17:ペトラの水魔法とマヤ
「うちのペトラに水魔法が発現した。マヤ・・・お前何か心当たりはないか?」
ヴィルおじさんはなにか切実な様子で、ワタシにそう尋ねて来た。
あれから数日後、ヴィルおじさんがワタシの植物庭園を訪ねて来たのだ。それは次期に夕方になろうという時分、ワタシが植物庭園にある野菜や木々に、水魔法で水を散布している頃合いだった。
話を聞くところによれば、ペトラちゃんはワタシの真似をして、自宅の畑に魔法で水やりをしようとしていたようだ。すると本当に出来てしまったらしい。それは短い時間であったが、これからの練習次第では、ペトラちゃんは水魔法を使いこなせるようになるという。
「それはめでたいです! それにしてもなぜワタシに心当たりがおありだと?」
この世界で魔法が使える者は、100人に1人くらいの割合だと言われている。その中でも貴族が圧倒的に、その割合を占めているのだ。それは貴族が魔法を使える者を、率先して引き込もうとするからに他ならない。この国で圧倒的な力を持つ、貴族に目を付けられるということは、大出世の道が開かれたと思って間違いない。
つまりペトラちゃんの将来に、明るい未来が約束されたのだ。
しかしなぜその出来事に、ワタシが心当たりがあると、思ったのだろうか?
『それはペトラが、マヤの知恵の実を口にしたからだよ』
するとワタシの足元にいたカロンが、ワタシの問いに対してそう答えた。
「知恵の実ですか? あれは確か魔力が増えるだけの木の実だったと思いますが・・・」
魔力が増えるだけの木の実を食べて、どうして魔法に目覚めるというのだろうか?
ちなみにこの場合の魔力というのは、最大MPのことを指している。なぜなら知恵の実の効果は、最大MPを2上昇させるというものだからだ。
そして検証したところ、知恵の実を食べて最大MPが増えるのは、1日1回に限定されている。しかもその効能は、たった1欠片でも口にすると、現れるようだ。
すると知恵の実を食べた量が重要ではなく、食べた日数が問題になってくる。
ペトラちゃんが知恵の実を食べた期間は10日間程である、するとペトラちゃんの魔力が増えた量は、せいぜい20程度ではないだろうか?
『人はね・・・・。魔力が増えると、魔法が使えるようになる生物なのさ。それでペトラは自らに適応する属性魔法の、水魔法を覚えたんだろうね?』
つまり重要なのは、増えた魔力量ではなく、魔力が増えたという、事実のみだということなのだろう。するとペトラちゃんはが、魔法に目覚めた原因は、魔力が増えたことということになる。
どうやらペトラちゃんが、魔法を覚えた原因は、ワタシにあったようだ。
「でもワタシも知恵の実を食べていましたが、魔法なんて習得できませんでしたよ?」
ワタシもペトラちゃんくらいは、知恵の実を食べてはいた。だが魔法を習得したなんてことは一切なかった。
それはいったいどういうことだろうか?
『さあ・・・? マヤはもともと普通ではないからね。ペトラとは一緒にしない方がいいと思うけどね』
つまりワタシは例外ということだろうか? まあ自らその自覚が、ないとも言い切れないが・・・・
「やっぱりお前が原因だったのか・・・・。それにしても知恵の実とはどういうことだ?」
『知恵の実は以前マヤが創り出して、この植物庭園に植えていた木に生っていたものさ』
「そ、そうです。もうここにはありません!」
ここにはなくても、崖の上の目立たない場所にはある。例え戦争の原因になるような植物でも、人間の都合でその命を、むやみに刈り取るようなことは、ワタシはしたくはない。ただ戦争になるような事態も避けたいので、人目につかないところに移動はしている。
「それは良かった。戦争の原因になるような木の実が、この村にあるというだけでも身の毛がよだつからな」
そのヴィルおじさんの言葉を聞いて、ワタシはそっと目を横に逸らした。
「だがお前が知恵の実の木を、創れることだけは秘匿しておけよ? 今度はお前の奪い合いで戦争になるぞ? 口が裂けても・・・・ぜったいに誰にも話すなよマヤ!?」
「こ、心得ておりますとも・・・・」
権力者達が知恵の実の木を生み出せるワタシを、奪い合おうとするであろうことは、安易に想像できる。そんな戦争に巻き込まれるのは、ワタシも御免だ。
「だがペトラが魔法に目覚めたのは正直嬉しいが、秘匿すべき事態が大きすぎて正直複雑な気分だよ・・・・。しかも知恵の実という大きすぎる借りに押しつぶされそうだ」
ヴィルおじさんは、今度は頭を抱えてそんなことを言いだした。
ヴィルおじさんは体は大きいが、それに反して繊細な部分がある。時たまこうやって、くよくよ考えていることがあるのだ。
「気にすることはありませんよ! ヴィルおじさんには今まで色々良くしていただきましたし、ワタシは恩返しが出来て嬉しいくらいですよ! 不可抗力ではありますが・・・・」
ヴィルおじさんは、ワタシが飢えていた時に、自らが貧乏にも拘わらず、食べ物は恵んでくれたし、忌み子であるワタシを、まるで我が子のように、可愛がってもくれた。
そんな大恩あるヴィルおじさんには、これくらいでもまだ、恩返ししきれないくらいだ。
「そうだな・・・・。お前の場合はこれも不可抗力なんだな・・・・」
『そうだね。マヤには不可抗力なんだよ・・・・』
ヴィルおじさんとカロンは目を合わせると、お互いにため息をつきながら、そんなことを口にした。いったい彼らは、何が言いたいというのだろうか?
「いいかマヤ? これからは何かつくる前に、必ず俺かカロン殿に相談しろ? でないと俺の胃が持たん・・・・」
『そうだよマヤ。相談することは大事なことさ・・・・』
そしてヴィルおじさんとカロンに、小一時間ほど、コンコンとお説教を受けた。
「それとなマヤ。ついでにお前に相談したいことがあってな・・・・」
「なんでしょう?」
どうやらヴィルおじさんは、ペトラちゃんの件以外にも、何かワタシに相談事があるようだ。
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