03:マヨネーズの真実とマヤ
『お前に【森羅万象】のスキルを授けよう・・・・』
気付けばワタシは、何か大きな流れの中にいた。
そしてワタシの前には、ワタシに語り掛けてくる神がいたのだ。
ワタシが目の前のそいつを、神と呼んだ理由は、なんとなくそう感じたからだ。その巨大で光り輝く、神聖な存在が、神以外の何であろうかと思ったのだ。
『そしてお前の名が新しい世において、偉大な【マヨネーズ】となることを約束しよう・・・・』
「犯人はお前かああああ!!」
ワタシはその神の言葉に、憤らずにはいられなかった。
なんとワタシの名前が、マヨネーズになった原因は、この神にあったようだ。
マヨネーズは確かに偉大な調味料だと思う。なににかけてもあんなに美味しいのだ。でも女の子の名前にそれはないだろ!
神はなぜワタシの名前を、マヨネーズにしたというのだろうか?
『それはお前が私に、美食の素晴らしさを、こんこんと説いたおかげでもある。そしてお前は私に、マヨネーズという調味料の素晴らしさを教えてくれた。マヨネーズは偉大なりと・・・・』
ワタシは本当にそんなことを、偉そうに神に語ったのだろうか?
『お前は転生前に・・・確かに私にそう説いたのだ・・・・』
この空間は時間の感覚がおかしい。過去でもあり未来でもあるようだ。
先ほどまでビッグボアと戦っていたであろうワタシは、現在意識を失っているはずだ。そのワタシが過去の、転生前に遭遇した神と、過去に戻って語り合っているのだ。
この神は以前ワタシに【弱肉強食の果て】にこそ、喜びも苦しみもあると言っていた。
肉体を失い空間をふよふよと漂っていたワタシは、その神に興味を向けられ、神と対話することとなったのだ。
思い返せばワタシは、そんな神に、食べることの素晴らしさ、いかにあの駅前のラーメンが素晴らしかったとか、あのコンビニスイーツが素晴らしかったとか、キャンプ飯が食べたかったなどと、のたまった記憶がある。
その時に確かにマヨネーズが偉大だと、言ってしまったことを思い出す。
『私がお前に気付いたのは、お前がこの世界に紛れ込んだ、別世界の魂であったからだ。私はお前のその知識に惹かれた・・・・。そして食べることへの欲求に惹かれたのだ。この世界にも沢山の美味はある。だがこの世界の者たちは、その美味をあまりにも知らなさすぎる。それをお前が布教してくれると、私も嬉しいのだがな・・・・』
そんなこと自分でしろ! とも思ったが、思えばそんな人生も、悪くないと思ってしまった。
この新たな世界には、いったいどんな美味しいものがあるのだろうか? 今から考えるとわくわくしてくる。
極度に太った巨大なエビに、牛霜降り肉にも等しい味をもつ、巨大生物の肉・・・・。どれを想像しても、よだれがたれてくる思いだ。
ただそれを布教していくには、脆弱な原住民を強くしていく必要がある。
それに美食には調味料がつきものだ。調味料を作るためには、長年の研鑽と知識が必要だ。それを成すためには、ワタシ1人の寿命では、とても足りないだろう。
何か奇跡的なスキルでもあれば、話は別だろうが・・・・
『ならば・・・・お前に【森羅万象】のスキルを授けよう・・・・』
どうやらここでワタシは、神から【森羅万象】のスキルを、授かったようだ。
『そしてお前の名が新しい世において、偉大な【マヨネーズ】となることを約束しよう・・・・』
そしてここでワタシは【マヨネーズ】の名を、命名されたのだ。いや・・・・その名となることを約束されたのだ。
だがそうなると、ワタシにそのマヨネーズの名を授けた両親は、どこに行ってしまったというのだろうか?
両親は赤ん坊のワタシを、あの村の小山に生えている木の下に、籠に入れて置き去りにしたのだ。ご丁寧にワタシの名前を、その籠の縁に書いて・・・・
『あの文字は本来マヨネーズとは読まぬ・・・・。そう勝手に村人が解釈したのだ・・・・』
驚愕の新事実。ワタシの名前は実は別の名前だった。
『まあ、あの文字がマヨネーズに見えるように、自然の力を借りて歪ませたのは私だがな・・・・』
やっぱりお前かああああ!!
