09:水の精霊とマヤ
『あれは勇者の率いる聖騎士軍さ・・・』
再び小屋の台所に戻ると、カロンはそう話を切り出した。
聖騎士軍とは、勇者を名乗るシュルケル第3王子によって結成された、魔族領に侵攻するための軍隊のようだ。その軍隊はいくつもの部隊に分けられ、先ほどの男達は、そのどこかの部隊の、一員だという話だった。
そんな正規軍がどうしてあんな粗暴な連中なのだろうか?
『きっと君達の村を襲ったのもその連中だよ』
次にカロンは姉妹に向き直り、そう言葉を続けた。セリアちゃんとメルちゃんは神妙な面持ちで、その話に耳を傾けている。
聖騎士軍は国の兵士だけでなく、徴兵された山賊やならず者で、構成されているようだ。また軍の頂点にいる勇者も、悪い噂の絶えない人物だという。
そんな構成の軍隊なら、まっとうな軍隊ではないのかもしれない。
「カロンはどこでその情報を?」
『街や村にある旧神教の教会がボクの主な情報源さ』
旧神教は聖獣を崇めているというし、カロンならその教会から、いくらでも情報が聞き出せるだろう。
『あの聖騎士軍はけっこう前からいてね。何ヶ月もかかけて、ゆっくりと魔族領を目指しているのさ。その途中で略奪も繰り返しているというもっぱらの噂さ』
何ヶ月もかけて? 大軍による行軍は時間がかかると聞くが、聖騎士軍はそこまで規模が多い軍隊なのだろうか?
『聖騎士軍の総勢は2万程と言われている・・・・』
2万!? ボーロ村の人口は50人程度で、その周囲の村も、その位と聞いたことがある。おそらくこの国の人口密度は、かなり低いと思われる。そして人口の少ないであろうこの国で、2万人はかなりの規模なのではないだろうか?
『まあ・・・・それが真実ならだけどね・・・・』
戦国時代の軍隊などは、軍隊を強く見せかけるために、多めにその人数を申告することがあったようだ。この世界でも同じようなことが、行われているのかもしれない。だとするとその真の人数は、いったい何人くらいなのだろうか?
『おそらくだが聖騎士軍の大将である勇者は、今頃シムザスの街に滞在しているよ。するとその近隣の村や街が、襲われる可能性は高いね・・・・』
「まってください・・・・。それってあのボーロ村もってことですか!?」
ボーロ村はシムザスの街からは徒歩で5日もかかる距離にある。ワタシ的にはその距離は遠く感じていたのだが、この世界に住む人の常識では、また違うのかもしれない。東京から歩いて5日といえば、せいぜい隣の県まで行けるくらいだ。そう考えればボーロ村も、シムザスの街の近隣に考えても可笑しくはない。
『あそこには君の植えたあの問題の木もあるだろ? 気になるなら急いだ方がいいかもしれないよ?』
カロンの言う問題の木とは、言うまでもなくワタシがボーロ村の崖の上に植え替えた、知恵の実の木だろう。
ワタシはボーロ村の安否も気になるが、新たな火種となりかねない、あの知恵の実の木も、回収に向かう必要がある。
「それではここの守りは、任せても構いませんか?」
ところが聖騎士軍が、仲間を引き連れて、いつこの場所に、戻ってくるかわからない。そんな中でこの猫砦を放置するわけにもいかない。そこでワタシはカロンに、この猫砦の守りを、頼むことにした。
『いや。ここの守りは精霊に任せるよ。ボクもこの周囲の状況は正直気になるし、君を乗せて一緒に周囲を見て回ろう。ボクなら君の倍の速さで、ここら辺りを見て回れるよ』
カロンは風の魔法を使い空を飛べるし、そのアドバンテージは正直非常に高い。ワタシが走って森を切り抜けるより、何倍も早く移動が可能だろう。
それにカロンの言う精霊というのが、この猫砦を守ってくれるのなら心強い。
「わかりました。それでは移動についてはカロンにお任せします。それで・・・その精霊というのは?」
『ああ。ボクの周囲をよく見てごらん。周囲に小さな光が、飛んでいるのが見えるだろ?』
カロンの周囲には、いつも青と緑の光の粒が舞っている。大きな白虎の姿になれば、さらにその数は多くなり、彼の幻想的な様子を、演出しているのだ。
「まさかその周囲に舞っている光が精霊ですか?」
『それは下級精霊なのさ。精霊は魔力が好きだから、魔力を発散すると、周囲に集まってくるんだよ。ボクは風と水の属性を持っているから、周囲には水の精霊と風の精霊が多く集まってくるね』
今まで気付かなかった・・・・。
この世界に生まれてからというもの、ちょくちょくこの蛍のような光を目撃はしていた。魔法を使う時などは、とくに周囲に色のついた粒が集まっていたのだ。何度かこいつが気になり、捕まえようとしたことはあったが、その度に消えて見えなくなっていたのだ。まさかこいつが精霊だったとは・・・・。
だがカロンは、こんな小さな、幻と見まがわないその光で、いったい何が出来るというのだろうか?
