20:水属性の大魔法フルートヴェレ
聖騎士軍第3部隊隊長サッチャー視点~
ザザザザ~ン! ドドドドドド・・・・・・!!
その日俺達の部隊を、フルートヴェレが襲った。
フルートヴェレとは大津波を引き起こす水属性の大魔法だ。
その大きなうねりは、轟音を上げて目の前の崖道を、一気に抉りやがった。これではもう部隊を率いて、この先に向かうことが出来ない。
上空に浮かぶ、術者の方に目をやると、巨大な白虎に跨る、幼い少女がそこにはいた。少女は黒く長い髪を、風になびかせ、その黒く鋭い眼光は、魔力により青光りして見えた。その様子がとても不気味で、俺は背筋にゾクッとするものを感じた。
そしてその少女は、再び頭上に巨大な水球を、造り始めたのだ。あの強大なフルートヴェレで、再びこちらを攻撃するつもりなのだろう。
「引けええええ!! 引くぞ!!」
俺が部隊に撤退命令を出すと、皆一目散にその場を後にした。あんなのを再び喰らえば、今度こそこの部隊は、壊滅しかねない。
「まずい状況になったな?」
馬をひたすら走らせると、マークベンの奴が追いついてきやがった。こいつは自走して息一つ切らさず、馬に追いつける化け物だ。その上剣の達人で、殺人鬼でもある最悪の男だ。
「このまま帰還すればおめえ・・・あの勇者に殺されるぜ?」
マークベンの言う勇者とは、俺達が所属する聖騎士軍の大将である、シュルケル王子のことだ。こいつは貴族に対しては甘い部分があるが、俺達のような平民がミスを犯すと、容赦なく八つ裂きにする、人格破綻者でもある。要するに平民を、人とは思っちゃいねんだ。
「わかってらあ! あのガキと虎の首をとりゃあいいんだろ!?」
少なくとも俺達の部隊を襲った、フルートヴェレを放ったあのガキと、それを乗せた白虎の首くらいは持ち帰らなければ、俺の命はないだろう。
幸い部隊に死傷者は出なかったが、天下の聖騎士軍が、大魔法に怯えて逃げましたでは、示しがつくはずがない。あのシュルケル王子は間違いなく大激怒するだろう。
「向かうなら少数精鋭が良いだろう・・・・。あの崩れた道を渡れる奴はそういねえからな・・・・」
あれから数日後の夜、俺達は報告のあった砦付近に来ていた。
今回は生き残った部下を残して、精鋭7人と共に、マークベンを連れて来た。さすがにあの壊れた崖道では、苦労させられたが、なんとが全員無事に渡り切った。
そして今回の作戦では、あの砦に密かに侵入し、眠っているガキと虎の寝首をかく算段となっている。
「無敵の死神ですぜボス!!」
砦に到着するや否や、かさこそとデスキャンサーの群が現れた。ここらは夜になると、デスキャンサーが出没する危険な場所でもある。
「2人はデスキャンサーを引き付けろ! 俺達は砦に侵入する!」
俺が命令すると、2人の部下が動き出し、デスキャンサーのヘイトをとり始めた。今回はこの2人が、デスキャンサーを引き付ける役回りだ。
「どれだけ硬いかあっしも試してみてえが・・・ここは砦の中が先だな」
「言ってろ! とっとと砦に侵入するぞ!」
俺はロープを付けたかき爪を、砦の城壁に引っかけると、そこから砦の中へと侵入を果たした。
月明かりが照らす砦の中は、妙に静まり返り、見たこともないような野菜や木の実が、ほのかに発光していて、とても不気味に見えた。
砦に侵入したのは俺に残り5人の精鋭に、マークベンだ。
「おおおい! 出てこいガキ! ここにいるのはわかっているんだぜぇ!」
その時マークベンの野郎が、大声で叫び散らやがった。
「馬鹿野郎! 騒ぐんじゃねえ!」
マークベンの野郎は初めから、正面からまともにやり合う算段だったに違いない。
「ここへ何のようでしょうか?」
するとすぐに小屋の扉が開かれ、ガキが半分だけ顔を覗かせた。
これで密かに侵入して、寝首をかく作戦は、失敗に終わった。ここからはまともに相対して、斬り合うしかないだろう。この戦闘狂は連れて来るべきではなかったかもしれない。
「ひっ!」
部下の誰かから、そんな怯えた声が聞こえた。
扉から覗いたそのガキの目は、鋭くこちらを睨みつけ、青光りしていて、とても恐ろしく感じる。だらりと垂らした黒い刃が、鋭くこちらを威嚇してくる。精鋭である俺の部下が、声を上げる程の恐怖だ。もうそれは化け物と言う他ない。
「グルルルルルル・・・・!」
そしてガキの背後から、巨大な白い頭が、ヌッ!と現れた。それは狂暴な牙を覗かせた、巨大な白い獣・・・・聖獣カロンだ。
「楽しくなってきたねえ・・・・」
その様子にマークベンは、ご機嫌な様子でそう呟いた。この戦闘狂が!
「いいねえその感じ! 早く剣を交えようぜぇ!」
いつのまにやら小屋の外に出ていたガキと、マークベンが向かい合い、お互いに剣を構える。
改めて見ると本当に小さなガキだ。こんな幼いガキが、まさかあんな大魔法を・・・・
「まさかあのフルートヴェレを放ったのが、こんな小娘だったたあな・・・・」
気付けば俺は、そんなことを呟いていた。
「貴方達の相手はそちらのカロンですよ・・・・」
「グルルルル!!」
そして俺達の前には、聖獣カロンが立ちはだかった。その全身からにじみ出る、狂暴な気配が、俺達の恐怖を駆り立てる。それはまさに、恐怖の象徴と言ってもいいだろう。その恐怖の象徴とやり合うには、マークベンの助けが必須だ。だがマークベンの野郎は、すでに標的として見定めていた、ガキと相対してニヤニヤしていやがる。あの様子じゃあこちらと連携することなんざあ、まったく考えていねえだろうな。
まさに絶体絶命の状況だ。だが俺も死地なら何度も切り抜けて来た。今回もなんとか上手くさ・・・・
こうして月明かりの下、俺達の死闘は、幕を開けたのだった。
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