09:収納の魔法とマヤ
「それでは今日は、早めに床につきますので・・・・」
食事の片づけが終わると、ワタシは即座に寝床に向かった。
今お世話になっている、ヴィルおじさんの家では、就寝時は、居間で雑魚寝が基本だ。夫婦に4人の兄妹も含めて、騒がしく就寝するのだ。
だがその日ワタシは、土魔法で造った小屋で、1人で寝ると宣言してある。その小屋は帰宅してすぐに、ヴィルおじさんの家の横に、接触するように建てた物だ。
「何だマヤ? 子供なんだから気にせずうちで寝泊まりしても構わないんだぞ?」
「今日は1人で考えたいことがありますので・・・・それではお休みなさい・・・・」
ワタシが早めに寝床に向かった理由は、勿論【森羅万象】のスキルを使うためだ。
森で感じたあのもどかしさ・・・・もっと沢山の木の実や、あわよくばキノコや野草も持ち帰り、食の研究に勤しみたかった。
「アイテムボックスのような、沢山の物を収納できる魔法が欲しい・・・・」
さっそく【森羅万象】のスキルを使うと、ワタシは1人そう願った。
ワタシが欲しいのはアイテムボックスだ。だがその要求が過度な願いであれば、そもそもこの世界に、収納魔法のような概念がなければ、この願いは失敗し、ワタシは気絶状態に陥る。
そうなった時に、この寝床に引きこもっていれば、最悪覗かれても、ただ寝ているようにしか見えないだろう。翌朝何事もなかったように、起床してやればいいのだ。
だがその願いは、見事? 叶えられたようだ。
「なんだこの黒い渦は・・・・?」
そして奇跡ポイントは残り0となった・・・・
自らの魔力を、スキルに導かれるままに操作をすることで、特殊な空間を創り上げることが可能だという。その特殊な空間は、命なき一定量の物を、引きずり込むことが出来る闇の空間なのだ。それを可能にする魔法が、闇魔法の【黒渦】とよばれる魔法だ。
つまりこの【黒渦】こそが、ワタシのアイテムボックスとなるのだ。
そしてワタシの魔法に、闇魔法の【黒渦】が加わった。
奇跡ポイントはなくなってしなったが、アイテムボックスのためだ。悔いはあるまい。
習得魔法一覧
土魔法 【操土】
生命魔法 【身体強化】
闇魔法 【黒渦】
「禍々しい見た目だ。自らも吸い込まれそうで怖いな」
ワタシの足元に出現したその黒い渦は、まるでブラックホールのような見た目で、とても不気味に見えた。
「この岩を収納してみるか・・・」
試しに【操土】で造った岩を、その黒渦に収納してみることにした。
ズズズ・・・・
するとその岩は、まるで底なし沼にでも沈み込むように、その黒渦の中に消えた。
「本当にこれ・・・取り出せるんだろうな?」
黒渦に入れた物は、意のままに操り、取り出すことが可能なようだ。
「確かに黒渦の中に先ほどの岩が見えるな・・・・」
黒渦の中を覗き込むと、先ほど吸い込まれた岩が、まるで浮遊しているかのように、その中に見えた。
「あれを見ながら出てこいとイメージするんだな?」
ズズズ・・・・
ワタシがその岩に向けて、浮き上がって来いと意識すると、なんとその岩は黒渦から浮かび上がって、外に出て来たのだ。
「なるほど・・・・。これなら確かに収納し放題だな・・・・」
ワタシは黒渦から出て来た、岩を手に取り確認すると、その機能を実感した。これからはこの【黒渦】を使って、どんどん物を収納していける。
「よし! アイテムボックス、ゲットだ!!」
まあ・・・アイテムボックスでなくて、闇魔法の【黒渦】だがね。
こうしてワタシは、異世界ラノベの定番である、アイテムボックスのような魔法を、手に入れたのであった。
「マヤちゃん遊びに来たよ!」
「なにい~!?」
するとこのタイミングで、ワタシの小屋に尋ねて来た子供がいた。
子供はデリカシーがないので、例え1人で考えたいとか言っても、こうして平気で尋ねてくるのだ。その声の主は、末の次女でワタシと同い年の、ペトラちゃんに間違いない。
せっかくこれから【黒渦】を使って、色々試す予定だったのに・・・・
「ちぃっ!」
ワタシは舌打ちしながらも、その黒渦を跡形もなく消した。【黒渦】を見られて、騒がれるのも面倒だしね。
黒渦は一度創ってしまえば、いつでもどこでも、出し入れが可能なのだ。創る時の消費は大きいが、それを差し引きしても、便利なことこの上ない魔法だ。
「こらペトラ! マヤは1人になりたいそうだから、そっとしておいてやれ!」
そんなペトラちゃんを、ヴィルおじさんが引き止め、注意する。
「でも石の家見たいもん!」
この小屋の外見は確かに石の家だ。この小屋の材料は土だが、ここらの土は固めると白く変色するし、この家が石のように見えるのは仕方がない。
ここらでは木造のあばら屋が一般的なので、ペトラちゃんにとっては珍しいのだろう。
「悩み事も解決しましたし・・・少しぐらいなら構いませんよ」
ワタシは小屋のドアを開けると、外でもめる2人にそう声を掛けた。
「やったあ~! それじゃあ中も見せて!」
「こらぁ! ペトラ~!」
ワタシが許可を出すと、ペトラちゃんは遠慮なしに、小屋の中に駆け込んできた。
「ペトラもここでねる~」
そしてついにはそんなことを言いだした。
「こらぁ! 少しは遠慮なさいペトラ!」
「やあ! だってうち隙間風が多くて寒いんだもん!」
なるほど。それは切実な問題だな。
「わ、わかりました。その隙間風については、ワタシがなんとかしましょう・・・・」
この後ワタシはヴィルおじさんの家に再び戻り、家の修繕作業に、取り掛かることになった。まあ【操土】を使って、土で壁に出来た隙間を埋めていくだけだから、ちゃっちゃと済ませてしまったがね。
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