02:ラザ村の悲劇
第三者視点~
シムザスの街から海に向かう途中の街道に、ある平和な獣人の村があった。その村の名を皆、ラザ村とよんでいた。
そんなラザ村には、平和に暮らす、犬の獣人の一家がいた。
一家は4人家族で、狩人で元冒険者の父親のオードを中心に、妻のサロン、長女のセリア、幼い次女のメルとともに仲睦まじく暮らしていた。
そんな獣人の一家に、ある時不幸は訪れた。それは後に、ラザ村の悲劇と語り継がれる出来事であった・・・・
その日、勇者シュルケル率いる聖騎士軍の一部隊が、獣人の村、ラザ村に遠征に関する、物資の徴収に赴いた。
だがそれは徴収とは名ばかりの、ただの虐殺であったのだ。
「殺しつくせえええええ!! 異教徒である悪しき獣人達に死をもたらすのだ!!」
「「「おおおぉぉぉぉぉおおお!!」」」
シュルケル王子の掛け声とともに、多くの兵士がラザ村になだれ込み、略奪と殺戮の限りを尽くしたのだ。あちらこちらで悲鳴が鳴り響き、村中が阿鼻叫喚となっていた。
「おうおう・・・・。勇者さんよう? ちょっとやりすぎじゃねえですかい? 見れば金になる獣人もわんさかいるのに勿体ない・・・・」
そんな中馬に跨り指揮を執る、シュルケル王子の背後から、1人の優男が現れた。彼は長い髪に無精ひげを生やしており、腰には長剣を帯剣していた。
「マークベンか・・・・? ここはお前の持ち場じゃないだろう? お前に任せた部隊はどうした?」
「退屈だったんで持ち場で自由にやらせてやす」
彼らの言う持ち場とは、徴収対象の街や村のことであり、彼が徴収を任せれた村は、ラザ村より5キロ北東に離れた場所にある別の村であった。自由人であるマークベンは、その部隊を部下に任せ、シュルケル王子のいるラザ村にやってきたのだ。
「こちらに滅法剣の腕が立つ獣人が暮らしているらしいんで、どんな奴か見に来たんでさあ」
「なるほど・・・・そっちはお前に任せた方がよさそうだな?」
「お任せくだせえ・・・」
そう言いつつマークベンは、その目をぎらつかせた。
それは突然の出来事だった・・・・
ストーン!!
「ひゃ・・・・!」
「!!・・・・・お母さん!!?」
洗濯物を干している途中、飛来した矢が、サロンの胸を貫いた。そして娘のセリアとメルの目の前で、母親のサロンは唐突に命を落としたのだ。
「うわああああん! お母さん!」
「だめよメル!!」
メルはすぐに母親に駆け寄り、鳴き声を上げ始めるが、すでに危険を悟っていたセリアは涙を拭い、そんな妹を止めようと、抱き留め周囲を窺う。
すると既に目前に、下卑た笑みを浮かべる、数人の兵士の姿が見えていた。
「こっちだセリア、メル!!」
すると後方から、父親のオードの呼ぶ声が響いた。即座にセリアはメルを連れ、父親の元に駆け付ける。
「お父さん!!」
「お母さんが・・・!!」
娘二人が駆け寄ると、すぐにオードは話を始めた。
「いいか良く聞けセリア・・・・森での過ごし方は教えたな?」
狩人の父からすでにセリアは、森での過ごし方を学んでいた。魔物に見つからない森での潜み方、魔物の接近を感知するやり方、それは狩人としての教えだったが、今回はその目的が違っていた。
「これから後ろを振り返らず、まっすぐに森へ入れ・・・・そして海を目指すんだ」
「海って・・・? でもお父さんは!? お母さんもまだあそこに・・・・」
「ああ・・・。お母さんと一緒にすぐに俺も追いつくさ・・・・。それまでメルを守ってやれ、セリア・・・・。メル・・・・お姉ちゃんの言うことを良く聞くんだぞ・・・」
そう言うとオードはメルの頭を優しくなで、次に腰から帯剣していた剣を引き抜き、娘2人に背中を向けた。
そしてゆっくりと接近しつつある複数の兵士に歩み寄る。
しばらく放心状態のセリアだったが、すぐに覚悟を決め、唇を強く噛みしめた。
「お父さん!!」
「駄目よメル・・・・お父さんの言いつけを守らなきゃ・・・・」
セリアの目には涙が溢れるが、同時にその目には覚悟も芽生えていたのだ。妹のメルを守り抜き、この状況を生き抜くのだと・・・・。
「この先は行かせん!!」
「ぎゃはははは!!」
父親の怒気を孕んだ声と、下卑た男の笑い声が響く中、セリアは妹の手を引き、森へと駆け込んだのだった。
「やあ!!」
ズシャ!!