『まあ見ていてごらん・・・・』
カロンがそう言うと、カロンの目の前に、青い光が集まり始めた。
「魔法!?」
今まで黙って話を聞いていたメルちゃんが、前のめりになって、その光の収束を見つめる。セリアちゃんはそれとは裏腹に緊張の面持ちだ。
やがてその光は水の玉となり、人の形に姿を変えた。それは小さな女の子の姿で、まるでお化けのように足はない。その子はふよふよと浮いており、周囲をあちこち飛び回り始めた。
「精霊!?」「お姉ちゃん凄いよ!」
ワタシも姉妹も、初めて見るその精霊を、興奮気味に見ていた。
「あれが精霊ですか?」
『ああ。ボクの魔力を集積させて、ここらの水の精霊を集めて1つにしたんだよ。集めた水の下級精霊は中級精霊へと進化するんだ。そして精霊は魔力をあげた人のお願いを聞いてくれるというわけなのさ』
精霊の使用人のようなものだろうか? 見た感じ幼い少女の姿で、頼りなさげだが、精霊と言えば魔法を使う。それなりには役に立つのだろうか?
『念のためあと2体くらい用意しておこう・・・・』
そう言うとカロンは再び精霊を集め始め、さらに2体の中級精霊がそこに現れた。そこには総勢3体の精霊が、気ままに飛び回っているのだ。やがてその水の精霊3体は、カロンの前に整列した。
『その体に馴染んだようだね?』
今まで中級精霊が飛び回っていたのは、試運転みたいなものだろうか?
『それじゃあお願いだけど、この砦とそこにいる姉妹を守ってくれ』
そい言うと中級精霊3体はお辞儀をして、再び周囲を飛び回り始めた。返事をしないところを見ると、どうやら彼女らは、言葉をしゃべることが出来ないようだ。だがこんなに自由奔放なやつらで、本当に大丈夫なのだろうか?
ワタシがそんなことを思っていると、やがて中級精霊の1体が、大き目の水玉を作り始めた。
バシャン!!
「うわ!!」
そしてワタシに投げつけてきやがった。ワタシはすんでのところで、その水玉を躱す。
『大方君が、失礼なことでも考えていたんだろ? 精霊には人の心がわかるから気を付けないと』
「そういうことは早く言ってください・・・・」
ワタシはカロンをジト目で見ながら、台所に散らばった水を、操水で集めて掃除した。
『さあマヤ・・・・乗ってくれ!』
カロンは小屋の外に出ると、巨大化して白虎になった。先ほどの中級精霊3体は、まるでカロンを見送るように、再び整列している。
「おっきくなった!」「うわ! もしかして聖獣様!?」
どうやらセリアは、カロンの正体に気付いたようだ。その姿を知っているなんて、どこかにカロンの絵姿か、石像でもあるのだろうか?
「ワタシはこれから周囲の探索に向かいます! 今日中には帰れると思います!」
『何かあればそこにいる精霊に言うんだよ』
そう言うとワタシを乗せたカロンは、空に飛び立った。
「狡い! メルも乗りたい!」「こら! メルよしなさい!」
その間際騒いで頬を膨らませるメルちゃんが、とても可愛らしかった。いつかカロンに頼んで、一緒に乗せてあげようかな?
そんな様子を見送りながら、ワタシとカロンは猫砦を後にしたのだった。
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