12:海の食材集めとマヤ
「デスキャンサーを料理して食べましょう!」
ワタシは唐突に、皆にそう提案した。
目の前に転がる巨大なデスキャンサーの躯は、もはやワタシには豪華な食材にしか見えなかった。その巨大なハサミ・・・・赤光りした立派な甲殻・・・・それはもはや、巨大なカニと言っていい。
「こいつを見て食欲がわく意味がわからん!」
「俺もさすがにこの虫を口にするのは御免だぜ!」
「デスキャンサーは虫ではありません! 甲殻類です!」
感性の違いか、ヴィルおじさんとダイソンさんの、デスキャンサーに対する拒否感が半端ない。だが甲殻類は決して虫などではない。それだけは言える。
「わかったからそんなに睨むなマヤ! 最近のお前は圧がすごいんだ! 圧がよ!」
圧とは何のことだろうか? まさかワタシみたいな幼女に、威圧を感じるとでも言うのだろうか? だとしたら失礼な話だ。こんなにまで可愛らしい幼女だというのに・・・・まあここでダイソンさんと、もめてもいいことはないので、ここで睨むのはやめておく。
「まあどっちにしろ、マヤのその気持ちはまったく理解できんが・・・・」
「あたしはデスキャンサーには少し興味があるね!」
「・・・・・」
どうやらモニカさんは、ワタシの同士のようだ。同士が1人でもいると嬉しいものだ。やはり女同士だから、気が合うのだろうか?
「まあ聞け2人とも・・・・。今回は昼くらいには、村に帰還しなければならない。なぜだかわかるかマヤ?」
ワタシ達の住むボーロ村では、あと1~2ヶ月程で麦の刈り取り時期を迎える。その前に行う仕事といえば、持続的に行われる雑草対策だ。
ようするに人海戦術で、麦畑に生えている雑草を、手作業で抜いていくのだ。
つまりこの日ボーロ村で、昼から行われる作業は、広大な広さの麦畑の草むしりである。
「昼からは草むしりでしたね・・・・」
ワタシはつまらなそうにそう答えた。
「ではせめてデスキャンサーと、茹でるための海水だけでも、回収させてください!」
「そのデスキャンサーと海水だが・・・・どうやって運ぶつもりだ?」
勿論その運搬の手段には、最近覚えた、闇魔法の【黒渦】を使う予定だ。【黒渦】は、命なき物体を、闇の渦に引きずり込み、収納することができる魔法だ。
でも皆に【黒渦】を見せるのは、これが初めてとなるのだ。
とりあえず【黒渦】を使い、デスキャンサーを収納するところを、見せておくとするか・・・・
「うお! デスキャンサーの死骸が渦の中に沈んでいく!」
「闇魔法なんて初めてみたよ・・・・」
「お前・・・土魔法以外にも使えたのか!?」
『へえ・・・・。マヤは土魔法と闇魔法の使い手なんだね?』
その巨大なデスキャンサーの躯が、徐々に闇の渦に沈んでいく様子に、皆それぞれ驚愕しているようだ。
「この黒渦を使えば、収納したものを取り出すのも、自由自在なんです!」
ワタシは収納したデスキャンサーのハサミを、闇の渦から引っ張り出し、皆に見せ付けながらそう口にした。
「ならせっかくだから、四半刻程この海で、食べられそうなものを回収していくとしよう。その方が村の皆も喜ぶ」
「やった!!」
ヴィルおじさんの許可が出たところで、ワタシはさっそく、海の波打ち際の方に向かうことにした。器を造って、海水を回収しておくのだ。
ついでに塩も造って回収しておきたいが、そこまでするにはとても時間が足りないかな?
そんな時こそ、【森羅万象】のスキルに頼るべきだろう。幸い奇跡ポイントは、先ほど3つも取得している。
では何を願いながら、【森羅万象】のスキルを使うべきだろうか? 叶わない願い事をすれば、再び【森羅万象】のスキルの発動は失敗に終わり、ワタシは気を失ってしまうだろう。
願うなら確実に、叶いそうな願い事をする必要があるのだ。
海水を加熱し、水分を蒸発させれば、塩を作ることが可能だ。だがこの方法で塩を得るには、とても時間が足りない。
それならろ過のような方法はどうだろうか?
海水の中に含まれる塩は固体だ。ろ過して海水から水を取り出せば、塩だけが残るはずだ。だがそもそも土魔法の【操土】を使えば、この方法は可能なのではないだろうか?
