02:スキル【森羅万象】とマヤ
【森羅万象】とは、あらゆる事物や現象を指す言葉だ。そのスキルは、使用者の願いを叶えるための手段を、使用者の頭の中にイメージとして描き伝え、魔法や知識によってその実現を可能にする。
そんなチート級のスキルに、たった今ワタシは目覚めたのだ。
現在ワタシの目の前には、狂暴な魔物ビッグボアが迫っており、今にも衝突しそうな状況だ。
村の自警団のヴィルおじさんや、村で雇い入れた冒険者は、駆けつけてきてはいるが、まだ離れた位置におり、間に合いそうにない。それは死が迫っていると言っても過言ではない状況だ。
走馬灯・・・・
周囲の風景はまるで、時間が遅くなったかのように、ゆっくりと流れ、次々と過去の記憶が、浮かんでは消えていった。
そんな時、ワタシが生まれる前の記憶までもが、呼び覚まされたのだ。
その時ワタシは、転生していたことを自覚した・・・・
「ステータスオープン・・・・」
そして無意識に、口から出たその言葉で、ワタシの目の前にはステータスウィンドウが開いたのだ。
ステータスウィンドウは前世でよく遊んでいた、RPGゲームなどによく出てくる、主人公の名前や年齢、強さなどの状態を書き記したあれだ。
そんなステータスウィンドウが、ワタシの目の前に開いたのだ。
そのステータスウィンドウは、どこか神秘的で、不思議な印象を受けた。
名前 マヨネーズ
年齢 5歳
HP 6/10
MP 300/300
STR 10
MAG 62
奇跡ポイント 3
スキル 【森羅万象】
比較する対象がないので、なんとも言えないが、そのステータスを見る限り、ワタシには高い魔術師の素養が、あると考えられる。
そして今ワタシが、生き延びるために必要なスキルが、この【森羅万象】のスキルではないかと、なんとなくだが思った。
「奇跡ポイント?」
【森羅万象】のスキルは、奇跡ポイントを1消費することで、使うことが可能だ。当然奇跡ポイントがなければ使うことはできない。そして現在の残り奇跡ポイントは3ポイントである。
ワタシはその奇跡ポイントを1消費して、【森羅万象】のスキルを使うことにした。
そして残り奇跡ポイントは2となった。
さて・・・・そこで何を願うかが問題だ。
前世でよく遊んだゲームなどでも、突進する系の魔物はよく見かけた。そんな魔物を倒すのに有効な手段が、落とし穴だったのだ。
その落とし穴にビッグボアを落とすことが出来れば、倒すことができるかもしれない。
「ワタシの目の前に・・・・落とし穴現れろ・・・・」
ワタシが【森羅万象】のスキルを使い、そう呟くと、次第にその手段がイメージとして、ワタシの頭の中に描かき出されていく。
足元にある地面の土に、魔力を流せば、操作して落とし穴を瞬時に掘ることが出来る。それは土魔法の【操土】という魔法だ。
【操土】は土の他に、砂や石の操作も可能だ。
ワタシは【森羅万象】のスキルにより、【操土】という魔法の、そんな知識を得ることが出来た。
早速ワタシは【操土】を使い、目の前に落とし穴を掘った。
ボゴ~ン!!