ワタシは再びその神に対してそう憤った。
それじゃあワタシの両親は、いったいどこにいるというのだろうか? 今でも生きているのだろうか? ワタシはその両親に、再び会うことが出来るのだろうか? そしてワタシの本当の名前は、なんだと言うのだろうか?
『今のお前が、その両親のことを知らぬのがその答えだ・・・・』
それはいったいどういう意味だろうか?
ワタシにはその神の言う意味が、理解できなかった。
いや・・・・ただ、理解したくなかっただけのかもしれない・・・・
『それではこの世界にマヨネーズと、新たな美食が生まれることを期待しているぞ・・・・』
マヨネーズにどんだけ期待しているんだこの神・・・・
その言葉を最後に、ワタシと神との会話は、唐突に終わりを迎えた。
神との会話が終わると、その白く輝き、流れるような空間は、ゆっくりと夕焼け色に染まり、徐々に黒く染まっていく。そしてぼんやりと、周囲の風景が見えて来た。
「こ、ここは?」
気付くとワタシは、どこかの民家の中にいた。
敷物の上に寝かされ、毛皮を掛けられているようだ。今は夜のようで周囲は暗いが、家の所々にある隙間から、赤い光が差し込み、騒がしい声が聞こえてくる。
どうやら外では焚火を囲み、宴会でも開いているようだ。
「気が付いたかマヤ?」
見るとそこには、ヴィルおじさんがいた。
「いて・・・!」
そしてワタシの右腕は、布でぐるぐるまきされていた。この右腕はあの時、ビッグボアの鼻っ柱を殴り付けた右腕だ。
「あまり無茶をするな・・・・。奇跡的に打撲だけで済でよかったな」
あれは決して奇跡なんかじゃない。【身体強化】によって強化されたワタシの拳は、あれ程の衝撃にすら耐えたのだ。まあ耐えたと言うか・・・実際には腫れ上がってこの通りだがな・・・・
「ワタシ・・・どれくらい寝ていました?」
「お前が気を失っていたのは3刻程だ」
3刻と言えば6時間程だ。どうやらワタシは、6時間もの間、気を失っていたらしい。
あのスキルの使用後には、疲労感が押し寄せるし、使用には、十分な注意が必要だろう。とくに連続使用後は、確実に気を失うと思って間違いはない。
今後【森羅万象】の連続使用は、控えるべきだろう。
「功労者であるお前を、あいつらは放って行こうとしていたからな。悪いが我が家で匿わせてもらった」
あいつらというのはおそらく、ワタシの義親達のことだろう。たしかにあの義親達ならやりかねない。あいつらはワタシのことを、家畜くらいにしか、思っていないからな。
「おや!? マヤが覚めたのかい!?」
するとマーサおばさんが、ドアを開けて中に入って来た。このマーサおばさんは、ヴィルおじさんの奥さんだ。
マーサおばさんは、葉っぱの上に何か乗せて、持って来ている。何かの料理だろうか? 湯気がもうもうと、葉っぱから立ち上がっているのが見えた。
「昨日仕留められたビッグボアの肉だよ! 功労者なんだから、あんたもお食べ!」
そのこんがり焼かれた肉は、とても美味しそうに見える。村が貧しいので、肉は滅多に食べられないご馳走でもある。
ぐぅぅぅ~
その肉を目にしたとたん、ワタシのお腹がその匂いで、空腹を訴え始めた。
「では・・・遠慮なく頂きます・・・」
「よく噛んで食べるんだよ!」
ワタシはその美味しそうな骨付き肉に、左手を伸ばすと、骨の持ち手を掴んで口に運ぶ。その様子をヴィルおじさんもマーサおばさんも、微笑ましそうに見守っていた。
「むぎぎ! 硬った! 獣くさ!」
だが久々に食べた肉は、とても硬く、焦げ味がして・・・獣臭かった。
そんなワタシの様子を、ヴィルおじさんとおばさんは、不思議そうに見ていた。
村ではご馳走にあたる、ビッグボアの肉を食べて、酷評するワタシに困惑したのかもしれない。
この村ではそんな肉の料理が、当たり前なのだ。変わったとすれば、それはワタシの味覚の方なのだろう。
どうやらワタシの味覚は、前世の肥えた味覚に、逆戻りしてしまったようだ・・・・
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