「操土!」
ワタシは壺の中に集めた海水に、試しに【操土】をかけてみることにした。すると確かに点在する砂粒のような、固体の存在を感じることができた。
「集まれ!」
その粒を海水の中央に集めると、白い塊が出来上がった。
「う~ん・・・・。これだと塩以外にも、ゴミとか混ざっていそうなんだよね」
その白い塊を、摘まみ上げてよく見てみると、砂やゴミなども、混ざっているように見えた。
「それじゃあ願い事はこれしかないか・・・・」
海水に含まれる、塩だけを判別して、取り出せるといいな・・・・
ワタシは【森羅万象】のスキルを使い、そう願ってみたのだ。すると瞬く間にそのイメージが、描かれていく。
海水に魔力を流し、海水に含まれる固体を意識することで、その結晶の形が判別することが可能。塩の結晶をもつ固体を判別し集めることで、海水から塩のみを取り出すことができる。それを可能にする魔法が、土魔法の【結晶抽出】だ。
【結晶抽出】は物質に含まれる固体を、結晶として判別し、文字通り抽出できる魔法だ。
そしてワタシの習得魔法に、【結晶抽出】が加わった。
習得魔法一覧
土魔法 【操土】【結晶抽出】
生命魔法 【身体強化】
闇魔法 【黒渦】
残り奇跡ポイント2・・・・
「結晶抽出!」
ワタシは【結晶抽出】を駆使して、じゃんじゃん塩を量産していった。塩は【操土】で操作が可能だったので、作ったそばから浮遊させて、壺の中に運んだ。
初めは塩の結晶の形の判別で、手間うとも思ったが、そんなことはなかった。その海水に含まれていた塩以外の固体の結晶は、その色で簡単に判別することができたのだ。
例えば炭素の結晶は黒く、マグネシウムの結晶は鉄色で、硫黄の結晶は黄色いのだ。塩の結晶は、宝石のようでもあったが、その色はまさに、塩そのものの色をしていた。
『君のその魔法は古代魔法だね?』
塩を量産していると、いつの間にかカロンが側にいて、そんなことを尋ねて来た。ワタシがこの世界に生まれてこのかた、古代魔法という言葉は、初めて耳にした言葉だった。
「古代魔法とは何ですか?」
『君は知らないで古代魔法を使っているんだね・・・・』
カロンによると古代魔法は、かつてこの世界で使われていた魔法で、今はほとんど使われていいないという。古代魔法は物体に魔力を流して、感覚的に使う魔法で、自由度の高い魔法のようだ。ただし不安定で、使用者の精神状態次第では失敗もよくあるという。しかも習得が困難で、使える者が限られたため、非効率とされて、あまり使われなくなったようだ。
今の時代、魔法を使う際には、呪文を唱え、確実に発動させているという。ただしいくら呪文を唱えても、その属性に適応がなければ、その魔法は使えないようだ。
それは古代魔法でも、今の魔法でも変わらないという。
ならワタシにもそのうち、使えない魔法が出てくるのだろうか? だが今のところその気配はない。
「お~い! マヤ! 食材が集まったから回収してくれ!」
そんなことをカロンと話していると、いつの間にか食材が集まったようで、ヴィルおじさんが声を掛けて来た。
「森の果物のに・・・この大きなのはウニに貝ですね・・・・」
「こいつはモニカが取って来たんだ。貝はともかく棘のやつは食えねえから、止めとけって言ったんだがな・・・・」
「猫ちゃんの鑑定魔法では、毒の反応は棘の部分だけだった! 棘にしか毒がないなら、中の身は食えるに決まっている!」
え? カロンは鑑定魔法も使えるの? しかも毒の判別ができるなんて羨ましい。
『鑑定といってもボクのは毒の判別だけさ。まあボク達聖獣にはそもそも毒が通用しないから、人間に使ってあげるくらいだけどね』
この先食材を集めるなら、その毒の鑑定魔法は必須だな。そのうち【森羅万象】を使って習得しておこう。
そのウニや貝は、前世で見たものよりも、一回り以上は大きく、ウニなんて大玉のスイカくらいのサイズがあった。
「この棘のやつはたぶん食べられますよ」
我がままを言えば、ウニは醤油で食べたいが、醤油は今のところ、目にしたことすらない。ウニは加熱すれば、そのまま食べられたはずだ。そのまま火にかけて、棘をとって割って、中にある黄金色の身を頂くのだ。塩ウニもいいが、食べるならまず、シンプルな焼ウニがいいだろう。
「どうだか・・・・。マヤは幼いし、あのデスキャンサーを食おうとする程の悪食だからな・・・・」
ダイソンさんは呆れながらも、そんなことを口にする。
「まあ調理は任せてくださいよ。度肝を抜いてさしあげますから」
「ほう? 言ったな? その言葉忘れるなよ?」
会話が終わると、【黒渦】を使って収穫物の収納に入る。
「ウニと貝はやはり入りませんね・・・」
【黒渦】では命ある物は、収納できないのだ。貝もウニも命ある生物と判断され、渦の中に引きずり込めなかったようだ。
「できれば凍らせてもらいたいのですが・・・えっと、カロンさん?」
『カロンでいいよ。この貝と棘のやつを凍らせればいいんだね?』
カロンは快くウニと貝の冷凍を、引き受けてくれた。
冷凍済みのウニと貝は、問題なく【黒渦】で、収納することができた。
「それじゃあ皆! 村に帰るぞ!」
そのヴィルおじさんの号令で、皆村への帰路についた。
こうしてワタシの初めての海遠征は、無事に終了したのだった。
カロンという新たな仲間を得て・・・・
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