12:避難民の移動とマヤ
「あの洞窟でございます・・・・」
その洞窟を見たワタシ達は、言葉を失った。
案内されてきた、森の中にある洞窟は、いつ魔物が出るか知れない、とても安全とは言えない場所にあったのだ。
洞窟の前には木材を合わせてつくったような、弱い防壁はあるが、これではビッグボアクラスの魔物に襲われただけで、簡単に破られてしまうだろう。よくここまで無事に過ごせてこれたものだ。
正確な場所がわからなければ、たどり着けないので、人間の襲撃者には襲われる危険はないが、魔物に襲われるリスクは、そう低くはないだろう。まあ防壁が焼かれ、壊れてしまっているラザ村よりは、ましかもしれないが・・・・
洞窟の中には女性や子供、老人しかいないようだ。赤子を抱えた女性までいる。まともに食べていないのだろう。皆やつれて元気がない。
男達は皆戦って、命を落としたのかもしれない。するとあの姉妹の父親ももう・・・・
「じいじ・・・お腹すいた・・・」
するとワタシと同い年くらいの、犬耳の女の子が、そう口にしながら寄って来た。やはり空腹なのだろう。とても見ていられない。
「食べ物なら沢山あるわよ! マヤ! 出してちょうだい!」
「了解!」
「ラルフ! 配ってちょうだい!」
「承知しました・・・・」
「まずは腹ごしらえからよ!」
ワタシが次々と【黒渦】で作物を取り出すと、それをラルフさんが集め、周囲に配っていく。確かに体力なくしては、これから森を12時間も、歩き続けるのは困難だ。腹が減ってはなんとやらだ。
「甘くておいし~!」「この木の実も甘いわ!」
「この野菜もどれも美味いぞ!」
こちらでもワタシの作物は、好評だったようだ。
出来たら焚火を使って、暖かい食べ物を提供したかったが、魔物の焼ける匂いが、周囲の魔物を呼び寄せそうだったので、それは遠慮するように言われた。
ワタシだけならいざ知らず、ここには戦えない避難民が20人もいるのだ。
避難民の出発は翌朝早朝に、行われることになっている。こちらに向かう時のような、無茶な移動は出来ないので、移動は徒歩で行われる。老人や女子供を、馬の速度で移動させるわけにはいかないからね。
猫砦までは徒歩で12時間はかかると予想される。例の泉で休憩を挟めば、さらに時間がかかる。こちらを出発して、猫砦に到着するころには、日は傾き、夕方になっていることだろう。
「皆出発するわよ!!」
そして翌朝、ワタシの育てた作物を沢山食べ、元気いっぱいとなった村人達の、猫砦への移動は開始された。
20人の村人達を挟んで、前衛には馬に跨ったフェリ姉ちゃんとラルフさん。後衛にはワタシとカロンだ。その村人達を左右から挟むように、4体の馬型土精霊が配置される。
「ねえ! お馬さんのってもいい!」「私あっちの大きな猫さんがいい!」
「護衛への騎乗はご遠慮くださ~い!」
緊張感のない子供達は、隙あらばカロンや、馬型土精霊に乗ろうとするので、注意が必要だ。子供達を乗せたままでは、いざとなった時に動けないからね。
「あなたも護衛なの?」「この大きな猫さんのていま~なの?」
子供達は同い年に見えるワタシにも、物怖じなく話しかけてくる。そしてべたべたとカロンに触れて来る。
『子供は嫌いじゃないけど、ここまで巨大化したボクが好かれるのはきっとマヤのせいだね』
同い年に見えるワタシが恐れずカロンと接するので、子供達はカロンが安全であると、察しているのだろう。
「ほらほら! 列を乱しちゃだめですよ! 戻ってくださ~い!」
ワタシはそんな子供達に、注意を呼び掛ける。森ではいつ魔物に、襲われるかわからない。勝手な行動は危険を伴うのだ。
「済みません! まだ森の怖さを教えていなくて・・・・」
すると母親達がこちらにやってきて、子供達を抱えて元の列に戻っていく。
やれやれ・・・・これは先が思いやられるね。
子供達は初めは元気に、森のあちこちに指をさして、あれこれと大人達に質問していた。ところがそんな子供達も、疲れが出始めたのが、徐々に文句が多くなり、しまいには無口になっていた。村人達の中には、老人も多く含まれるので、途中で倒れないかが心配だ。
そしてワタシ達の行進は順調に進んだ、ある地点までは・・・・
例の泉の直前に、その出来事は起こった。それはそろそろ休憩に入ろうというその矢先だった。
「ヒョ~~~ウ! ヒョウヒョウヒョウヒョウ・・・・・!」
その時突如上空から、妙な鳥の鳴き声が聞こえてきたのだ。
「ひぃい! 魔物だあああ!」
その村人が指し示す方向を見ると、なんとそこには巨大な鳥が迫っていたのだ。
「ロックバード!!」
それはここらでロックバードとよばれる魔鳥だった。ワタシは腰に帯剣した、黒塗りの短刀に手を伸ばし、ゆっくりとそれを引き抜いた。
あの巨鳥が狙いを定めているのは、主に子供達だ。早めになんらかの手を講じねば、取り返しのつかない事態になるかもしれない。
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