05:屋敷の厨房とマヤ
「こちらが厨房でございます・・・・」
「ありがとうございますルコントさん」
ワタシは厨房に案内してくれた、執事のルコントさんにお礼を言うと、厨房の中に足を踏み入れた。
厨房に入ると、エプロンドレスを着たおばさんと、若いメイドのお姉さんが、厨房の掃除をしていた。
厨房を見渡すと、竈は勿論、フライパンや鍋などの調理器具の他に、数々の目につく食材も目に入った。
「ペリエ! こちらのお嬢様が料理を作られるので、手伝って差し上げなさい!」
続けて厨房に入って来た、執事のルコンドさんが、おばさんにそう命じる。
「私は厨房を任されているペリエだ。こっちは助手のサーラだよ」
「サーラです・・・」
ペリエおばさんが自らを紹介し、続けて助手のサーラさんを紹介すると、サーラさんもワタシに挨拶する。
「あんたどちらのお嬢様だい? 何か作って欲しい物でもあるのかい?」
どうやらワタシの容姿を見て、ペリエおばさんは、ワタシが何かを作るのではなく、作って欲しいのだと勘違いしたようだ。まあこんな幼女がやってくれば、普通は料理なんてするとは、思わないだろう。だがここはきちんと、言っておかなければならないだろう。
「ワタシはマヤと言います。バルタザール子爵に料理を作るように頼まれてここへ来ました」
「なんだって? 私の聞き間違いじゃないだろうね? あんたみたいな幼い子供が料理を作るだって?」
するとペリエおばさんが、困惑の表情で聞き返してくる。
「ペリエ、間違いではないです。そちらのお嬢様が料理を作られるので、貴女達はその手伝いをなさい」
そんなペリエおばさんに対して、再び執事のルコンドさんは、先ほどと同じように命じた。
するとペリエおばさんは、お手上げのポーズをしながら、サーラさんと顔を合わせる。
「で? 私達は何を手伝えばいいんだい?」
そして諦めたように、そうワタシに尋ねて来る。
「とりあえず厨房にある食材を見せてください」
ワタシはそう言うと、まず厨房を周り、食材の確認をおこなった。
まず食材には市場で見た野菜や小麦、肉などがある。調味料には砂糖や胡椒などの高級品も少量あり、塩やハーブなども目についた。その中でもとくに目についたのが、樽に入れられたミルクだ。
ミルクは高級品で、その存在は噂には聞いていたが、ボーロ村で目にすることはなかった。皆食事も終わったことだし、ここはこのミルクを使って、デザートでも作ってみよう。
「このミルクを使っても構いませんか?」
「別に構わないが・・・・このミルクで何を作る気だい?」
とりあえずペリエおばさんに確認をすると、ミルクの使用許可が出た。
ミルクがあれば生クリームが作れる。もしデザートを作るなら生クリームも欲しいところだ。生クリームを作るには、ミルクを遠心分離機にかける必要があると聞いたことがある。遠心分離機とは食材を高速回転させることで、固体と液体に分ける機械だ。
ならミルクを風魔法でかき混ぜれば、クリームは取り出せるだろうか? いや、その方法では難しそうだ。ならいっそのこと、【結晶抽出】の魔法でなんとかできないだろうか? クリームが結晶として認識されれば、それも可能なはずだ。
「結晶抽出!」
ワタシは少量のミルクを器に移すと、さっそく【結晶抽出】を試して見た。
「「「おお!」」」
するとなんとミルクから、生クリームを抽出することができたのだ。
その生クリームは白い水球となり、現在ワタシの目の前で浮遊している。
「あんたそれは魔法かい?」
「ええ。これは物体から結晶を抽出する魔法です」
「よくわからないけど凄いんだね・・・・」
ペリエおばさんには、ワタシの魔法の説明は理解されなかったが、どうやら驚いてはいるようだ。
ただその量はごく少量で、全体の十分の一といったところだろうか? これでは料理に使うには、あまりにも少なすぎる。なのでワタシはまず、この生クリームを量産することにした。
「まあこんなものか・・・・」
そしてなんとか、ボールに一杯分の生クリームが出来上がった。
「それであんた、この液体は何に使うんだい?」
「まあ見ていてくださいよ・・・・」
そう言うとワタシは水魔法を使って、いくつか氷を作り出した。これは旅の途中で身につけた、水に圧力をかけて作る氷魔法だ。
「あんた魔法で氷まで作れるのかい!」
その様子にペリエおばさんが、再び驚愕する。
作った氷はボールの中に入れた水の中に投入していく。これで氷水が完成した。この氷水に先ほどの生クリームの入ったボールを入れるのだ。ついでに生クリームの中に、砂糖を入れるのを忘れない。
「そしてこうやってかき混ぜます!」
カカカカカッ!!
そう言うとワタシは、ボールの中の生クリームを、泡だて器を使って勢いよく混ぜ始めた。
「それは何だい? 見ない調理器具だけど・・・・」
「これは泡だて器ですよ! 主に液体などの食材を泡立てるのに使います!」
ワタシは泡だて器について尋ねて来るペリエおばさんに説明する。どうやらこの国には、泡だて器はないようだ。
「これくらいでいいですね・・・・」
程なくして生クリームは、ホイップクリームに変化した。
「へ~! あのミルクがこんな風になるのかい!? 魔法ってのはなかなか面白いねえ!」
まあ生クリームをホイップクリームに変えたのは、魔法の力だけじゃないけどね・・・・
「そして今回は朝食用に焼いておいたこのロールパンと、赤いベリーを使います!」
赤いベリーはこの厨房にあった、酸味のある小さなベリーだ。
ロールパンはシムザスの街に来る前の野営地で焼いておいたものだ。パン焼き用のオーブンは土魔法で造り、【黒渦】の中に入れてあるので、暇さえあればいつでもパンは焼けるのだ。
続いてロールパンに切れ込みを入れ、その中にホイップクリームを入れていく。器に移したホイップクリームを、星形の金口からひねり出していくのだ。ここにビニールの入れ物はないので、小さな陶器の小瓶に入れて、その先に金口を付けて、水魔法でホイップクリームを押し出している。
「完成しました! 赤いベリーのホイップクリームパンです!」
こうして完成したのが、赤いベリーのホイップクリームパンだ。本来は苺を使って作りたいのだが、ないものは仕方ないので、これで我慢しておくことにする。
次はさっそく出来上がった赤いベリーのホイップクリームパンの実食だ。
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