15:マヨネーズ作りとマヤ
「それではこの卵を使って、マヨネーズを作ってみようと思います!」
ワタシは家の台所で、そう高らかに宣言した。
「「マヨネーズ?」」
するとセリアちゃんもメルちゃんも、困惑の表情で、その名を口にした。それもそのはず、2人はワタシにとって常識である、マヨネーズの存在を知らないのだ。
マヨネーズはサラダやパンにかけるだけでなく、様々な和え物や調味料に合わせて使える、万能の調味料である。そしてこの異世界の神が、ワタシに期待したものこそが、そのマヨネーズだったのだ。ワタシはこの日この異世界で、ついにそのマヨネーズを、作る機会を得たのだ。
「ベリーの油に、酸っぱい木の実の汁、塩、そしてこの卵・・・材料は全て揃いました!」
贅沢を言えば、酸っぱい木の実の汁ではなく、お酢を使いたいが、ないものは仕方がない。
油にはベリーから抽出したものを使用した。ベリーの油は土魔法の【結晶抽出】で、簡単に抽出することができる。
『確かマヨネーズというのは、神が君に作り広めることを宿命付けた、至高の調味料だったね?』
そのタイミングで、どこからともなくそんな台詞を吐きながら、カロンが子猫の姿で、のそのそとやってくる。きっとワタシの宣言を、耳にしたからに違いない。
「「神様が!?」」
そのカロンの台詞で、セリアちゃんとメルちゃんの表情が、困惑から驚愕に変わった。
そしてワタシの額からは、その気まずさにだらだらと汗がにじんでくる。
「じょ・・・冗談はここまでにしましょうカロン・・・・」
「なんだ冗談か・・・」「冗談なの?」
『ふ~ん・・・・』
そんなカロンのジト目をよそに、ワタシはマヨネーズ作りを開始したのだった。
まずマヨネーズ作りで問題となるのが、生卵を使うことによる食中毒だ。卵食中毒の原因のほとんどが、サルモネラ菌によるものと聞いていた。
「ええ!? 生卵を使うの!? お腹を壊さない!?」
「卵なら目玉焼きだよ!」
そして生卵を使うことへの懐疑的な声は、セリアちゃんとメルちゃんからも発せられた。
「大丈夫です! ワタシには魔法がありますから!」
「むう~!」
ワタシは目玉焼きを作ろうという、メルちゃんの膨れた頬をよそに、森羅万象のスキルに、食中毒菌を取り除く方法を問いかけた。すると森羅万象のスキルが、その道筋を描いていく。
すると食材に含まれる毒を特定し、その毒素と原因を取り除くという、都合の良い魔法が存在することがわかった。それが光魔法の【浄化】と呼ばれる魔法だ。【浄化】は汚れを取り除き、アンデットなどの魔物にも効果があるので、使える幅の大きい魔法でもある。
こうしてワタシの魔法に【浄化】の魔法が加わった。
習得魔法一覧
水魔法 【操水】
土魔法 【操土】【操鉄】【結晶抽出】
生命魔法 【身体強化】【治療】
光魔法 【浄化】
闇魔法 【黒渦】
精神魔法 【思考加速】
植物魔法 【植物改良】
合成魔法 【魔石操作】
そしてワタシの残り奇跡ポイントが消費され残り2となった。
残り奇跡ポイント2・・・・
「浄化!!」
ワタシはさっそく【浄化】の魔法を卵に施した。すると卵が眩い光につつまれた。そして光がおさまると、殻の表面についた汚れが消滅し、ピカピカとなっていたのだ。どうやらこれで食中毒菌は、殺しつくせたようだ。
「すごいマヤちゃん!」
「卵が綺麗になったよ!」
「これでこの生卵でお腹を壊す危険性はありませんよ!」
『ボクは聖職者の使う高度な魔法が料理に使われる光景を始めて見たよ・・・・』
カロンは呆れながらその様子を見ていた。どうやら【浄化】は、聖職者の使う高度な魔法のようだ。だがワタシに言わせれば、高度だろうがなんだろうが、殺菌が可能ならそれでいいのだ。
「では・・・卵の中身を取り出します・・・・」
ところが改めて見ると、カカッポの卵はとても巨大だ。ワタシの知る鶏のものの、4倍くらいの大きさがあるのではないだろうか。こいつをあの卵のように、片手で割ることなどとてもできそうにない。
「その卵はこうするんだよ・・・・」
ワタシが卵を割りあぐねていると、セリアちゃんがその卵の割り方を披露してくれた。
その大きな卵は、頂点部分を包丁で軽く叩き、頂点部分に割れ目を入れて、殻を取り除くのだ。そして残った薄皮を包丁で切り取ると、頂点部分に穴があく。その穴から中身を器に移せば、綺麗に中身を取りだすことが可能だ。
こういった知識の部分は、現地人がいると本当に助かる。
卵は卵黄部分を半分程取り分けて、さらに別の器に移し替えておく。今回マヨネーズに使うのは、この卵黄の部分のみだ。
ここからは本格的に、マヨネーズ作りを開始していく。
「まずはボールと、この泡だて器を用意します!」
ワタシはボールをテーブルの上に置くと、泡だて器を掲げた。
「なにその調理器具? 初めて見るよ?」
「見たことない形!」
どうやらセリアちゃんもメルちゃんも、泡だて器を見るの初めてのようだ。この泡だて器は、いつかマヨネーズを作るために、【操鉄】で作っておいた、鉄製の泡だて器なのだ。
「次にボールに卵黄、酸っぱい果汁、塩を入れていきます・・・・」
最初の塩加減は難しいので、徐々に混ぜながら、味を見ていくのがいいだろう。
「そしてひたすら混ぜます!!」
カチャカチャカチャ!!
