かもしれない。それにあのフェンシングの構えを見れば、どんな攻撃がくるかだいたいの予想はついたはずだ。
まさにこれこそ、油断大敵である。
「パトリスよ・・・・お前最近同年代には負け知らずで調子に乗っていたであろう? いい薬になったな?」
そんな無様なパトリスを、バルタザール子爵は見下ろしながら、そう告げたのだった。
どうやらワタシたちは、パトリス自身の問題にも、付き合わされていたようだ。
「それにしてもメル・・・・見事な突きであった。あのような突きが初激で繰り出されれば、そう躱せる者もおるまい」
「わああい! 誉められた!」
そんなメルちゃんは、バルタザール子爵に褒められ、ご満悦の様子であった。
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