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06.酔っ払いの本気






 あくる朝、俺は史上最悪の朝をむかえた。


 視界にうつるのは、大量の酒瓶と床に転がる男たち。


 裸にエプロン姿のスキンヘッドの男、血まみれの黒ずくめの男、ズタ袋を被った巨大な男。


 どうみても朝一で視界に入れていいものじゃない。情報量が多すぎる。


「あ、兄ちゃん、おはよ」


 目をこすりながら、寝ぼけまなこで、にっこり笑うズック。あのさ、そういうのは美女にしてもらいたいんよ。裸エプロン姿のスキンヘッドマッチョにされても、目に毒でしかないんよ。


「てか、この血だまりなに? 大丈夫なの?」


 血だまりで寝こけるダークを無視できずズックに問う。


「そいつは放っておいていい。兄ちゃんが寝たあと、『満月の夜は血が騒ぐ』って言いながら鳥捕まえてきたんだ。しかも部屋で首落とすし、なんか血浴びてるし。血生臭くてマジで迷惑だった」


「なにそれ怖い。鳥はどこいった?」


「そのままダメにしても良くないし、宿の人に渡した」


「えらい」


 ダークは大丈夫そうだ。ズックの言う通り血生臭いのでとりあえず放っておこう。


 ニャンちゃんを見れば、寝息が聞こえなくてゾッとした。見れば、かすかに胸は上下している。死んでるのかと思って焦った。しかし、ズタ袋なんか被ったまま寝て、本当に大丈夫なのだろうか。ズタ袋ごしに酒のんでたし、微妙に心配ではある。


「ニャンちゃん、生きてるか」


「うるせぇ。死ねクソ殺すぞ」


「…………ニャンちゃん?」


「…………なあんてニャン! びっくりしたー?」


「寝起きで素がでたな?」


 にゃははと裏声で笑いながらニャンちゃんは上体を起こした。ドスのきいた声で暴言を吐く姿は、見た目と一致しているがやめて欲しい。ふつうに怖い。まだキャラを作っているニャンちゃんのほうが良いと思ってしまった俺は、すでに毒されてるのかもしれない。


 朝からカオスまみれで気分は落ちたところだが、せっかくパーティとして集まったのに、なにも行動しないってのももったいない。


 近場で手頃な悪霊を調べて、ひとまず討伐してみることを俺は提案した。既存パーティで金級(ゴールドランク)を目指すことは多々あるが、新規パーティで金級(ゴールドランク)が集まることなどなかなか難しい。そもそも全員金級(ゴールドランク)というのも珍しい。変な奴らだが、鎮魂者(レクイエマー)としての興味はある。


 ズックとニャンちゃんから賛同を得て、ダークを起こすと俺たちは鎮魂者(レクイエマー)組合(ギルド)へと向かった。






 ◆◆◆◆






「え、依頼を受けた?」


 鎮魂者(レクイエマー)組合(ギルド)の窓口で、職員から衝撃的な事実を告げられた。


「はい、昨夜ヒンジさんが依頼を受注されました」


「待って。ヒンジって誰?」


「兄ちゃん、多分あの眼鏡だ」


あの眼鏡くん、ヒンジって名前だったのか。って、今はそれどころじゃない。


「眼鏡くんが依頼を受けたってことか?」


 昨晩、強さを証明だとかなんとか言ってたような気がする。それが討伐とは思いもしなかった。


「ごめーん、ニャンちゃんが煽りすぎちゃったかにゃー」


 それはそうなんだが、それよりも――――


「眼鏡くん、そんなに強いのか?」


 手もとの依頼表を見ながら俺は問う。


『――緊急依頼――


 【異常個体】ハーピー【討伐依頼】


 ・推奨級:銀級(シルバーランク)高位〜金級(ゴールドランク)

 ・現在地:テケト山南部(予測)

 ・被害:モーブ村・五ヘクタール(畑)。テケト山南部・未確認。

 ・体長:およそ四メートル。

 ・特徴:風属性。人属的な頭部・胸部と、鳥属的な翼・下半身をあわせ持つ。

 』


 どうみてもソロで倒しにいくものではない。

 俺なら出来るかと考えるが、まず無理だ。ワフは風属性がかぶる。相殺されて攻撃が通らないだろう。シーアの水属性は治癒と浄化特化型だ。格下の悪霊でもなければ、蛇の姿を利用した巻きつきもできない。

 しかし、霊術師ならどうだ? 俺のように精霊獣ではなく、精霊の力を借りて術を行使する霊術師ならば可能なのか?


