21:ファントムの脅威とマヤ
ワタシの目の前にいるその男は、ひょろ長く、不気味な笑顔を浮かべていた。長いぼさぼさの髪を束ね、無精ひげを生やした男だ。
この男は貴族なのだろうか? ボロボロのローブの下からは、着崩した貴族のような服装が見て取れる。その武器は細身のロングソードで、よく手入れされているのか、錆び一つなく、やたらと光沢が見える。その剣はワタシにまっすぐに向けられ、その脅威を露わにしている。
それはまるで、初めてビッグボアと対峙した、あの時のような感覚に似ていた。
「変わった趣の剣術だが正直な剣だぁ・・・・。それにおめえさん何度も他流派とやりあって、色々いじくりまわしているだろ? 2~3年齧った程度か? 人は殺しちゃいねえな・・・まだ?」
ワタシの構えを見ただけで、そこまでわかるものなのか?
やがて男は剣を下にだらりとたらし、まるで脇構えのような構えをとった・・・・
『マヤ! 右に避けるんだ!』
その時弾けるような、カロンの念話が聞こえ、ワタシは反射的にそれに従った。
同時に警戒のために、精神魔法の【思考加速】を発動すると、風景がまるでスロー再生でもしているかのように、ゆっくりと流れ始める。
「剣!? ・・・あつっ!!」
するとヌッ!と空間から剣が徐々に姿を現し、ワタシの肩をかすめたのだ。そしてにやけた男の顔が、徐々にその姿を露わにした。驚いたことにその男は、自らの姿を消せるようだ。カロンのあの一言がなければもしかして今頃は・・・・
「あれ~? おっかしいねえ・・・・。お前さん程度の経験じゃあ・・・この剣は躱せないはずなんだけどねぇ・・・・」
男はにやにやしながら、そんなことを口にした。
「ありがとうございます・・・助かりましたカロン・・・・」
『今はお礼とかはいいよ。君にしか念話が聞こえないようにしている意味がないじゃないか?』
ワタシがカロンに礼を述べると、カロンからそんな風に念話が送られてきた。どうやらカロンの念話は、現在ワタシにしか聞こえていないようだ。
『それより肩の傷は平気かい?』
「思ったよりは浅いです・・・・」
剣を受けた肩の傷は、少し血がにじむ程度で、大した怪我ではなかった。身体強化を使ったワタシの体は、丈夫さを増し、ウルフの噛み付きをも甘噛みに感じる程だ。かすめた程度の剣など、何ということもない。ただ一つ残念なのは、大事な服に、傷がついたことだろうか。
『それより気を付けなよ・・・・今のは幻影魔法だ・・・・』
・・・・幻影魔法!?
「まさか躱されるたあな・・・お前さんのフルートヴェレには見劣りするが、こいつぁあファントムと呼ばれる魔法さぁ・・・・」
カロンが念話で男の魔法を暴露すると、同時に男は自慢げに、そう自らの魔法の正体を暴露してきた。
どうやら男はファントムとよばれる、幻影魔法を使って、姿を消していたようだ。だが魔法がわかったところで、男の姿が見えないのは変わりない。いったいどう目の前の男と、戦えばいいのだろうか?
『いいかいマヤ? 幻影魔法の魔力にも精霊は宿るんだ。だからよく見れば見えないはずの男の姿も、うっすらと紫色に光って見えるはずだ』
紫の光・・・・?
ワタシは【思考加速】を使い、その男の動きを、よく目を凝らして観察した。すると確かに男の周囲には紫色の光が見えて、同時にもう一つ、人の形をした紫色の光が、迫っているのが見えた。
おそらく今見えている男の姿は幻影で、この人の形をした紫色の光こそが、幻影魔法が包み隠す、この男の本体なのだろう。
これなら!!
人型の光はやがて尖った何かを、ワタシに向けて突き出し、襲い掛かって来た。ワタシは【思考加速】のゆっくりとしたその空間で、その脅威をその目で捉え、徐々に右に動いて回避した。
やがてその剣が可視化されると、ワタシの左側に、剣を突き出した男が出現する。
「えいや!!」
すかさずワタシは、男を横一文字に斬り付けた。だが男は後ろに下がりつつそれを躱し、器用に突き出した剣を返すと、ワタシの剣を上から叩き落しにかかる。
パキュ~!!
鉄と鉄の弾ける音が響き、ワタシの刀に上からの負荷がかかり、それが一瞬の硬直を生む。そのまま男は、袈裟斬りでワタシに襲い掛かる。
【思考加速】でその攻撃が見えていたワタシは、すんでのところでその攻撃を躱す。
「あつっ!!」
ところがぎりぎりだったためか、その剣はワタシの胸をかすめ、またもや浅い切り傷となってしまう。
アドレナリンのせいか、または恐怖のせいか、その2つの傷に、明確な痛みがないのが幸いだ。
「あ~・・・・駄目だねぇ・・・・。一度躱されると初見殺しは使えないねぇな・・・・」
男は残念そうにそう口にした。おそらく男は、自らの魔法の弱点に気付いているのだろう。確かによく見ないと、その薄っすらとした紫の光は見えないし、初見殺しにはうってつけの攻撃だ。まあワタシが初見でその紫の光に気付いたかどうかは怪しいが・・・・
「おめえさんの体にゃあ、みょうに剣が通らねえな・・・・それはスキルか何かかい?」
次に男はにやけながらも、余裕な感じで、そんなことを尋ねてきた。ワタシの体に剣が効きづらいのは、身体強化で丈夫さが増しているせいだが、それを答える必要もない。
「さあ・・・どうだったでしょうか・・・・」
ワタシは男のその言葉に、惚けた感じでそう返す。
「まあそれがスキルっつうんなら、ちょっと期待外れだがな・・・・」
そう言いうと男は、剣を持つ手を右側に構え、そのままワタシに剣先を向けた。霞の構え? どうやらこの男の流派の、何かしらの剣の構えのようだ。
「鎧を貫く技だって・・・・あるんだよ!!」
ビュフォ~!!!
男はそのままワタシに向けて、剣を突き出して来た。
その攻撃は、決して【思考加速】を使ったワタシの目には、速くは見えない。そこで余裕でその突きを掻い潜り、今度は低い水平斬りで、男の足を狙う。
ガキ!!
だが男は剣をまたもや器用に返し、ワタシの水平斬りを受け止めた。そのまま男は剣を、ワタシの刀にスライドさせ、プレッシャーをかけてくる。たまらずワタシは、後方へ大きく飛んで間合いをあけた。
「ちぇす!!」
仕切り直したワタシは、再び男に突撃を開始する。
ガガキ~ン!! ガキン! パキュ~!!
その後何度も打ち合うも、ただ時間だけが流れ、ワタシの切り傷だけが増えていく。そして徐々に息も乱れていく。速さで勝ろうが、力で勝ろうが、まったく適う気がしない。見たこともないような最短の受け・・・・迷いなく動くその剣・・・・その男とワタシの間には、圧倒的なまでの、経験の差があったのだ。
「はあ・・・はあ・・・はあ・・・・・」
このままではジリ貧だ・・・・・
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