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04:マヤという少女1

 ヴィル視点~


「おぎゃあああ! おぎゃあああ!」


 マヤは可哀そうな赤ん坊だった。忌み子だったせいか、生まれてすぐに捨てられたのだろう。

 マヤは髪も瞳の色も、闇のような黒色だった。黒目黒髪の子は、宗教上の理由から、忌み子とされ、嫌われているのだ。

 マヤは村の小山にある、大きな木の下に、(かご)に入れられて捨てられていた。


「マヨ・・・ネーズ?」


 見るとかろうじてマヨネーズと見て取れる文字が、(かご)の縁に書かれていたのだ。


「この子の名前だろうか?」


「きっとそうよ・・・」


 そしてマヨネーズというのは、マヤの真名であるという見解で皆一致していた。だがそのマヨネーズという発音が、皆にはしにくかった。そのため村では子のことを、マヤとよぶことにしたのだ。


 村で捨て子があった場合、村で一番責任のある者が、その子供を拾い育てることが、定石となっている。だが村で一番偉い準貴族でカワード家の村長は、シムザスの街にいるため、ここはその代行である、村長の親戚にあたる者が引き取ることになる。


「あたしらは忌み子なんて御免だよ!」


 ところが忌み子であるため、村長の親戚である者達は、その受け入れを拒否したのだ。


「可哀そうな子・・・・ならうちで育てましょう貴方・・・・」


「ああそうしよう。マヤは今日からうちの子だ・・・・」


 うちには他に子供が4人もいたが、俺と女房のマーサは、分け隔てなくマヤを育てた。


「まあ貴方! マヤが歩いたわ!」


 マーサはマヤを実の娘のように、可愛がっていたのだ。

 ところがその幸せも、長くは続かなかった。マヤは賢く、4歳になるころには、すでにマーサの家事仕事を、進んで手伝い始めていた。

 そこに目を付けられたのか、あのカワード家の親戚の者達が、急にマヤの親権を主張してきたのだ。


「マヤはうちの子だよ! さっさとうちによこしな!」


 そしてカワード家の親戚である、アビィーが押しかけて来やがった。

 アビィーはステットの女房だが、貫禄があり、寡黙で痩せっぽちなステットでは、とても逆らえない。アビィーははあの家の、実質支配者と言ってもいい存在なのだ。


 そしてアビィーの後ろ盾である、準貴族であるカワード家には逆らえず、俺とマーサは泣く泣く、マヤを手放すしかなかった。

 その日からカワード家の奴らは、マヤを奴隷のようにこき使い始めた。そして奴らは都合のいい奴隷を、手に入れたかっただけだと、その時初めて知った。


 マヤはあの家に引き取られてからというもの、あまり食事を与えられていないようで、ふっくらとしていた頬は、徐々にこけていき、体も痩せこけていった。

 見かねた俺とマーサはこっそりとマヤに、食事を与え続けた。ところがいつしか村が、貧しくなり、自分達の食事もままならなくなった。マヤに与えられる食事も、その量を減らさざるを得なくなり、やきもきする日が長く続いた。


 そんなある日、あの事件は起こった。

 ビッグボアが村の柵を破壊して、村の中に乱入してきたのだ。その時丁度居合わせたマヤに、ビッグボアは襲い掛かっていったのだ。


 ドド~ン!


「ブギィィィィ!」


「落とし穴か!?」


 その時誰が掘ったか知らないが、ビッグボアが落とし穴に落ちたのだ。ビッグボアは落とし穴に、両前足から突っ込み、身動きとれなくなっていた。

 ビッグボアを恐れたマヤは、可哀そうに、怖くて縮こまっている。


「ヴィル待たせたな!」「あたしらもやるよ!」


 その時丁度ダイソンとモニカも駆けつけて来た。


「今ならいけるぞ!」


 俺達3人はここぞとばかりに、ビッグボアに対して、総攻撃を仕掛けた。

 

「ぬ! 槍が刺さらん!」


「こいつ硬すぎるぞ!」「矢も弾かれる!」


 ところがビッグボアには、俺達の攻撃が通用しなかったのだ。そのビッグボアは身体強化が使える、特別な固体だったのだ。

 身体強化が使えるビッグボアは、その丈夫さが格段に跳ね上がる。気絶でもさせないかぎり、ダメージが通ることはない。

 俺も身体強化は使えるが、その効果は微弱で、目の前のビッグボアには、遥かに及ばないレベルだ。


「ブギィィィ! ブギィィィ!」


 その時もがいていたビッグボアが、徐々に穴から、這い上がり始めたのだ。


 このままではまずい!


 そう思った時、ある異変が起こった。なんとマヤの体から、魔力と思われる、オーラが噴き出したのだ。


 あれはもしかして・・・・高度な身体強化が発現したのか?

 マヤはそのまま拳をふりかぶり、ビッグボアを殴りつけんとする構えだ。そして俺はここで初めて、マヤに魔法の才能が、目覚めたのを知った。

 だがいくら高度な身体強化が使えても、あの体格差では・・・・


「よせマヤ! そんな小さな手で殴っても・・・・!」


「どおおおおりゃああああ!」


 ドッカ~ン!!


 マヤのその魔獣のごとき叫びに、俺の背筋は内心震え上がった。

 魔力が多い者を、人は無意識に畏怖するというが、今のマヤがそうなのかもしれない。マヤの内包魔力は、計り知れないものなのだろう。

  

 マヤの拳はビッグボアの鼻っ柱に命中した。

 鼻っ柱を殴られたビッグボアは、吹き飛ばされ、穴に押し戻どされたのだ。そしてビッグボアはそのまま気を失った。


「ヴィル! 今ならビッグボアの身体強化も解けている!」


「ああ! わかっている!」


「やっちまえ!」


 俺達はその機会を逃さず、ビッグボアに再び総攻撃を開始した。すると先ほどとは裏腹に、ビッグボアに、幾度もの刃が突き刺さった。

 やがて急所を貫くと、とうとうビッグボアは絶命したのだった。


「満足そうな顔で寝てやがるな・・・・」


 見るとマヤは満足そうな表情を浮かべ、いびきをかいて寝入っていた。俺はそんなマヤが、将来とんでもない、大物になるような予感がしていた。


「マヤ! さっさと起きるんだよ!」


 すると空気の読めない、あの家のアビィーが、そんなマヤを起こそうと近付いてきた。


「マヤは村を救った英雄だぞ! その英雄が怪我をしているのに、休ませてもやらないのか!?」


「そうだ休ませてやれ!」「勝手ばっかすんじゃねえぞ!」


 俺がアビィーにそう一言言うと、皆口々にアビィーに非難の声を上げ始めた。


「ちっ! 勝手にしな!」


 するといたたまれなくなったのか、アビィーはのしのしと、その場を去っていった。

 俺はこれを機に、マヤをうちに取り戻そうと考えた。


 二度とあんな家にマヤをやるもんか! 今度こそマヤを守り抜いてみせる!


 そう思ったのもつかの間、この日を境にマヤは、すっかり様子が変わってしまったのだ。


 お読みくださりありがとうございます!!


 マヨネーズが好きな方★

 冒険が好きな方★

 食べるのが大好きな方★


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