11:聖獣とマヤ
「ま、魔物!?」「・・・・!」
その白い虎柄の子猫が現れると、皆に緊張が走る。そしてダイソンさんとモニカさんが、剣をその子猫に向けた。
デスキャンサーを一瞬で凍らせたのが、目の前の子猫なら、そいつはかなりの強敵に違いないのだ。皆が怯えるのも無理のない話だ。
「待て! 全員そいつに手を出すな!」
するとヴィルおじさんが、その2人の行動を制止するように、そう声を掛ける。
「そいつは噂に聞く聖獣かもしれん!」
聖獣ということは、目の前の子猫は、敵ではないということだろうか?
先ほどもワタシを襲いかけたデスキャンサーが、凍らされているのだ。目の前の子猫は、ワタシを助けてくれたのではないだろうか?
「あ、あの・・・助けてくれてありがとうございます・・・」
とりあえずワタシは、助けてもらった礼を、述べることにした。
そんなワタシの様子を、ヴィルおじさんは、びくびくしながら見守っている。
『礼はいいんだけどさ・・・・マヤ。無茶は止めてくれよ? ボクの目の前で、君がお亡くなりになれば、ボクは神に顔向けできないじゃないか』
すると再び少年のような声が、ワタシの頭の中で響いた。テレパシー的なものだろうか? 間違いなくその声は、目の前の子猫から、発せられたものだろう。
そして同時にその子猫が、あの神の関係者であることがわかった。彼はあの神がワタシにつけた、監視かなにかだろうか?
そしてワタシの名前は、どこで知ったか、とうに子猫は知っているようだ。
「あ、あの・・・・貴方は聖獣さんで間違いないですか?」
ワタシは目の前の子猫が、聖獣であることを、彼の口から確かめることにした。彼が聖獣であるという確証を得るだけでも、ワタシ以外の3人の緊張が和らぐと思ったからだ。
『そうだね・・・ボクはカロン。聖獣の1柱さ・・・・』
どうやら目の前の子猫、カロンは、聖獣で間違いないようだ。だが皆の緊張が和らぐには、まだ何か足りないようだ。皆から受ける気配から、ワタシはそう感じた。
「聖獣カロンは、確か白虎の聖獣と聞いていたが・・・?」
するとまだ信用できないのか、ヴィルおじさんが、恐る恐るカロンに尋ねる。
ヴィルおじさんが言うには、どうやらカロンは、白虎の聖獣のようだ。なら目の前の白い虎柄の子猫は、その子供だとでもいうのだろうか? それともカロンの偽物だろうか?
『今のこの姿はカモフラージュさ。あの姿で目の前の現れたら、君達はボクのことを恐れてしまうだろ? でもどうしてもというのなら・・・・』
そう言うとカロンは徐々に大きくなり始め、体長5メートルはあろう、巨大な白虎の姿となった。どうやら彼が、本物のカロンで間違いないようだ。
「こりゃあ間違いなく聖獣カロンにちがいねえ・・・・」
「ああ間違いなく、本物だね!」「うお! でけえ!」
そのカロンの真の姿を見て、皆も納得したようだ。だがその巨大になったカロンは、恐怖の象徴とも言えよう。
目の前の白虎は、ワタシくらいなら、丸のみしそうなくらいに口が大きい。その生えそろった狂暴な牙は、見ただけでも、恐怖を感じるくらいだ。
その四肢はどれも、丸太のように太く、その先から生えた爪は、まるで刃物のようだ。
その白い猛獣からは、触れただけでも、八つ裂きになりそうなくらいの、圧倒的な恐怖を感じるのだ。
それとは裏腹に、その周囲には青や緑の光の粒が舞い散り、幻想的にも見える。
まさに目の前のそいつは、聖獣そのものだったのだ。
『でもこの姿を晒すのはあまり好きでないんだ。悪いけど子猫の姿に戻らせてもらうよ』
そう言うとカロンは再び縮み始め、もとの子猫の姿に戻った。もうその姿からは、あの狂暴な白虎の気配は、微塵も感じない。
そしてカロンの正体がわかったことで、皆の緊張は、粗方解けたように感じた。
「カロンさんはどうしてこちらに?」
ワタシはカロンに海に来た目的を尋ねた。まさか海水浴に来たわけではないだろう。
『君の監視をするためさ・・・・』
ワタシの監視? やはりカロンはあの神の依頼で、ワタシを監視していたのだろうか?