「ブギィ!?」
するとビッグボアはワタシに接触する直前に、地面に突如現れた落とし穴に、両前足がはまり込んでしまう。
「ブギィ! ブギィィィィ~!」
ビッグボアは大暴れし、その落とし穴から抜け出そうと、必死でもがいた。
「ビッグボアが穴に落ちた! 今ならいけるぞ!」
ヴィルおじさんは槍を振り回し、一気にビッグボアに向けて横から突き出した。続けて冒険者2人も駆けつけその加勢に加わる。
ふう・・・・。これでなんとか危機的状況が回避できる・・・・
その時ワタシに疲れがどっと押し寄せ、頭がくらくらしてきた。【森羅万象】の使用は、思いのほかワタシに、負担を掛けるようだ。
そしてその後状況は、再び悪い方に向かった。
「ぬ! 槍が刺さらん!」
「こいつ硬すぎるぞ!」「矢も弾かれる!」
そのビッグボアがあまりに丈夫なためか、ヴェルおじさんの槍も、冒険者2人の攻撃も、あまり効果を見せることがなかったのだ。
「身体強化か!? やっかいな!」
そのヴィルおじさんの言葉から、ビックボアに攻撃が上手く通らない理由が、【身体強化】というものの効果だとわかった。
「ブギィィィィィィ!」
そして大暴れするビッグボアは、徐々にその穴から抜け始めた。
「このままではまずい!」
残り奇跡ポイントはたったの2・・・・このポイントがあれば、欲しい魔法があと2つは手に入るのに・・・
だが迷っている場合ではない。
ワタシは再び奇跡ポイントを消費して、【森羅万象】のスキルを使い、その状況をなんとかしようと考えた。
そして残り奇跡ポイント1となった。
「あのビッグボアをあの穴に押し返さないと・・・・」
ワタシが虚ろな意識でそう呟くと、【森羅万象】のスキルが、すぐにそのイメージを描き始めた。
「あのビッグボアの鼻っ柱を殴りつける?」
なんと【森羅万象】の提示した手段は、そんな単純明快な手段だった。
いくらなんでもそれはないんじゃなかろうか? いくら穴にはまって無防備とはいえ、こんなちっこい幼女のパンチが、あの巨大なビッグボアに通用するとは思えない。
「身体強化・・・・?」
そして【森羅万象】のスキルは、次にワタシに【身体強化】の魔法を、使うことと示してきた。
それは今目の前で、ビッグボアが使っているものと同じ魔法だ。そして【身体強化】の知識が、ワタシの頭の中に流れてきたのだ。
【身体強化】とは術者の膂力と、丈夫さを向上させる魔法だ。しかもその強化の度合いは、つぎ込む魔力により、変化するという。
なるほど、ビッグボアはその【身体強化】で丈夫さを上げて、攻撃を通りにくくしていたんだな。 ついでに【身体強化】を使えば、膂力も上がり、怪力になるんだ。それもつぎ込む魔力次第で効果が高くなる。
つまりありったけの魔力をつぎ込み、【身体強化】を使い、ビッグボアの鼻っ柱を殴れと?
ワタシのひ弱な腕力で、【身体強化】を使ったところで、果たして目の前の、頑強なビッグボアに通用するだろうか? ビッグボアもワタシと同じように、【身体強化】を使っているはずだ。
ただ可能性があるとすれば、ワタシのつぎ込む魔力が、ビッグボアを上回っていて、ワタシの【身体強化】が、ビッグボア以上に、効果を発揮することだ。
そして今のワタシには、それ以外の手段はない。
「え~い! もうどうとでもなれ!」
ワタシは【森羅万象】のスキルが導くままに、ありったけの魔力を全身に巡らせ、【身体強化】の魔法を発動する。
「うおおお! これならいける!」
すると先ほどとは打って変わり、力が内からあふれ出て来た。高揚感と言うべきだろうか? まるでオーラでも、体から噴き出ているようだ。
丁度その時、穴から抜け出し始めた、ビッグボアの鼻が、ワタシの目の高さまで上がって来ていた。
「よせマヤ! そんな小さな手で殴っても・・・・!」
そのワタシの行動に、ヴェルおじさんが、静止を呼びかけるがもう止まらない。
「どおおおおりゃああああ!」
ドッカ~ン!!
ワタシは力いっぱい、その鼻っ柱を殴り付けた。
するとワタシは、体重差もあってか、その反発で後方へ吹き飛んでいく。
あれ? ダメだった?
「ブゴオオォォォォ~・・・・!」
だが見るとビッグボアは、悲し気な表情で、再び穴に沈み始めていた。
「やった・・・・」
しばらくして、どっと背中に衝撃が伝わり、地面に打ち付けたことがわかった。
そして【森羅万象】を使ったことによる、更なる疲労が、ワタシに押し寄せる。ワタシの意識は、そのまま遠ざかっていく・・・・
「ヴィル! 今ならビッグボアの身体強化も解けている!」
「ああ! わかっている!」
「やっちまえ!」
最後に見えたのは、ヴェルおじさんと2人の冒険者が、ビッグボアに次々と刃を突き立てるところだった。
こうしてワタシの初めての死闘は、衝撃とともに幕を閉じたのだ。
その時、ワタシのステータスウィンドウに、何かが表示された・・・・
[格上の魔獣、ビッグボアの討伐の成功により、奇跡ポイントに1加算されました!]
なんですと?
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