18:元大盗賊サッチャー
シムザスの街から30kmほど東に向かった海辺に、冒険者や旅人のために用意された、野営地があった。現在その野営地では聖騎士軍第4部隊が駐留し、天幕を広げ、旗を掲げていた。
その聖騎士軍第3部隊を任された男こそ、元大盗賊にして第4部隊隊長である、サッチャー
であった。
サッチャーは顎髭をたくわえ、長身で貫録の良い体系をした、大柄な男である。最近まで山賊をしていたサッチャーは、多くの山賊率いていた男で、その腹心を今でも周囲に護衛として侍らせていた。たサッチャーは窃盗は勿論、人攫い殺人にいたるまで、犯罪とよばれることは何でも犯してきた男だ。
そんな彼が恩赦を受けられるとあって、飛びついたのがこの聖騎士軍の遠征だったのだ。しかもシュルケル王子のお気に入りである彼は、遠征後はそのまま、王子の側近となり、爵位まで受けられる予定となっていた。
そんな彼が今回任された任務が、ある街道の安全性を確認することだった。
その街道とは辺境伯領に続く道で、魔族領に入るためには必要な街道であった。
ところが報告では、街道の途中にあった海岸沿いの村が、魔物の襲撃を受け、壊滅したという。その是非を確認し、この街道が聖騎士軍が進軍するのに、適切であるかどうかを、確認するのがサッチャーの任務であった。
「おうおめえら!! 辺境伯領まで確認に行ったにしちゃあ帰りが早えじゃねえか? しかも部下を二人も失ったんだってな?」
サッチャーは葉巻を口にしつつ、早めに帰還した、分隊である調査隊の面々を睨みつける。
「街道の途中に妙な砦がありやして・・・・その砦付近で魔物に襲われました・・・・」
そんなサッチャーに対して、調査隊の男は恐る恐る報告を始める。
「砦だと? この途中に砦があるなんて話は聞いちゃいないがな?」
報告を聞いたサッチャーは、その報告に対し、いぶかし気な態度をとった。
この野営地から街道を東に進めば、魔物に滅ぼされたという、集落跡に差し掛かるはずなのだ。それは複数の冒険者や旅人からの証言で、はっきりしていたことだ。だがその証言の中に、砦という話は一言も出ていない。
「その砦は滅んだ集落跡にありまして・・・・」
そこが滅んだ集落跡なら、集落の建物の残りか何かだと考えられる。もしかしたら避難所だった可能性も高い。そうサッチャーは思考を巡らせる。
「その砦には猫を連れた黒目黒髪の不気味な子供がおりました・・・・」
「子供だと? 滅んだ村の生き残りか?」
「しかも人には開けられないような巨大な城門までありやして・・・その城門には猫の文様が記してありやした」
「猫? もしかして聖獣カロンの・・・・?」
猫の文様で考えられるのは、ここらでは聖獣カロンの存在だ。聖獣カロンは旧神教で崇められる存在で、創世新教においては、ただの変種の魔物であるとされているのだ。ただ異教で崇められる程とあって、その戦闘力は強大であるとサッチャーも耳にしていた。
「そいつぁあもしかしたら・・・・聖人の再来かもしれねえぜ?」
そう言葉を口にしながら現れたのは、第4部隊を任されたはずのマークベンだった。マークベンは元王国一と言われた程の剣の達人で、その素行から犯罪者に身をやつしていた男だ。サッチャー同様恩赦を求めて、聖騎士軍に参加した者の1人であった。
「マークベン!! てめえなんでこんな場所にいやがる!? てめえの第5部隊はどうした!?」
「気にするこたあねえぜ? あれは副隊長に任せてあるからよぉ? それよりその妙な子供の話だ。あっしはその子供が、どうも強者である気がしてならねえ・・・」
マークベンは強者に対する嗅覚が鋭かった。しかも今回の聖騎士軍の遠征に紛れて、多くの強者と剣を交える気でいたのだ。そしてこの遠征中に、彼が命を奪った強者は数知れない。当然試し切りを称して、誰彼構わず切り殺す、残虐性も彼にはあった。
「確かに俺様もそのガキがどうもひっかかって仕方ねえってのは同感だぜ?」
「ならあっしを連れてその場に行きなよ。あっしは必ず役に立つぜ?」
「そう言うと思ったぜ・・・・。出来ればてめえみてえな殺人鬼は側に置いときたきゃあねえが、今回ばっかりはおめえがいた方が心強ええかもな・・・・」
サッチャーの危険を感じるための嗅覚も相当なものだ。この嗅覚こそが、彼が今まで生き残れてこれた、所以でもあるのだ。そしてサッチャーはその黒目黒髪の子供に、どこか不気味さと、恐怖を感じていたのだ。そしてその恐怖の理由を、この先で嫌という程、味わうことになるのだ。
その数日後、聖騎士軍第4部隊を率いて、サッチャーは報告にあった砦を目指していた。その日は晴天で、空が青く良く見渡せる日であった。そしてそれは、部隊がある狭い崖道に差し掛かった時に起こった。
「あの矢を射かけているのはどいつだ?」
サッチャーは側近の1人に尋ねる。見ると部隊の数人が崖道の途中で、上空に向けて弓矢を射かけていたのだ。
「さあ・・・・。鳥でもいたのでしょうか? 元山賊の荒くれ連中ですからねえ・・・気が荒くてしょうがありません」
「いや・・・待て・・・? あれは何だ? 虎に跨った子供だと・・・?」
サッチャーがふと弓矢の標的に目を向けると、上空に白虎に跨る黒目黒髪の子供が浮遊していたのだ。そこでサッチャーは嫌な予感がした。
そしてそこには、徐々に膨れ上がる水球が見えた・・・・
「やべえぜありゃあ! フルートヴェレの前兆だ!」
それを目にしたマークベンが、瞬く間に駆けだした。
「お、おう待て! フルートヴェレだと!? 大魔術のあれか!?」
その水球は見る間に膨れ上がり、不気味さを増していった。
「こりゃあいけねえ!! フルートヴェレがくるぞ!! 退避だ!! 退避いいい!! 」
そうサッチャーが部隊に命令を下すと、部隊は反転して、一気に崖道の先の広い道に引き返した。その途中崖下に転落しそうな者もいたが、仲間に助けられ、無事に全員広い道に行きついた。
ザザ~ン!! ドドドドドド・・・・!!
その直後、激しい轟音が鳴り響き、大津波が辺り一面を覆いつくした。
フルートヴェレとは、大津波を引き起こす、水の大魔術だったのだ。
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