「わああ! 面白い!」
そしてその様子に、なぜかはしゃぐメルちゃん。
ここからはベリーの油を、少しづつ加えながら混ぜていくのだ。そして液体が白っぽくなり、やがてクリーム状になっていく。
「完成です!!」
「「わあああ!!」」
ワタシがマヨネーズの完成を告げると、同時に姉妹から歓声が上がった。
『へ~・・・・。これがマヨネーズなのかい? どろっとしていて、見たことのないソースだ。匂いは・・・・くんくん・・・・。悪くはないね』
「うん! わるくないよ!」「お行儀が悪いよメル!」
テーブルの上にいたカロンは、ボールの中のマヨネーズを覗き込み、その匂いを確認する。それをメルちゃんが真似てはしゃいでいる。それを注意するセリアちゃん。
だがこれが真の完成ではない。料理は食べた後こそが真の完成なのだ。
「では各自にスプーンを配りますので、味見をお願いします・・・・!」
ワタシは緊張の面持ちで、各々にスプーンを配った。だがカロンはスプーンを持てないので、そのまま小皿に取り分けて、側に置いてやった。
ところが誰もがその初めてのマヨネーズに躊躇して、なかなかスプーンを入れようとしない。なので最初にワタシが、味見をすることにした。
「はむ・・・・」
ワタシはマヨネーズを一匙すくうと、口に含んだ。
ほのかに香る柑橘系の香りが良い感じだ。濃厚なカカッポの卵の風味がマヨネーズの味を引き立てている。これはこれで悪くない仕上がりではないだろうか?
「まあまあの出来だね・・・・」
「ふ~ん・・・・どれどれ?」
次にマヨネーズに匙を伸ばしたのはセリアちゃんだった。セリアちゃんはマヨネーズをほんの少し匙ですくうと、徐に口の中に入れた。
「ん? ・・・・ううん!!?」
そのセリアちゃんの反応に、皆が目を見張る。美味しいのか不味いのかどっちだ!?
「これ・・・・とんでもないよマヤちゃん!!」
それを聞くや否やメルちゃんも、マヨネーズに匙を伸ばす。そしてマヨネーズを口に含んだ。
「うううううん!! すっごく美味しいよこれ!!」
そしてマヨネーズを次々と、口に放り込み始める。
「こらメル! そんなに食べちゃだめでしょ! 味見なのよこれは!」
そんなメルちゃんを、セリアちゃんが再び注意する。
そしてカロンも徐に、取り皿のマヨネーズに舌を付けた。
『これはまずいよ・・・マヤ・・・・!』
「ええ!? カロンの舌には合いませんでしたか!?」
そんなはずはない! このマヨネーズは、某有名メーカーの味程はいかないまでも、それに近い程のクォリティーであるはずだ!
『そう言う意味じゃなくてマヤ・・・・! 戦争が起こるほどの美味しさだって言っているんだ!』
それならそうとはっきり言うがいい・・・・この紛らわしい猫め・・・って戦争!?
そんなカロンの言葉に、ワタシは戦慄を覚えた。
これは前世でワタシが見た、ネットにおける歴史上の話ではあるが、確かに食べ物が原因で起こった戦争はいくつか存在している。スパイス戦争やアヘン戦争が、その大きな戦争の例だ。まあこのマヨネーズが、その原因になるとは、ワタシにはとても思えないが・・・・
こうしてこの日、初めてのマヨネーズは、完成をみたのだった。
残る問題は、どうやってこのマヨネーズを、この世界に普及させるかだよね・・・・
[マヨネーズの完成により奇跡ポイントに3加算されました!]
そして今回のマヨネーズの完成により、嬉しいことに奇跡ポイントに3も加算された。
残り奇跡ポイント5・・・・
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