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08.ハーピー遭遇






 テケト山南部、山道の入り口へと到達。


 竜車で詳細を詰めた作戦から、まずは全員で淀みの位置を確認する。


 俺は長く細く息を吐いて、意識を集中させた。視界がうっすらとぼやけたと同時に、精霊の流れを感じる。大きな奔流のなか、渦巻く淀みを感じた。俺の位置から北東の方角の山の中腹、距離としてはさほど遠くはない。


 おおよその位置を確認したところで、意識を現実へと切り替える。各々方法は違えど鎮魂者だ。ほかの三人も、同じ場所に淀みを感じ意識を向けていた。


 あとは眼鏡くんの居場所であるが、ここはワフ頼みである。まずは斥候として、俺がワフに眼鏡くんの匂いを辿ってもらい現在地を探る。その間、三人には北東に向けて徒歩で進行してもらい、状況確認後合流する予定だ。


 三人とわかれ、ワフの背中にまたがると、山の中を駆け出した。山の斜面をハイスピードで進むのは久しぶりで、風圧と重力がなかなかの負担だ。しかし、いまは眼鏡くん救出のため時間を無駄にできない。


 しばらく進んだところで、ワフがスピードを落とし迷っているような仕草を見せた。淀みはまだ遠いが、なにか異常でもあるのだろうか。俺も確認しようと付近を見まわした時、見つけてしまった。




「まさか…………!」




 ワフから降り、眼鏡くんだったモノの側に寄る。それは無惨に散らばり、かろうじて眼鏡くんだと分かる程度の残骸に成り果てていた。


 予想はしてたけど、最悪の結末だ。


「ちくしょうッ」


 眼鏡くんのことはよく知らないが、顔を合わせた人がこんな状態になってしまったことが心にくる。

 ワフが慰めてくれようとしたのか、俺の側にそっと寄り――――思いっきりどつかれた。


「いって! なにすんだよ!」


 地面に尻もちをついた俺に、ワフは「わふっ」と短く吠え、眼鏡くんの残骸を顎で示した。




 …………………………あ。




 これただの()()()()()じゃん。眼鏡くんって呼んでたせいで、つい眼鏡が本体だと勘違いしてしまった。


 誤魔化すように笑いながら、呆れたような顔のワフの背中に乗ろうとした時――――大きな音が轟いた。


 淀みと同じ方向だ。倒木のせいか、地面が揺れ振動が伝わってくる。間違いなくハーピーと誰かが戦闘している。きっと眼鏡くんだ。失踪から半日以上経過しているが、無事生きていてくれた。


 今度こそ俺はワフの背中に乗り、淀みのほうへ駆け出した。






 ◆◆◆◆






 淀みに近づくに連れ、戦闘音が大きくなってくる。もう少しという距離で、俺は接近をやめ息を潜めた。

 相手に存在を気づかれていないというのは、大きなアドバンテージだ。ハーピーに隙があれば、眼鏡くんを回収してそのままワフの背中に乗り駆け出したい。しかし、相手には翼がある。飛行というスピードを考えると、背中を見せるような下手な打てない。


 頭を低くして生い茂った草に紛れる。ゆっくりとハーピーの進行方向を探りながら、目視できるところまで移動して、ついに眼鏡くんの生存を確認した。眼鏡はなく、服もボロボロだが、ハーピーと向き合うように距離をとっていて今すぐ死ぬことはなさそうだ。


 心の中でガッツポーズをするも、不快な風の音と倒木音で、喜びは上書きされた。


 四メートルの巨体が木々を踏みつけ薙ぎ倒しながら、精霊術で風を操っているようだ。片翼を一度正面に伸ばし、はらうように外側に翼をふるうと空気が振動する高音が響く。あれが、刃のような風の攻撃だろう。眼鏡くんが避けた方向の木が、倒れていく。眼鏡くんは、素早く祝詞を唱え、風を自身にまとって回避しているようだ。


 しかし、体力も限界なのか身体の重心が揺れている。敗れた服から見える肌は血が滲んでおり、結構やばい状況かもしれない。


(シーア)


 心の中で呼ぶと、シーアが姿を現す。


(ヤツの顔を、水で包んでくれ)


 そうお願いすれば、すぐにハーピーの顔に水球が現れまとわりつく。突然の攻撃に動揺したのか、ハーピーは巨体を揺らし暴れるが、この隙に俺はワフの背に乗って眼鏡くんのもとへ駆け寄った。


「眼鏡くん!」


「……お前、は」


 短く言って、限界にきたのか眼鏡くんは膝を崩した。とっさに腕を掴み、その身体をワフの背中へ引っ張り乗せる。あとは即座に撤退しようとしたとき、ハーピーが両翼を広げたのが見えた。


 なんかやばい気がする……!


「ワフ! シーア! 風と水の盾!」


 俺たちの前に二メートル四方サイズの、水の膜と渦まく風が二層で現れた瞬間、大量の羽根が飛んできた。一部は風の盾で別方向に飛散したが、ほとんどが水の膜を通過して威力を失い地面に落ちた。危なかった。


 水に覆われ視界も悪く、呼吸ができない状況で攻撃してくるなんてイカれてる。


「ワフ、撤退だ! 急いでくれ!」


 今度こそ、撤退しようと駆け出した時、ハーピーを包む水膜から、ガボボボとくぐもった空気の音がした。体内の空気を操って風にしたのか、クチバシから勢いよくふかれた空気によって、水鉄砲のように水膜が吹き出し飛散した。


「やばいやばいやばいやばいやばい」


 疲れて休んでくれたらいい。てか、お願いだから諦めてくれ。そう願うが鳥頭には届かなかったようだ。ハーピーは雄叫びをあげ、宙へと飛び上がった。


 すでに距離は二百メートル以上離れてるが、バサバサと高度をあげていく羽音が嫌に耳につく。三百メートル進み、四百メートルと離れたとき、ハーピーはこちらに向かって滑空してきた。


 あまりのスピードに考える間もない。やばいということだけが頭に浮かぶ。


「助けてくれ!」


 なんとか叫べたのはこれだけだった。


 ぶつかる直前、音と風圧に身を縮こめたとき、水と風と盾が展開したのが見えた。でも駄目だと思った。あの巨体と速度じゃ、こんな盾は通用しない。






「詰んだわ」











 しかし、その衝撃が当たることはなかった。


 大きな鐘のような音が鼓膜を痛めつける音量で響く。


 目の前には二メートルの盾を二人で押さえる、見知ったマッチョの姿。


「どうにか間に合ったようだな」


 背後から、双剣を構えたダークが現れて言った。


 なんだよ、お前らかっこよすぎかよ。


 安堵から身体の力が抜けていく。


 俺は頬を叩いて、自分に喝を入れた。一人では無理だが、金級(ゴールドランク)五人いれば切り抜けられる。


「よし、反撃の時間だ!」


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