「無理だ、勝てない」

「死んじゃうにゃー」

「彼奴はこのパーティでも最弱」


「受注しただけで、飛んだって線は?」


「普通に考えたらそうなるにゃー」


 そう、普通ならそんな無謀なことはしない。しかし、普通じゃなければ? 俺たちは眼鏡くんを見殺しにすることになる。それは大問題だ。


 俺たち鎮魂者(レクイエマー)は、悪霊と戦うために多かれ少なかれ精霊の力を借りる。精霊というのはデリケートで、罪悪感などの悪感情を不純物としてとらえる。つまり、どっかの拍子でそれが原因で悪霊が発生することがあるのだ。

 鎮魂者(レクイエマー)は精霊とも縁深い。ともすれば、自分の悪感情が淀んで精霊と混じり、悪霊そのものになる事が起こり得る。鎮魂者(レクイエマー)としては致命的だ。


「ってことは、選択肢はひとつしかねぇじゃんか」


 すでに現状を聞いてしまった以上、見捨てず救いにいったという自負を得なければならない。たとえ眼鏡くんが死んでいたとしても、だ。


「全員至急装備の確認! 終わり次第、ズックは片道分の物資調達。ニャンちゃんは竜車の手配。ダークは、宿の清算と荷物の回収――――」


 そこまで言って、俺はハッとした。つい指示を出してしまったが、俺は現状リーダーでもなんでもない。しかし、予想外にもズックたちの反応は早かった。


「兄ちゃん、補給食と薬品のほかに必要なものは?」


「五人分の防寒着。かわりに薬は最低限で良い。速度最優先で頼む」


「了解」


「ニャンちゃんは問題なし、終わり次第ダークに合流するにゃー」


「我輩はいつまでに戻れば良い?」


「今が八時、十時までに戻れないと思った時点で回収を中断してこちらに来てくれ」


「承知した」


 これは驚いた。即席闇鍋パーティのくせに、驚く程に指示が通る。これがハイ級のパーティか。


「俺はここで、眼鏡くんが本当に出立したのかと、ハーピーの詳細データを調べる。作戦は道中で組み立てるから、遅くとも二時間以内に出立だ。以上」


 それぞれが動きだす。

 まず俺は多めの寄付金を渡し、職員を二人ほど確保した。こういうところが、融通のきく鎮魂者(レクイエマー)組合(ギルド)のいいところである。


 ひとりには、眼鏡くんが関門を出たかの確認と、過去の戦歴を確認してもらう。

 もしまだ街にいるなら騒ぎ損だが、それが一番良い。次に、眼鏡くんが本当に有力者で、ひとりで討伐可能だとわかるだけでも良い。俺の勘が、どちらも可能性は薄いと訴えるが、不確定なら調べるべきだ。


 もうひとりの職員には、悪霊ハーピーのデータ集めを任せる。組合(ギルド)には、鎮魂者(レクイエマー)に出す依頼書以上に詳細なデータが蓄積されている。依頼書作成時の聞き取りの詳細から、過去同一悪霊の討伐履歴と報告書。淀みから発生する悪霊は、ひとつとして同じ個体はない。しかし、淀みの場所や実体のもとの類似性で、悪霊の見た目と性質は似かよる。羽根があれば鳥であり、鳥であれば風属性の精霊の特性をもつ。そこから名前を借りる。過去のデータを得ることは、戦うための最も大事な武器だ。


最初に確認したのは眼鏡くんの戦歴。

金級(ゴールドランク)到達条件の大型討伐は、初戦が十二人パーティでの討伐履歴だった。個人討伐については履歴すらない。やはり、眼鏡くんがハーピーを一人で討伐するのは不可能だろう。遭遇したら逃げるのも難しいかもしれない。


「関門から連絡を受けました。昨晩、やはり出立したとのことです」


「やっぱりか」


 職員から報告を受け、俺は静かにため息をついた。期待はしていなかったが、これで俺たちが眼鏡くん救出作戦を実行するしかなくなった。

 あとは、ハーピーに遭遇していないことを祈るしかない。もし遭遇していても、生きてさえいてくれれば御の字だ。四人もいれば、救出と撤退は可能だろう。


 データを集め、書き留めながら脳内で整理していると予定より早く全員が集合した。


「お前ら、眼鏡くんを救出しにいくぞ」


「おう」

「いくにゃー」

「嗚呼」


 慌ただしくも、闇鍋パーティの初陣が幕を開けた。

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