「ぐあああ・・・!!」
オードは無双の強さで、次々と襲い来る兵士達を、斬り伏せていった。彼はその昔、剣の強さから『狂犬』の二つ名でよばれた冒険者であった。その剣の腕だけなら、すでにAランクに届くと、噂すらされていたのだ。
オードはすでにこの周辺の兵士は全て斬り伏せていた。そして母親の亡骸を連れ、娘2人の後を追わんとするその時だった。
「やあ・・・強いねえあんた・・・・」
ゆらりとオードに近付く、優男が現れたのだ。優男は、ぎらりと光る不気味な目をしており、危険な香りのする男だった。その男は勇者パーティーの1人である剣の達人、マークベンであった。
「狂犬のオードだろあんた?」
「だとしたら何だ?」
マークベンがそう質問するや否や、オードは剣を構えた。一方マークベンは剣を下に向け、いまだに構える様子はない。
それを好機と見たオードが剣を振り上げ、先制攻撃に移ろうとするその矢先だった。
ズシャ~!!
「初見殺しのファントムだ・・・・」
その勝負は一瞬でついた。いつの間にか突き出していたマークベンの剣が、オードの胸を貫いていたのだ。
「噂に聞く狂犬がこの程度たあな・・・・がっかりだぜ」
そう言うとマークベンは、オードの胸から剣を引き抜いた。
マークベンはその二つ名を、『幻夢』と呼ばれていた。それは彼の剣が、どこからともなく、幻のように現れることから名付けられた二つ名だった。そしてこのファントムこそ、彼を無敗たらしめている、要因の1つだったのだ。
「すまん・・・セリア、メル・・・・」
最後にオードが見たのは、剣を肩に担ぎ、赤い夕日に向けて歩き去る、優男の姿だった。
そして倒れたオードは、妻サロンの亡骸の傍らで、無念にも息を引き取ったのだ。
森には危険な魔物が多く生息しているため、冒険者や狩人以外が、うかつに踏み込むことはない。ところが森に入った2人の獣人の娘には、逆にそれが、いい隠れ蓑になっていた。なぜなら魔物巣食うその森に、自ら進んで入る兵士は、いなかったからである。
そして海にはデスキャンサーとよばれる最悪の魔物が生息している。デスキャンサーの動きは鈍く、こちらから手を出さなければ、容易に逃げ出せる相手だと、セリアは父親から教わっていた。
そして海の岩場には、小さな洞穴があり、もしもの場合の避難場所だと、聞き及んでいたのだ。
セリアはメルの手を引き、夜通し森を駆け抜け、一心不乱に海を目指したのだ。
彼女が目指したのは、その海の岩場にある洞穴だった。そこへ行けば安全だと、知っていたのだ。
セリアもメルもあちこち木の枝や葉で、切り傷だらけになったが、そんなことには構っていられなかった。何時あの賊の男達に、追いつかれるかという、不安があったからである。
ようやく姉妹が森を抜け、海にたどり着いた頃には、夜が明け朝日が見えていた。
「お姉ちゃんお城・・・・」
眠い目をこすり、姉妹が見上げると、そこには城壁がそびえ立っていたのだ。いったい誰がこんなものをと、2人は放心し、立ちすくむのだった。
それから2ヶ月程前のこと、ある海の村跡には、白虎化したカロンに跨るマヤがいた。
マヤは黒髪をなびかせ、海風をその身に受け、崖の上から海を眺めていた。
腰には短刀を帯刀し、どこか垢抜けた感じを受ける。
『海に着いたのはいいけど・・・・これからどうするつもりだいマヤ?』
「今考え中・・・・」
寝ぼけた目をこすりつつ、途端に幼げな返事を返すマヤ。
どうやら垢抜けた様子は、気のせいであったようだ。
『あっそ・・・・。考えるのはいいけど、君気付いてる?』
そんなマヤを細目で見ながら、カロンは尋ねる。
「そうですね・・・。そろそろお腹が空いてきました」
ぐううう~・・・
『君には呆れたよ・・・・』
そんな中砂煙を上げ、マヤとカロンに接近する何かがいた。
それは無敵の死神と称される、あのデスキャンサーの大群だったのだ。
死は着々とまた、マヤの元へと、近付いているのであった・・・・
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