『ボクが君を監視していた理由はね・・・・君が神からどんな使命を受けて、この世界に生れ落ちたのか、どんな力を授かったのかを、見極めるためさ』
その話の内容から、ワタシに対する監視は、カロンの独断であるように感じた。そしてカロンには、神からワタシの情報が、あまり伝えられて、いないのではないだろうか?
「どうしてそんなことを?」
『君が危険な存在かどうかを、判断するためさ・・・・』
カロンは不気味に目を細めながら、ワタシにそう告げた。
神の使命を受けて、この世界に生を受けたであろうワタシが、危険とはどういうことだろうか? 歴代の転生者に、危険なやつでもいたのだろうか? そしてワタシがもし危険な存在であった場合、カロンはワタシをどうするつもりだろうか? やっぱ首チョンパとかか?
『神はね・・・悪く言えばおおざっぱなのさ。だから人に与える力や使命の大きさの強弱が、極端なことがあるんだ。ほら・・・人には過ぎたる力ってのがあるだろ? その調整を誤れば、この世界だってどうなるかわからないからね・・・』
なるほど。ワタシにマヨネーズと、美食を期待して、妙なスキルを与えるくらいだから、それもわからなくはない。
だがそれならワタシは目の前のカロンに、ワタシは危険じゃないとアピールしなければならないだろう。そのためには、あの神がワタシに期待していることを、カロンに伝える必要があるかもしれない。それがおそらく、神がワタシに与えた、使命とやらになるはずだから。
「えっと・・・・。マヨネーズと美食です・・・・」
ワタシはカロンに、ワタシの使命であろう2つを、唐突に告げた。
『はあ?』
するとカロンは、いぶかしげな目でワタシを見た。
「ワタシの使命ですけど?」
『美食? マヨネーズは君の真名だよね? それくらいは神から聞いているけど・・・君の真名が君の使命ってどういうことだい?』
確かにワタシの真名はマヨネーズだった。ワタシの真名を、あの神から聞いているなら、余計に困惑するだろうな。ワタシはマヨネーズについて、カロンに説明する必要があるだろう。あれがいったい、なんであるかを・・・・
「マヨネーズは本来調味料の一種なんですよ。そのマヨネーズをつくって、美食と一緒に世界に広めるのが、ワタシの使命なんです」
『不思議だ・・・・。君の言葉からはまったく嘘を感じない・・・・』
そのカロンの反応は、まるでワタシの言葉が、冗談であって欲しいような反応だ。
どうやらカロン的には、マヨネーズづくりと美食を広めることは、神の使命に、値しないことのようだ。
でも「美食は世界を平和にする」なんて言葉もあるくらいだし、あながち美食と、マヨネーズでも、世界は平和にできるのかもしれない。そう考えると、美食とマヨネーズも、重大な使命と思えなくもない。
「えっと・・・・嘘じゃないですから・・・・」
『君はこの世界のことを、もっとよく知るといいよ・・・・』
するとカロンは、怖い顔でそんなことを言って来た。カロンはいったいワタシに、何を伝えたいのだろうか?
まあそんなことをいくら言われても、ワタシの使命が、変わることはないがね。ゆくゆくは冒険者にでもなって、この世界を旅するのも、良いかもしれないな。そうすればこの世界のことが、少しはわかるだろうか?
なぜかびくびくしながら、ワタシとカロンの会話を聞いていた、3人をよそに、ワタシはまだ見ぬ世界に、思いをはせるのだった。
そして後でステータスを確認すると、嬉しいお知らせがあった。
[格上の魔獣、デスキャンサーの討伐成功により、奇跡ポイントに1加算されました!]
[聖獣との出会いを果たしたため、奇跡ポイントに2加算されました。]
なんと残り奇跡ポイントが、3ポイントに増加していたのだ。
聖獣との出会いが、まさかこんなに美味しいイベントだったとは・・・・
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